大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年03月27日 | 植物

<2638> 大和の花 (756) ユキヤナギ (雪柳)                                  バラ科 シモツケ属

          

 川岸の岩場や崖地に生える落葉低木で、株立ちすることが多く、細い枝をよく分け、高さが1メートルから2メートルになり、しなやかな枝を有し、垂れる傾向がある。樹皮は暗灰色を帯び、新しい枝は褐色で、縦に条が入る。葉は長さが2センチから4センチほどの狭披針形で、先が尖り、基部はくさび形。縁には細かで鋭い鋸歯が見られる。表面は無毛で、緑色。裏面は脈上にわずかながら軟毛があり、白色を帯びる。葉柄はほとんどなく、互生する。

 花期は3月末から4月ごろで、前年枝に柄のない散形花序を多数つけ、花序には直径8ミリほどの白い花が2個から7個つき、枝にびっしりと連らなる。花弁は5個で、雄しべは20個ほど。雄しべの基部の内側には黄色の蜜腺があり、虫を誘う虫媒花である。実は袋果で、5、6月ごろ熟す。

 本州の東北地方南部以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では南部の吉野川、北山川、十津川などの川筋で見かけるが、それほど多くない。庭木として人気があり、公園や庭園に植えられることが多く、目に触れる機会は多い。これは刈り込みが容易で、庭木として管理しやすく、白い花のボリュウムが魅力であるためと思われる。

 ユキヤナギ(雪柳)の名は白い小さな花が枝木いっぱいに咲く姿を積もった雪に見立て、葉や枝が柳に似ることによる。別名のコゴメバナ(小米花)は、散り敷く花びら1つ1つが小米に似るからという。なお、日本に自生するユキヤナギは栽培されていたものが野生化したとする説がある。これについては、奈良時代頻繁に行われていた行幸の地、吉野離宮の吉野川宮滝付近にユキヤナギが多く見られ、毎春、その白い花を咲かせることがこの野生化の説に通じるということも考えに及んで来る気がする。

  つまり、行幸に際してはそこで詠まれた歌などが多く、文献に残されているが、その文献等にユキヤナギの姿が見えて来ないということがある。これはその当時、宮滝付近にユキヤナギが存在していなかったことの証に違いないと思えるからで、その後のいつの時代にか、そこに存在するようになったと考え得る点、外来種の野生化と見なす説に符合するものとしてあげられる次第でる。これはユキヤナギの人気に裏付けられる。 写真はユキヤナギ。野生種の花(左・吉野町の吉野川宮滝付近)、植栽の花(中・奈良市の海竜王寺)、花のアップ(右)。 雪柳縁取る道に誘はれ

<2639> 大和の花 (757) シモツケ (下野)                                          バラ科 シモツケ属

          

 日当たりのよい岩崖地や岩礫地に生える落葉低木で、高さは大きいものでも1メートルほど。樹皮は暗褐色で、縦に剥がれる。葉は長さが3センチから8センチの狭卵形から広卵形で、先は尖り、基部はくさび形から円形まで変化がある。縁には不揃いの重鋸歯が見られ、裏面は淡緑色で網目模様がある。葉柄はごく短く、有毛で、互生する。

 花期は5月から8月ごろで、枝先にこんもりとした複散房花序を出し、直径数ミリの小さな5弁花を多数つける。花弁は濃紅色、紅色、淡紅色、白色と変化に富む。雄しべは25個から30個ほどで、花弁より長く伸び出す。雌しべは5個。実は袋果で、5個集まり、秋に熟して裂開する。実の先には花柱が残る。

 シモツケ(下野)の名の由来は、下野(現在の栃木県)で最初に見つけられたことによる。草本のシモツケソウ(下野草)に対し、木本の意によりキシモツケ(木下野)の別名もある。学名はSpiraea japonica。Spiraeaはユキヤナギで、日本のユキヤナギという意。

  本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では、公園などに植えられているものをよく見かけるが、野生のものは大峰山脈の高所部と北山川(瀞峡)の岩場のごく限られたところにしか見られず、自生地も個体数も極めて少ないうえ、シカの食害が著しいことによりレッドリストの絶滅寸前種にあげられている。

 写真はシモツケ。花の色に変化が見られる花期の野生種(左)、艶やかな花を咲かせる岩礫地の個体(中)、紅色の花をびっしりとつけた花序のアップ(右・虫媒花らしく花にはハチの仲間が来ていた)。いずれも天川村の山上ヶ岳。 花びらの一つ一つに生の意味一つ一つによってその花

<2640> 大和の花 (758) イブキシモツケ (伊吹下野)                                 バラ科 シモツケ属

                     

