大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年04月11日 | 植物

<2294> 大和の花 (483) アマナ (甘菜)                                               ユリ科 アマナ属

              

 草刈りなどの行き届いた明るい棚田の畦や林縁などに見える黒い外皮に被われた鱗茎を有する多年草で、地中の細い茎に長さが10センチから25センチの線形の葉をつける。葉は2個が向かい合わせの形で地上に伸び出し、一見、根生葉のように見える。また、葉は幅が1センチ弱、中央が窪み、U字形になり、軟らかく、表面は緑色。裏面は紫色を帯び、中脈がしばしば白い条になる。

 鱗茎は甘く、食用になるのでアマナ(甘菜)の名があるという。「菜}は食べられることを意味する。別名のムギグワイ(麦慈姑)は鱗茎がクワイ(慈姑)に似て、麦畑に生え出すのが見られたことによるという。また、鱗茎は良質のデンプンを含み、光慈姑(こうじこ)という生薬名で知られ、日干しにしたものを煎じて喉の痛みに服用され、強壮にも用いられて来た。

 花期は3月から4月ごろで、高さが15センチから20センチの細く軟らかな花茎を伸ばし、先端に1花をつける。花は長さが2.5センチ弱の披針形の花被片6個からなり、白色で、裏面に紫色の条が入る。以前はチューリップの仲間と見られていたが、花茎に一対の苞葉がつくことから、つかないチューリップとは別属と認識されるようになったと言われる。

  なお、花が終わると、葉は暫く残るが、他の草に埋もれて枯れ、地中の鱗茎のみで翌年まで過す。この特質はセツブンソウ、フクジュソウ、カタクリ、ムラサキケマンなどと同じで、所謂、スプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれ、私たちに春を告げる草花として歓迎されている。

 本州の東北地方以南、四国、九州、奄美大島に分布し、国外では朝鮮半島、中国東北部に見られるという。大和(奈良県)では、一昔前まで普通に見られたようであるが、近年減少が著しく、今では自生地が極めて限定的で、探しても見つけることが困難なほど希少な草花になっている。このため、奈良県では希少種にあげられている状況にある。 写真は田の畦に咲くアマナ(吉野町)、右のアップの写真では花茎の途中に1対の細い苞葉がうかがえる。チュウリップにはこれがない。

 みな同じ花だがしかしそれぞれに咲いてゐるなり己を掲げ

 

<2295> 大和の花 (484) キバナノアマナ (黄花甘菜)                           ユリ科 キバナノアマナ属

             

 日当たりのよい少し湿めり気のある畑の畦や林縁の草地などに生える多年草で、アマナのように群生することはなく、点在して生える。地中に帯黄色の外皮に被われた長さが1センチから1.5センチの卵形の鱗茎を有する。単子葉植物で、長さが15センチから30センチほどの線形の根生葉を普通1個、希に2個つけ、地上に伸び出す。

  花期は4月から6月ごろで、高さが15センチから25センチほどの花茎を立て、先に3個から10個の花を散形状につける。花は長楕円形の花被片6個からなり、雄しべも6個で、葯は黄色。雌しべは1個。花被片は内側が黄色で、外側が緑色という次第で、花は小さいが、開くと鮮やかでよく目につく。閉じると目立たない。花茎の上部には2個の苞葉がつき、これも線形で、葉や花茎と同じく軟らかい。

  北海道、本州の岡山県以北、四国に分布し、国外では千島、サハリン、朝鮮半島、中国、シベリア東部、ヨーロッパに見られるという。四国と本州の近畿地方以西では分布が限られ、ごくわずかしか見られない。大和(奈良県)の分布状況は厳しく、アマナより自生地は限定的で、個体数も少なく、絶滅危惧種にあげられている。鱗茎が甘く、花が黄色なのでこの名があり、アマナ同様鱗茎は食べられるが、採取は種の保護上控える必要がある。 写真はキバナノアマナ(五條市西吉野町)。

   絶滅の危惧が言はれて久しかる花の燈(ともし)の涙ぐましさ

 

<2296> 大和の花 (485) ハナニラ (花韮)                                      ユリ科 ハナニラ属

                                         

 南米アルゼンチン原産の多年草で、観賞用に世界各地に広まり、日本にも花壇の花として明治時代に渡来、繁殖力が旺盛なため、各地で逸出し、道端などに野生化しているのが見られる。ハナニラは、所謂、外来の帰化植物である。

 春の陽気に誘われて田舎の道を歩いたりすると、ときに民家の庭先にハナニラの一群が花を咲かせているのに出会うことがある。周囲に目をやると、近くの道端にも同じハナニラの花が咲いていたりする。これは民家の庭から逸出して野生化したものと考えられる。

 地中に直径2センチほどの白い鱗茎を有し、10センチから25センチのやや多肉質で広線形の葉を束生する。花期は4月から5月ごろで、その葉の間から数本の長さが10センチ前後の細い花茎を伸ばし、先端に1、2花をつける。花は直径3センチほどの白色もしくは淡青色の6弁花で、花弁の中央には青紫色の条が入る。

 全体的にニラ(韮)臭があるのでこの名がある。また、葉や花がアマナ(甘菜)に似ることによりセイヨウアマナ(西洋甘菜)とも呼ばれる。 写真はハナニラ。道端の草むらに野生化して花を咲かせた群落。地上での姿は春のみで、1年のほとんどは地中の鱗茎で生活する(左)。花はアマナより花弁(花被片)の幅が広いので判別出来る(中)。花弁が淡青紫色の個体(右)。

