大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年11月28日 | 植物

<1795>大和の花(90)ナンバンギセル (南蛮煙管)とオオナンバンギセル (大南蛮煙管)  ハマウツボ科 ナンバンギセル属

                           

 今回から私が出会った寄生植物を紹介したいと思う。まずはナンバンギセルとオオナンバンギセル。ナンバンギセルはススキ、サトウキビ、ミョウガなどの根に宿り、その根から栄養分をもらって生活する1年生の寄生植物で、全国各地に分布し、アジアの温帯から熱帯にかけて広く見られ、ススキの群生地に赴けば、出会える。花期は7月から10月ごろで、地中の茎から花柄を真っ直ぐ20センチばかり立て、先端に淡紅紫色の筒状の花を横向きに開く。

 葉緑素を有する葉はなく、わずかに極小の鱗片葉が互生する程度である。花冠の先は浅く5裂し、鋸歯はなく全縁になっている。花の基部側は黄褐色に紅紫色の条が入る萼に包まれ、萼は下側が裂け、上側が尖る。この花と花柄の形が煙管に似るのでこの名がある。

 『万葉集』に登場する思草(おもひぐさ)はこのナンバンギセルであるというのが定説になっている。この古名も花柄と花の形から思いにふける人の姿を連想してつけられたという。集中にはわずか1首であるが、「道の辺の尾花が下の思ひ草いま更々に何をか思はむ」(巻10の1270番・詠人未詳)と見える。

  尾花は花穂を出したススキのことであるから、これは秋の歌で、ナンバンギセルの花の時期に符合する。また、「尾花が下」という表現がススキの根方に生える寄生植物のナンバンギセルにぴったり一致する。という次第で、思草イコールナンバンギセルで、ナンバンギセルは万葉植物ということになった。なお、漢名は野菰(やこ)で、薬用として全草を煎じて服用すれば、喉の痛みに効くという。

  オオナンバンギセルはススキやノガリヤスなどの根に寄生し、ナンバンギセルの花より少し大きく太めで、全体に白っぽく見える。紅紫色の花冠先端部が鮮やかで、5裂する縁に細かな鋸歯が目につく。本州、四国、九州に分布し、海外では中国でも見られるという。花期はオオナンバンギセルの方がナンバンギセルよりも心もち早い。 大和(奈良県)では曽爾高原などで見受けられるが、個体数が少なく絶滅危惧種にあげられている。 写真はナンバンギセル(左)とオオナンバンギセル(右)。ともに曽爾高原で。

  人はみな思ひ思はる思ひ草ときに思ひの雫に濡るる

 

<1796> 大和の花 (91) ヤマウツボ (山靫)                              ゴマノハグサ科 ヤマウツボ属

                                                           

  落葉樹林の少し湿り気のある林内においてブナの根などに宿り、その根から養分をもらって生育する葉緑素を有しない寄生植物の多年草で、光合成を行なう葉はなく、地中を這う根茎から高さ20~30センチほどになる太い花茎を立て、その全面に花を咲かせる。

  花期は5月から7月ごろで、花茎は成長するに従ってわずかに紅紫色を帯びる白い小花をいっぱいにつける。小花は筒状で、先はシソ科の花のように唇形に開く。本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではケヤマウツボ(毛山靫)を絶滅危惧種にあげている。

  写真(左)は金剛山(1125メートル)の山頂付近のブナ林下で撮影したもので、花は環境が整うと発生し、咲き出すようで、毎年とは限らないところがうかがえる。なお、ヤマウツボの名は筒状唇形の花をつけた花序を矢を入れる靫(うつぼ)に見立てたことによるもので、野に生えるシソ科のウツボグサに対し、山に生え出すことによる。 写真は(右)はウツボグサ。 

  風邪により微熱に籠る室の中(うち)覚束なくもありける一日

 

<1797> 大和の花 (92) キヨスミウツボ (清澄靫)                  ハマウツボ科 キヨスミウツボ属

                    

  カシやアジサイ類の根によく生える葉緑素を有しない寄生植物の多年草で、はじめ千葉県の清澄山で発見されたことによりこの名があるという。ハマウツボ科の植物はみな寄生植物で、このキヨスミウツボは1属1種の植物として知られ、全国各地に分布し、中国東北部から朝鮮半島、ロシアの東部一帯にも見られるという。日本では個体数が少なく、各地で絶滅が心配され、大和(奈良県)でも絶滅危惧種にあげられている。

  茎は叢生し、多数の鱗片葉がつくものの、光合成を行なう緑色の葉はない。花期は6月から7月ごろで、茎の頂に2センチばかりの筒状の花を多いもので10個ほどつける。花冠は最初白く、後に黄色っぽく変色する。私は7月初旬に天川村の稲村ヶ岳(1726メートル)の登山道で見かけた。

  このときのキヨスミウツボの花は、言わば、行きがけの駄賃のようなものだったが、この出会いには縁というものが感じられ、縁というのは意志と行動によって開かれるものなのだと思えたのを覚えている。極めて貧弱な花数だったが、撮影することが出来た。それから何年か経って、同じ天川村の観音峰(1347メートル)登山道で大きい群落に出会った。しかし、その群落は2年続けて見られたが、その後見られなくなった。 写真はキノコのようにも見えるキヨスミウツボの花群とつぼみ(観音峰登山道)。

  偶然と思へることも必然と見なせる出会ひの縁の不思議

 

<1798> 大和の花 (93) ネナシカズラ (根無葛)                                  ヒルガオ科 ネナシカズラ属

                                       

  蔓性一年生の寄生植物で、日当たりのよい山野に生え、蔓をほかの草木にからめて生育する。発芽からほかの草木に絡みつくまでは自力で成長するが、ツルから寄生根を出してほかの草木に吸着し、寄生状態に入ると、そこより下のツル茎は根まで枯れてしまい、宿主の草木に養分を頼る生活に入る。という次第で、この名がつけられた。

 学名はⅭuscuta japonicaで、全国各地に分布し、地方名もネナシクサ、モトナシカズラ、ウシノソウメン、ヤナギノツルなど根無しや細長いツルのイメージが名に反映している。ネナシカズラはヒルガオ科であるが、異色なためネナシカズラ科とする見解もある。

  黄色から紫褐色を帯びるツルは丈夫な針金状で、宿主の一面に絡みつくのが見られる。緑色の葉はなく、ツルにはごく小さな鱗片葉がつくのみ。花期は8月から10月ごろで、先が4、5裂する黄白色で鐘形の小花を紅紫色の斑点が目につく穂状の花序に密につける。蒴果(さっか)に包まる種子は黒色で、菟糸子(としし)と呼ばれ、滋養、強壮の薬用酒にされる。 写真はイタドリにツルを絡めて花を咲かせるネナシカズラ(左)と穂状に小花をつけるネナシカズラの花(右)。

    指の腹に黒き一本の我が睫毛悲哀は命のまたなる姿 

 

 

 

 


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