<1610> 馬見丘陵公園下池のソウギョ(草魚)について
大和には 溜池多し 夏来たる
奈良県立馬見丘陵公園の一角に位置する下池には体長1メートル前後のソウギョがいる。ソウギョはコイ科の淡水魚で、中国原産の外来種である。東アジア一帯に分布し、中国を中心に大河や湖沼に棲息し、中国ではハクレン(白鰱)、コクレン(黒鰱)、アオウオ(青魚)とともに四大家魚と呼ばれ、みな食用として重要視され、養殖もされている。
コイに似るが、口元にヒゲがなく、コイよりも円筒状の体形をしていて見分けがつく。中国では2メートルにも及ぶ巨大な個体が存在すると言われるが、日本では河川や湖沼の規模が小さいためか、1メートル前後にしか生育しないようで、川を遡上して産卵し豊富な水の流れがなくては卵が孵化しないため、日本にはソウギョの産卵に適う流量の河川に乏しく、繁殖は利根川水系に限られているようである。
ソウギョは草魚の名がある通り、草食で知られ、その体形にもより大食漢で、放流によって貴重な在来の水草が失われてしまったという報告もなされ、要注意外来生物に指定されている魚で、草を与えると、あっという間に平らげてしまう。下池には百匹近く放流されていて、池の岸辺に作られたテラスや橋の下に集まっているのがよく見られる。
来訪者はコイと感違いをする人も多く、その大きさに圧倒される。テラスの下や橋下に集まるのは来訪者がパンの屑などを与えるからだろう。群れの中にはコイも見られるが、コイはひと回り小さく、潜水艦のようなソウギョに比べると、刃物のような形に思われ、鋭敏に見える。
下池のソウギョは地元の管理組合が水草の発生による水の汚濁を防ぐため放流したものと言われ、大食漢のソウギョの効果は池水の浄化に役立ち、モ(藻)やウキクサ(浮草)などの繁茂はなく、きれいな水が保たれている。ソウギョは豊かな流れがなければ卵が孵化しないので、池では繁殖せず、このままにしていても増えることはないという。寿命は二、三十年とのことである。そう言われてみると、下池の水はきれいである。
あまりきれいになると、他の虫や小魚の生育に影響されると言われるが、下池ではほどよくきれいになっていると見えて、小魚などのエサを漁る水辺の鳥も豊富で、自然における生命の連鎖の状況が保たれていることを証明しているように思われる。
この間はソウギョをよく知る人が橋の上から頻りに近くで採って来た雑草を池に投げ込んでいるのを目撃した。投げられた水面の雑草(シロツメクサやスイバなど)にソウギョが群れをなして寄って来たかと思うや、見る見るうちに雑草は食べられてしまった。これは確かに浄化力たり得る。そのように感じたことではあった。下池の近辺には落葉高木が多いので、池には落葉も舞い込むだろうが、ソウギョがこれらも食べてしまうというのだろう。これは奈良公園のシカの効用によく似るところである。
下池のソウギョは子供たちを含む来訪者にコイとよく間違えられるので、このソウギョについては案内板を公園のテラス付近に設置してはどうかと思われるが、どうであろうか。日本では不人気で厄病神のようにも受け取られがちなこの外来の大型淡水魚ではあるが、きれいな池水が公園の環境に役立ち、憩いの場になっているだけでなく、きれいな農業用水の確保のためにも貴重な働きを担っていることを来訪者に知らしめる意味において、ソウギョの案内板は必要と思われる。 写真は水がきれいな下池と投げ込まれたシロツメクサやスイバに群がるソウギョ。
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