  万物の逆旅の天地 光陰は過客 果して花を咲かせる

 

<2297> 大和の花 (486) バイモ (貝母)                                        ユリ科 バイモ属

                                                                    

 中国原産の多年草で、日本にはいつごろ入って来たのか。毒草であるが、薬用植物として知られ、貝原益軒の『大和本草』(1708年)にはその名が見えるので、江戸時代には既に渡来していたと考えられる。単子葉の球根植物で、地中に半球形の鱗片が相対し、鱗茎が球状になるため、これを貝と見なした。この鱗茎により中国では貝母(ばいも)と称し、この名が漢名並びに生薬名としても用いられ、和名にもこれが及んで今にある。薬用の効能は、煎じ薬として去痰、鎮咳によいと言われる。

  草丈は30センチから80センチほど。茎は直立し、葉は長さが10センチ前後の広線形で、先は尖り、2、3個ずつ輪生状につく。上部の葉は細く、巻きひげ状に丸くなる特徴がある。花期は3月から4月ごろで、葉腋に長さが3センチ弱の淡黄緑色の鐘形の花を下向きにつける。花の内側に紫色の網目模様があり、虚無僧が被る編み笠のようだとしてアミガサユリ(編笠百合)の別名でも呼ばれる。この名は近年になってつけられたようで、『大和本草』には日本名ハルユリ(春百合)と見える。

 大和(奈良県)では、吉野地方に多く、果樹園の脇や道端の草叢などで多く見かける。これは栽培起源で、畑から逸出して野生化したものと思われる。バイモの花が咲き出すと、吉野地方の山里は春爛漫の陽気になり、花木も咲き出し、彩り豊かな景色が見られる。 写真はバイモ。花の内側に紫色の網目模様がうかがえる。

  なお、『万葉集』巻20(4323)の防人丈部真麻呂の歌に「時々の花は咲けども何すれそ母とふ花の咲き出(で)来(こ)ずけむ」とある。母に思いを寄せる歌であるが、この歌の中の「母とふ花」(原文は波波登布波奈)を古名母栗(ははくり)のバイモとする説があり、バイモを万葉植物にあげる研究者も見られる。果たして、どうなのか。詠み人の心情をして言えば、この花はイコール遠く離れた母その人であって、バイモに限定すれば歌の思いを台無しにするので、私にはバイモ説を採るに躊躇される。

 花一つにも来し方がありあるに地球誕生以来の歩み

 

<2298> 大和の花 (487) カタクリ (片栗)                                        ユリ科 カタクリ属

              

 落葉樹林内に群生する多年草で、鱗茎を有する球根植物である。鱗茎は長さが数センチで、毎年更新され、新鱗茎は旧鱗茎の下につく特徴がある。このため、カタクリは実生より7、8年後に花をつけるので、開花株の鱗茎は地中深くもぐっているということになる。葉は柄のある長さが6センチから12センチの長楕円形で、先は尖り、鋸歯はなく、花がつかない未成長の株では1個、成長した開花株では普通2個が見られる。葉は表裏とも淡緑色で、やや厚みがあり軟らかく、開花株では暗紫色の斑紋が見られる。

  花期は3月から5月ごろで、落葉樹にはまだ葉が繁っていないので、暖かな陽光がカタクリの群生地には届く。このため、この時期にカタクリは地上活動を行ない、花を咲かせ、実を生らせる。という次第で、高さが20センチから30センチの花茎の茎頂に1花をつける。花は下向きに開き、披針形の花被片6個は淡紅紫色で、長さは4、5センチ、基部の近くに濃紫色のW字形の斑紋が入る。花の盛りの晴天下では、花被片は強く反り返り、葯が濃紫色の雄しべ6個と柱頭が3裂する雌しべ1個が花被片より外に出て下垂し、受粉に備える。

  前述したように、カタクリは落葉樹の木々が葉を繁らせる前の春にのみ地上活動に励むスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる春季植物の代表的草花として知られ、マルハナバチ、クマバチ、ギフチョウなどの昆虫が花粉の媒介者として花にやって来る。

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、千島、サハリン、沿海州などにも見られるという。大和(奈良県)では葛城山や金剛山の標高800メートルから1000メートルの林下に見られ、保護されている。最近、保護が行き届き、増えている感があるが、絶滅危惧種にあげられて久しい。花に集まるギフチョウも絶滅危惧種として保護が呼びかけられている。

  なお、カタクリは鱗茎に良質のデンプンを含み、古来より片栗粉として知られるが、最近ではジャガイモなどで代用されていると聞く。鱗茎は薬用にも利用され、すり傷や湿疹などにこのデンプンを振りかけ、下痢や腹痛、風邪には服用するという。

  また、カタクリ(片栗)は古名カタカゴ(堅香子)の名で、『万葉集』の1首に見え、万葉植物にあげられている。「もののふの八十娘子らが汲みまがふ寺井の上の堅香子の花」(巻19・4143)がその歌で、大伴家持が越の国(富山県)の国司の任にあったとき詠んだもの。雪深い北国に到来した春の明るさが感じられる名歌の誉れが高い歌で、人口に膾炙している。 写真はカタクリ。左から春の明るい樹林下に咲き出した花、開きかけた蕾、競うように咲き誇る花々、思い切り反り返って咲く盛りの花(いずれも葛城山)。

   何をなすためにこの世にある生か花はかくあり彩をもて

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