 日当たりのよい山地や川沿いの崖地、岩礫地に生える落葉低木で、高さは1メートルから1.5メートルほどになる。樹皮は暗灰褐色で、新しい枝は黄褐色を帯び、短毛が密生する。葉は長さが3センチから5センチの卵形または菱形状長楕円形で、先はやや尖り、基部はくさび形に近い。縁には鋸歯乃至は重鋸歯が見られ、上部は浅く3裂するものがある。葉の表面は濃緑色で葉脈が凹む。裏面は淡緑色で、軟毛が密生し、葉脈が網目のように浮き立つ。軟毛が生える葉柄はごく短く、互生する。

 花期は4月から6月ごろで、枝の上部葉腋に直径2.5センチから3.5センチのドーム形の散房花序を立て、直径7ミリほどの小さな白い花を多数開く。花弁はほぼ円形で、5個。雄しべは20個ほどで、雌しべは5個。花柄には縮れた軟毛がある。実は袋果で、7月から8月ごろ褐色に熟す。イブキシモツケ(伊吹下野)の名は、滋賀県の伊吹山で最初に見つかったことによる。シモツケ(下野)はシモツケ属の仲間であることに因む。

 本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では紀伊半島に見られるが、自生地も個体数も少なく、道路の拡幅工事などで失われるケースが見られ、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はイブキシモツケ。川岸の崖地に咲く花(左)、盛りを迎えた花(中)、花序のアップ(右)。いずれも十津川村。    如何にあれ想像するは自由なり果たして思ひは妨げられず

<2641> 大和の花 (759) イワガサ (岩傘)                                           バラ科 シモツケ属

                 

 日当たりのある明るい山地や海岸の岩場や礫地、崖地などに生える落葉低木で、高さは大きいもので1.5メートルほど。樹皮は暗褐紫色で、若い枝は褐色。葉は長さが2センチから4センチの菱状卵形から広倒卵形で、先は丸く、基部は広いくさび形。縁の上部に不揃いの鋸歯が見られ、ときに3中裂から5中裂する。

 花期は5月から6月ごろで、枝に直径2センチから4センチのドーム形の散房花序を出し、直径7ミリほどの白い小さな5弁花を20個から40個つける。花弁は円形で、雄しべは20個ほど見られ、花弁とほぼ同長。実は袋果で、夏の盛りに熟す。

 本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)は海に面しておらず、山地のごく一部に稀産し、絶滅危惧種にあげられているが、殊に大峰山脈の高所(寒温帯域)の酸性岩の崖地に生えるものは中生代の海辺隆起による地形的遺存植物の可能性を秘めているところがうかがえる。なお、イワガサ(岩傘)の名は、岩場に生え、長い柄を有する傘のような花序の形による。

  中国原産のコデマリ(小手毬)やイブキシモツケ(伊吹下野)は同属でよく似るが、コデマリもイブキシモツケも葉の先が尖り気味になり、本種は鈍頭。 写真はイワガサ。絶壁の岩壁に生えて花を咲かせる個体(左・つる性植物のごとくに見える)、花期の姿(中)、花序のアップ(右)。いずれも天川村の大日山。    子は親をして子となれり親は子を持って即ち親とはなれる

<2642> 大和の花 (760) コゴメウツギ (小米空木)                                  バラ科 コゴメウツギ属

          

 明るい山地の林縁などに叢生する落葉低木で、1メートルから2メートルの高さになって、細い多数の枝を垂れ下げるように繁らせる。樹皮は灰褐色で、若い枝は赤褐色になることが多い。葉は普通長さが2センチから4センチの三角状広卵形で、先が尾状に尖り、基部は切形もしくは心形になり、縁には重鋸歯が見られる。葉柄は短く、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、円錐花序乃至は散房花序を出し、直径4ミリから5ミリの白い小さな5弁花を集めてつける。花弁はへら形で5個、萼片も白色で、これも5個。萼片は花弁より短く、花弁と花弁の間に現れるので、全体が白い10弁花のように見える。雄しべは10個で、花弁より短く、内側に曲がる。葯は黄色。袋果の実は直径2、3ミリの球形で、萼に包まれ、秋に熟す。

 コゴメウツギ(小米空木)の名は、ウツギ(空木)に似た白い小さな花を小米に見立てたことによる。北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)では広い範囲に見られるが、点在的で、個体数はそれほど多くない。なお、コメウツギに似るカナウツギ(金空木)は中部地方以北に分布し、大和(奈良県)では見かけない。  写真はコゴメウツギ。開出した葉とともに際立つ白い花々(左)、葉と花序のアップ(中)、花のアップ(右)。いずれも金剛山山頂付近。   動ぜざる心を欲し来し旅の人生未だその志に立てず

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