大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年01月03日 | 植物

<2196> 大和の花 (409) ヤブコウジ (薮柑子)                                ヤブコウジ科 ヤブコウジ属

          

 山地の林内に生える常緑小低木で、高さは20センチから30センチになり、群生することが多い。葉は長さが4センチから13センチほどの長楕円形で、先は尖り、基部はくさび形。縁には細かい鋸歯があり、表面には光沢が見られる。ごく短い柄を有し、茎の上部に集まって互生する。

 花期は7月から8月ごろで、前年枝の葉腋に直径7ミリ前後の小さな白い花を下向きに普通数個ずつつける。花冠は5裂し、腺点が見られる。葉に隠れるように下向き加減に咲くものが多く、写真には撮りづらい。核果の実は直径5ミリほどの球形で、10月から11月ごろ赤く熟す。この実が印象的で、庭に植えたり、鉢植えにして正月飾りにしたりする。また、紫金牛(しきんぎゅう)の生薬名により薬用植物としても知られる。根茎を煎じて咳止めや化膿止めにする。

 北海道(奥尻島)、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国、台湾に見られ、大和(奈良県)では全域に見られ、極めて多い植物の部類に入る。また、『万葉集』や『源氏物語』に登場するヤマタチバナ(山橘)はヤブコウジとされ、『万葉集』には、あしひきの山橘の色に出でよ 語らひ継ぎて逢ふこともあらむ(巻四・669・春日王)と見え、ほかにも4首にヤマタチバナは詠まれているが、全てが色鮮やかな赤い実に関する歌で、ヤマタチバナのヤブコウジはこの印象的な赤い実によって万葉植物の仲間入りをしたわけである。 写真はヤブコウジ。花と実。右から2枚目の写真は金剛山山麓の民家近くの林縁斜面で撮影したもので、園芸品の逸出かも知れない。 元日の紙面眩しき日和かな

<2197> 大和の花 (410) マンリョウ (万両)                                   ヤブコウジ科 ヤブコウジ属

                     

 林内や林縁、岩場などに生える常緑低木で、高さは30センチから1メートルくらいになる。直立するものが多く、樹皮は灰褐色で、上部に枝葉が出て繁る。葉は長さが4センチから13センチほどの長楕円形で、先はやや尖り、基部はくさび形。縁には波状の鋸歯があり、質は厚く、両面とも無毛。ごく短い柄があって互生する。

 花期は7月から8月ごろで、枝先に散形花序を出し、直径1センチに及ばない小さな白い花を多いもので10数個つける。花はやや下向きに開き、花冠は5深裂し、裂片は反り返る。核果の実は直径8ミリほどの球形で、11月ごろ赤く熟す。実は青臭く食用に向かないが、野鳥はよく食べる。マンリョウ(万両)の名はセンリョウ科のセンリョウ(千両)よりも実の多いことによる。

 本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では中国、台湾、東南アジア、インド等に見られるという。大和(奈良県)では全域的に広く見られ、庭木や鉢植えにされているものも多く、縁起のよい名によって正月飾りにも用いられる。江戸時代には人気を博し、明治時代の記録では50品種を越えるほど増え、今は赤実だけでなく、白、黄、橙色の実をつける園芸品が見られる。 写真はマンリョウ。左2枚は花。次は鈴なりの若い実と花。右端は赤く熟した実。花の写真は植栽のもの。ほかは自生と思われる。

   蕎麦を食ひ雑煮を食って年を食ふ

 

<2198> 大和の花 (411) カラタチバナ (唐橘)           ヤブコウジ科 ヤブコウジ属

           

 山地の林内や林縁に生える常緑小低木で、高さは大きいもので70センチほど。あまり枝を分けることなく上部に葉をつける。葉は長さが10センチから20センチほどの披針形で、先は尖り、縁には波状の鋸歯がある。両面とも無毛で、表面は鮮やかな緑色で互生する。

 花期は7月ごろで、葉腋に数センチの柄を斜上し、散形状の花序を出して直径が1センチに満たない白い小さな花を10個ほどつける。花冠はマンリョウに似て5深裂し、反り返る。核果の実は直径6、7ミリの球形で、初冬のころ赤く熟し、翌年の春まで花序に残ることが多い。実は赤いものばかりでなく、白色や黄色の園芸品種も見られる。

 本州の茨城県または新潟県以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では広い範囲に点在的に自生しているようであるが、産地、個体数ともに少なく、希少種にあげられている。花の感じがミカン科のタチバナ(橘)に似るヤブコウジ(藪柑子)の古名ヤマタチバナ(山橘)に比され、この名がある。漢名は百両金で、ヒャクリョウ(百両)の別名を持つが、こちらはマンリョウに比されたと言われる。 写真はカラタチバナ。実は矢田丘陵。花は春日大社萬葉植物園。

