大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年04月14日 | 植物

<1933> 大和の花 (192) ヒメミヤマスミレ (姫深山菫)                                スミレ科 スミレ属

                                   

 ここからは大和(奈良県)の深山に生えるスミレを見てみたいと思う。まずはヒメミヤマスミレ(姫深山菫)。このスミレはフモトスミレの亜種とされ、本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種(?・朝鮮半島に見られるという情報あり)で、垂直分布では、フモトスミレより標高の高いところに生え、大和(奈良県)では近畿の最高峰で知られる大峰山脈の主峰八経ヶ岳(1915メートル)や隣接する弥山(1895メートル)周辺、あるいは、台高山脈の南端に位置する大台ヶ原山(約1600メートル)の一帯に多く自生している。

 地上茎を有しないスミレで、草丈は5、6センチと極めて小さく、葉や花も同様で、実にかわいらしい感じを受ける。葉は三角状心形に近く、表面は濃緑色、裏面は紫色を帯びないのが普通であるが、帯びるものもときに見られ、縁には粗い鋸歯がある。花期は3月から5月ごろとされるが、亜高山帯に近い大和(奈良県)の分布域では、花のピークは5月から6月ごろである。

  花はフモトスミレに似て、白く、唇弁に複雑な濃紫色のすじ模様が入り、側弁の基部には毛が生えている。また、唇弁がほかの花弁よりも小さく、大きい2つの上弁が反り返るので、よく似るシコクスミレ(四国菫)やトウカイスミレ(東海菫)と一見して見分けられる。 写真は群生して花を咲かせるヒメミヤマスミレ(左)とコケに混じって生え出し、花を咲かせるヒメミヤマスミレ(右)。

  いよいよだ春本番となりにけり

 

<1934> 大和の花 (193) シコクスミレ (四国菫)                                     スミレ科 スミレ属

                         

  太平洋側のブナ林の林床に生えることで知られる地上茎を有しないスミレで、本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、ヒメミヤマスミレ(姫深山菫)、コミヤマスミレ(小深山菫)、ナガバノスミレサイシン(長葉の菫細辛)、トウカイスミレ(東海菫)などと分布域の似るところがあり、先史時代から存在する植物とされる襲速紀要素系の種群に分類されている。

  草丈は5センチ前後と極めて小さく、地下茎を延ばして広がるようであるが、私はそういう群生の光景には出会っていない。大和(奈良県)ではブナ帯でも標高の高い1500メートル以上に限られているようで、西大台や大峰山脈の高所部でしか見ていない。レッドリストの希少種である。

  花期はヒメミヤマスミレよりも少し早く、4月から5月ごろで、心形で鋸歯のある先の尖った明るい緑色の葉の開出とほぼ同時に花を見せる。花は純白に近く、唇弁の濃紫色のすじ模様も少なく、あっさりと見える。側弁の基部に毛を有する点などはヒメミヤマスミレやトウカイスミレに似るが、葉や花弁の色、形などから判別出来る。   花万朶身一つ溺れごころかな

<1935> 大和の花 (194) トウカイスミレ (東海菫)                               スミレ科 スミレ属

         

  ヒメミヤマスミレの一種として見られていたが、近年、別種として扱われるようになったスミレで、ヒメミヤマスミレによく似るが、葉や花の姿に違いが見られる。本州の神奈川県西部以西から近畿地方と四国の太平洋側のブナ帯に分布し、東海地方に多い日本の固有種で、大和(奈良県)では標高1400メートルから1500メートルの大峰山脈の大峯奥駈道や大台ヶ原山のブナ帯などでときに見かける。

  草丈は5センチ前後でヒメミヤマスミレやシコクスミレとほぼ同じく、葉は心形で粗い鋸歯があり、ヒメミヤマスミレの葉よりも丸く、厚みがある。両面とも緑色で、裏面が紫色を帯びることはない。花期は4月から6月ごろで、花は白色に近く、唇弁だけでなく、側弁や上弁にも紫色のすじが入るものが見られる。ヒメミヤマスミレの唇弁より幅が広く、花の姿が自ずから異なる。シコクスミレとの相異は唇弁の模様が明らかに濃い違いがある。 また、側弁の基部には毛がないか、あってもわずかで、これも違いの1つである。写真はトウカイスミレ。右の写真は花弁すべてに紫色のすじの入った花。 雪解けの水に始まる春の山木の芽辺りにほほ笑みとなる

<1936> 大和の花 (195) キバナノコマノツメ (黄花の駒の爪)                         スミレ科 スミレ属

                   

  地上茎のあるスミレで、和名にスミレ(菫)の名を持たない唯一のスミレとして知られる。北半球の寒温帯域に広く分布し、日本でも北海道から屋久島まで見られ、大和(奈良県)では、標高1600メートルより上部、大峰山脈の中央部に自生しているのが見られる。空中湿度の高い渓谷沿いや林縁を好んで生えるが、分布は極めて限定的で、個体数も少なく、愛好家の採取を減少要因とし、レッドリストの絶滅寸前種にあげられ、地球寒冷期の依存種及び本州の南限植物として注目種にもリストアップされている。

  草丈は15センチほどになり、葉は直径2センチ前後で、腎形から円形に近く、根生葉には先がわずかに凹むものもある。こうした葉を馬の蹄(ひづめ)に見立てたことによりこの名があるという。花期は6月から8月とほかのスミレとはかなり遅く、山岳高所の生える場所によるところ、春の花にあらず、夏の花の感がある。花は直径2センチ前後、5つの花弁は黄色で、上弁と側弁は反り、唇弁には紅紫色のすじ模様が入る。大和(奈良県)に野生するスミレは白色、紫色、淡紅色を基調にしているものがほとんどで、黄色い深山山岳の花は格別に思える。また、花には側弁の基部に毛がなく、雌しべの柱頭がY字形になっているのが今1つの特徴である。 写真はキバナノコマノツメ。   春の川さらさら流れの言葉感

 


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