大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年10月01日 | 植物

<2824>  大和の花 (904) マグワ (真桑)                                             クワ科 クワ属

                  

 単にクワ(桑)とも言われる中国原産の落葉高木で、古来より養蚕のため栽培され、その一部が人里近くで野生化したと見られている。高さは5メートルから大きいもので10メートル以上になり、灰褐色の樹皮には細かな縦条が入る。葉は長さが8センチから15センチほどの卵形乃至は広卵形で、切れ込みのないものから3裂するものまで見られる。葉の先は尖り、基部は切形から浅い心形で、縁にはやや粗い鋸歯がある。表面はやや光沢があり、3センチ前後の葉柄を有し、互生する。

 雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。本年枝の葉腋に花序が1個ずつつき、雄株では長さが4センチから7センチの円筒状の花序に雄花が多数、雌株では短い花序に雌花が多数つく。実は集合果で、長さが1.5センチから2センチの楕円形で、7月ごろ赤色から黒紫色に熟す。熟すと甘く、食べられる。

 桑は漢名。クワ(古名クハ)の語源は、蚕葉(こは)の転、或いは、蚕食葉(こくふは)からとも、また、食葉(くは)からとも言われるが、これらの説は蚕(かいこ)の食う葉、即ち、養蚕に用いたことによるという。古くに渡来したと見られ、記紀や『万葉集』に登場し、当時から養蚕に欠かせない木として重要視されていたことがうかがえる。

  所謂、万葉植物であるが、絹織物の養蚕に関わるクワ(桑)は古くから知られ、中国の紀元前3000年ころの地層から出土した絹織物が世界最古とされ、そのころ既に養蚕が行われ、クワ(桑)の利用があったとされる。日本でも養蚕に用いるクワ(桑)は五穀と並ぶ重要なものであったことが記紀の神話等に見える。『万葉集』には東歌に登場を見るが、辺鄙な東国でも養蚕が行われていたことを示すとともに、クワ(桑)の地方名が少ないのは国を挙げて養蚕を奨励し、クワ(桑)の名が統一されて地方にも行き届いていたからであるとする指摘もある。

  なお、日本は明治時代に入り、繊維産業による殖産興業を図り、絹織物にも力を入れ、各地で養蚕が盛んに行われ、桑畑も各地に多く見られた。その後、石油産業の導入とともに繊維産業は下火となり、クワ(桑)の需要も少なくなり、今にある。

  ところで、クワ(桑)は養蚕以外にも、実は桑実酒に、繊維質の樹皮は布や和紙に、材は光沢があって美しく、建築材のほか、椀や櫛などに用いられて来た。根茎、葉、実は薬用にされ、利尿、消炎、不眠症等に効能があると言われ、重宝な樹種として知られる。また、クワは雷避けの木として「くわばらくわばら」の呪文を生んだ。  写真はマグワ。雄花(左)、雌花(中)、実を生らせた枝木(右)。      朝焼けの秋の空ゆく鴉二羽

<2825>  大和の花 (905) ヤマグワ (山桑)                                           クワ科 クワ属

          

 丘陵から山地(暖温帯域から冷温帯域)に生える落葉低木から高木で、高さは3メートルから15メートルほどになる。樹皮は褐色に近く、縦に条が入り、薄く剥がれる。葉は長さが5センチから15センチの卵形乃至は卵状広楕円形で、切れ込みのないものと、3裂から5裂するものとがある。葉の先は尾状に尖り、基部は切形または浅い心形で、粗い鋸歯が見られ、表面はざらつく。

 雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。雄株も雌株も新枝の葉腋に花序が1個ずつつき、雄株では長さが2センチ弱の花序に小花が円筒形に集まってつく。小花は4個の雄しべが目立つ。雌株では雄花より短い花序に小花が集まり、雌花では花柱と2個の柱頭が目を引く。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、サハリンにも見られるという。このヤマグワ(山桑)もクワ(桑)の別名を持つので、マグワ(真桑)と混同されていたのかも知れない。マグワより花序も集合果もひと回り小さいので判別出来る。大和(奈良県)では登山道でときおり出会う。