 心臓も地球も変はりなく動きゐるよ謹賀新年めでた

 

<2199> 大和の花 (412) イズセンリョウ (伊豆千両)                ヤブコウジ科 イズセンリョウ属

                        

 少し湿った照葉樹林内やその林縁などに生える常緑低木で、枝に乱れが多く、高さは大きいもので1.5メートルほどになる。樹皮は紫褐色で、皮目が目につく。葉は長さが5センチから17センチほどの長楕円形で、先は鋭く尖り、基部はくさび形。縁に波状の鋸歯が見られるものが多い。表面は濃緑色で、光沢があり、裏面は白色を帯びる。1センチ前後の柄を有し、互生する。

 花期は4月から5月ごろ。雌雄異株で、葉腋から総状または円錐状の花序を出し、乳白色から黄白色の筒状花を集めてつける。花冠は長さ5ミリほどで、先端は5浅裂する。液果の実は直径5ミリほどの球形で、翌年の春ごろ乳白色から黄白色に熟す。

 イズセンリョウ属の仲間は熱帯から亜熱帯に多く、世界に100種ほどが見られると言われ、日本には九州より南部に見られるシマイズセンリョウ(島伊豆千両)と本種の2種が自生する。本種は本州の茨城県以西、四国、九州、沖縄、及び中国、台湾、インドシナ半島など広く分布するという。大和(奈良県)では南北片寄ることなく、シカによる食害がないようで、奈良公園や春日山の一帯には多く見られる。

 ときに庭木や鉢植えなどにされるようであるが、材の利用は聞かない。イズセンリョウ(伊豆千両)の名はセンリョウ科のセンリョウに似るのと、源頼朝所縁の伊豆山権現で知られる熱海市の伊豆山神社の社叢に多く見られることによるという。 写真はイズセンリョウ。左は雄花、中は雌花、右は実(いずれも奈良公園の春日大社付近)。    獺祭の室に籠りし三箇日

<2200> 大和の花 (413) ツルマンリョウ (蔓万両)                    ヤブコウジ科 ツルマンリョウ属

                         

 照葉樹林の林床に生える常緑小低木で、あまり分枝しない枝はつる状に伸び上がるが、他物に巻きついたり絡んだりすることなく、1メートルほどに斜上した後、自然に倒れ、そこに根を下ろし、先端がまた伸び上がる。これを繰り返し、林床を被うように広がる特徴がある。

若い枝は緑色で、古くなると黒褐色に変色する。葉は長さが数センチから10センチ弱の長楕円形もしくは狭倒卵形で、先は尖り、縁には鋸歯がなく、やや革質で、両面とも無毛。また、葉の表面は濃緑色になり、ごく短い柄を有して互生する。

 花期は6月から8月ごろ。雌雄異株で、雌雄とも葉腋に白い小さな花を束生する。花冠は5深裂し、雄しべは5個、雌しべは1個で、雄花では雌しべの退化が見られ、雌花では雄しべの発育が悪い。雌花は咲き終わった後、萎れ、翌年の4月から5月ごろ子房が膨らみ、実となる。その実は直径5ミリほどの球形の核果で、その年の9月ごろ赤熟する。ツルマンリョウ(蔓万両)の名はつる状になる枝に因むもので、マンリョウ(万両)のような赤い実をつけることによる。

 自生地は奈良、広島、山口、鹿児島、沖縄と西日本に点在し、国外では中国、台湾に見られるという。日本で最初に発見されたのは奈良県の吉野町河原屋の妹山(いもやま)樹叢においてで、奈良県にはほかにも、吉野町山口の高鉾神社、東吉野村小の丹生川上神社中社、同鷲家の八幡神社、宇陀市榛原自明の初生寺、同檜牧の御井神社で、境内地の社寺林内に自生地がある。妹山樹叢と丹生川上神社中社の自生地は国の天然記念物、他の自生地も奈良県の天然記念物に指定され、ツルマンリョウ自体は奈良県で希少種、環境省で準絶滅危惧種にあげられている。

 このように大和(奈良県)におけるツルマンリョウの自生地を見ると、ほとんどが社寺の関係林下にあり、周囲が開発されるなか、照葉樹林をともなう自然林がその社寺の無闇に立ち入れない聖域の場所的環境によって守られ、ツルマンリョウに適した生育場所が保持されたことによって残存したものと見られている。太古の時代にはもっと広い範囲に自生していたことが想起される。 写真はツルマンリョウ。左はツボミをつけた枝。右は赤く熟した実のついた枝木と実のアップ(ともに丹生川上神社中社)。

   棒杭に烏がとまる真冬かな

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