大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年09月29日 | 創作

<2822>  作歌ノート 見聞の記  時流空間

     生きるとは時流空間ここに身を置くことここに思ひを抱き

 ここに題する時流空間とは時と所、即ち、刻々と過ぎてゆく時の流れと生きゆくものたちの居場所をいうものにほかならず、特に今という時が意識されるところ。居場所の空間については個々によって異なるが、地球生命である私たちにとって、大きく言えば、地球自体がこの居場所の空間ということになる。ということで、空間、即ち、居場所は個々のものながら共有されてあるものとも言えるのである。つまり、ここでは、この時流空間を意識において作った歌群であると言ってよい。

 この間、スウエーデンの環境活動家の少女が国連で地球温暖化による地球環境の変化にともなう人類の危機を訴えるスピーチをして話題になったが、このスピーチは強烈で、まだ余韻にあるが、北欧の一少女の言葉に聞き入った出席者は返す言葉もなく、静まり返った。それは出席者の聴衆一人一人に共有されている地球という空間に生きているということと危機に瀕しているという今の時、即ち、時流の認識が参加者の聴衆一人一人にあって、その一人一人の琴線に触れたからと思われる。

 少女が訴えたのは、経済成長優先の考え、彼女の言葉で言えば、大人たちの「おとぎ話」によって危機的状況に至っている私たちの居場所である地球をこれ以上侵害しないで欲しいというものであった。それは地球が個々人のみならず、すべての地球生命に共有されている居場所としての空間であることを認識の前提に言っているわけで、科学優占による経済成長を美徳として洗脳されている現代人を非難するものであった。だが、洗脳された現代人は少女のスピーチに答えを出せなかった。

 これが地球を取り巻く時流空間の状況と言え、会場が緊張によって静まり返ったのは、この現代人における洗脳の事情とその影響による現今の世界の状況をいみじくも示したのであった。地球が共有される居場所でありながら、その居場所の認識があまりにも異なっている。で、同床異夢を少女はスピーチの場で感じたのであろう。「来るべきところではなかった」とも述べたのであった。

 言わば、これは時流空間における私たち個々の異なりによるものと言ってよく、共有されている居場所の認識にあっても、共有の認識に乏しい個々の身がそこにはあるということにほかならない。そして、そこには限りない生の欲望と強者と弱者を生む生の内実が潜み、その内実が常に働いていることが思われたりする。

 つまり、時流空間における私たちが接しているところの風景の世界は、自然を基にしてはいるものの個々の様々な思いによる接し方或いは認識によって異なる時流空間の錯雑たる認識事情をもって私たち個々の生の存在と絡まって成り立っているということにも思いがゆく。少女の言い分は真っ当にして聞かれるものながら、時流空間に生を展開しているものの「おとぎ話」はそう簡単に止められない。懸念は感じながらも、悲しいかな、この「おとぎ話」では地球温暖化の結末を想定することなど出来ないのである。

           

 ここに用いた写真は、九月も半ばを過ぎたころ、近くの公園で撮影したもので、人工の水場でエナガが水浴びをしている図である。普通は樹林の梢を渡っているはずで、水浴びをする時期ではないが、撮影の日は相当蒸し暑く、この暑さにあってエナガは水浴びをしたのであろう。この水浴びも地球温暖化の影響として見るべきと思えた。つまり、国連における少女のスピーチと公園で目撃したエナガの水浴びの姿に直接的関係はないのであるが、地球温暖化というキーワードによって私の時流空間において意識されたという次第である。以下の歌群は、嘗て、この時流空間を意識において作ったもので、冒頭にあげた通りである。

   メタセコイアぐっと伸びゐる感の春 雨のち晴の天の高きに

   未だ見ぬあこがれがある駅頭に梅だより三分咲きを告げゐる

   秋雨が町工場を濡らしゐる鉄挽く音の午後のひと時

   チャペルより新郎新婦出で来たり白無垢なれば天使のごとし

   観覧車絵本のごとく見ゆるなり弥生の空を背景にして

   乱軍の将晴々と死に急ぐテレビドラマを家族と見をり

   それぞれにみなそれぞれにありながら行き交ふ人の夕暮の街

   朝かげに軒の菊花は息災を告げて咲きゐる馥郁とあり

   夕闇に浮き立つ電光ニュ-ス見き缶コーヒーに温まりつつ

   超高層ビルの谷間に雨が降る人が咲かせてゐる傘の花

   あをあをと公園通り雨に濡れ赤き車が雨足の中

   雑草の住宅街の一角の空地は誰に買はれてゆくか

   管理地といふ立札の立つ空地キチキチバッタきちきちと飛ぶ

   クリスタルガラスに映る夜の街その街にして行き交へる人

   狂ふことなき淋しさよコトコトと動く深夜のエスカレ-タ-

   これもまた一種の形見水際にオブジェのごとく傾く破船

   スクランブル斜めに過る交差点そのスペースの不思議な広さ

   固執してゐるごとく見ゆ都市空間埋められてゆく定めにありて

   大勢の時流における逆行の少数派ゆゑに見えて来るもの

   論をなすものに傍観否めざるつまりそこより論はなさるる

   季節感なども加へて書店には人の思ひが目眩めくある

   人体に似る形態の都市機能人の流れは血流に似る

   この耳目この身は何に統べられてゐるのか時流空間の生

 


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