実はマグワより小さいが、本種の方が美味である。なお、材は赤褐色または黄褐色で、木目が細かく、建築、家具、器具材にされる。 写真は雄花(左)、雌花(中)、実をつけた枝木(右)。     ジェット機の機影の空に秋の雲

<2826>  大和の花 (906) コウゾ (楮)                                               クワ科 コウゾ属

     

 ヒメコウゾ(姫楮)とカジノキ(梶木)の雑種と考えられている落葉低木で、高さは数メートになる。樹皮は褐色で小さな皮目が目立つ。葉は長さが10センチから20センチの歪んだ卵形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、表面は短毛によってざらつく。有毛の葉柄は1、2センチで、互生する。

 雌雄異株が普通であるが、ヒメコウゾに近いタイプでは雌雄同株になると言われる。花期は4月から5月ごろで、雌雄異株では雄花序も雌花序も新枝の葉腋につき、雄株では雄しべの白い葯の雄花が目立ち、雌花はほとんど見られない。雌株では四方八方へ糸状に伸びる赤紫色を帯びる花柱が目立つ雌花がつき、雄花はほとんど見られない。

  雌雄同株タイプではヒメコウゾと同じく新枝の基部に雄花序がつき、上部の葉腋に雌花序がつく。2種は極めてよく似るが、ヒメコウゾの方が糸状の花柱が鮮やかな感じがある。また、葉柄にも違いがあり、ヒメコウゾの方が短い。ヒメコウゾと同じ雌雄同株タイプのコウゾでは集合果の実をつけるが、雌雄異株タイプではほとんどつけない。

 コウゾ(楮)の名の由来には、カミソ(紙麻)の音便、穀桑の別音ku-so、或いは、穀楮の音便kou-soから。また、神に献ずる衣の材料にしたことからカミソ(神衣)の転など諸説がある。古名はたへ、たく、ゆふで、記紀や『万葉集』にはこの古名で度々登場する。所謂、万葉植物である。

  コウゾはミツマタ、ガンピとともに和紙の原料として名高く、コウゾを用いた和紙は上質で、紙幣などに用いられるが、コウゾの紙への使用は7世紀前半の推古天皇代と見られ、幣や布への利用の歴史の方が古く、記紀や『万葉集』にも後者の方で多く登場する。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、植栽されたものが野生化しているものも各地に多いようである。国外では、朝鮮半島と中国南部に見られるという。和紙の産地である大和(奈良県)での野生は稀で、なかなか出会えない。 写真はコウゾ。左から雌雄異株タイプの雄花(貧弱な雌花がわずかに見える)、雌花、雌雄同株タイプの花期の姿?(基部が雄花、上部が雌花)、赤く色づいた集合果の実?。     飛蝗跳ぶ住まひの在処侵したり

2827>  大和の花 (907) ヒメコウゾ (姫楮)                                           クワ科 コウゾ属

              

 丘陵から山地の林縁などに生える落葉低木で、高さは数メートルになる。樹皮は褐色で、楕円形に近い皮目が目立つ。新枝にははじめ短毛が密生するが、後に少なくなる。葉は長さが4センチから10センチの歪んだ卵形で、切れ込みのないものから2、3裂するものまである。縁にはやや細かい鋸歯が見られ、質は薄く、表面には短毛が散生する。短毛のある葉柄は1センチ弱で、互生する。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。新枝の基部の葉腋に雄花序、上部の葉腋に雌花序がつき、ほぼ同時に開花する。雄花序は長さが約1センチの柄を有し、直径5ミリほどの球形で、白い葯の雄しべが多数つく。雌花序は赤紫色で、長さが5ミリほどの糸状の花柱が多数つき、目につく。実は集合果で、直径1.2センチ前後の球形になり、熟すと橙赤色になり、甘く、食べられる。

 本州の岩手県以南、四国、九州の奄美大島まで分布し、国外では朝鮮半島、中国南部、台湾に見られるという。大和(奈良県)では全域的で、普通に見られる。コウゾの雌雄同株タイプによく似ているが、本種の方が全体的にやや小ぶりなのでこの名がある。単にコウゾとも呼ばれるので紛らわしい。本種もコウゾと同じく、古くは和紙や織物に利用された。 写真はヒメコウゾの花(左)と実。

   伐らるるを免れ残りし柿の秋

 


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