大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年07月13日 | 植物

<2022> 大和の花 (266) マイヅルソウ (舞鶴草)                              ユリ科 マイヅルソウ属

                          

 深山から山岳高所の亜高山帯に生える多年草で、根茎が長く這い、群生することが多い。茎の高さは10センチから20センチほどで、卵心形の葉を茎の上部に2、3個互生する。葉の基部は深い心形になり、単子葉植物特有の縦条がくっきり見え、先端は尖る。この葉を2個広げた姿から舞うツルを連想し、この名が生まれたという。花期は5月から7月ごろで、茎頂の総状花序に白色の小さな花を多数つける。実は球形の液果で赤熟する。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、ユーラシア北東部、北アメリカ北東部に広く見られ、大和(奈良県)では大峰、台高山系の高所稜線部に見られるが、シカの食害が影響し、開花する個体は少ないと言われ、レッドリストの希少種にあげられている。大峰山脈の主峰八経ヶ岳(1915メートル)の植生保護区のシカ避け防護ネット内では大きい群落が見られる。

  写真はシカ避け防護ネット内のお花畑で群生し、花を咲かせるマイヅルソウ(左)と花のアップ(右・天川村の八経ヶ岳)。 なお、類似種のヒメマイヅルソウ(姫舞鶴草)は茎の上部に突起毛が多く、中部地方以北に分布する。  梅雨明けか青垣山に雲が湧く

<2023> 大和の花 (267 )ツバメオモト (燕万年青)                             ユリ科 ツバメオモト属

                                               

  亜高山帯の針葉樹林帯やその林縁に見られる多年草で、高さは20センチから40センチほどになる。長さが20センチほどの長楕円形の葉を根生し、その基部から花茎を立てる。花期は5月から7月ごろで、花茎の先端に数個の花柄を有する白色の花を咲かせる。実は楕円形の液果で、熟すと濃い艶のある瑠璃色になる。その名は、葉の形がユリ科のオモト(万年青)に似て、実をツバメの頭に見立てたと一説にはある。

  北海道と本州の大和(奈良県)以北に分布し、アジアの東北部に見られるという。大和では大峰山脈の最高峰八経ヶ岳の亜高山域に当たるオオヤマレンゲ(大山蓮華)が群生する植生保護区のシカ避け防護ネット内にのみ確認されている貴重種で、この地を南限とし、レッドリストには 絶滅寸前種としてあげられている。 写真はツバメオモト(2006年の撮影)。  いま何の花をかざすか夏の峰

<2024> 大和の花 (268) ツクバネソウ (衝羽根草)                                  ユリ科 ツクバネソウ属

          

  山地の落葉樹林内や林縁に生える多年草で、横に這う地下茎から1本の茎を立てる。茎の高さは15センチから40センチほどになり、茎頂に長楕円形の先が尖る葉を4個輪生する。ツクバネソウ(衝羽根草)の名はこの輪生する葉を羽根衝きの羽根に見立てたことによるという。

  花期は5月から8月ごろで、茎頂の葉腋から更に花柄を伸ばし、その先端に1花を上向きに開く。花は披針形で緑色の外花被片(萼のようなもの)4個が平開し、尖る先端部が垂れ気味になる。黄色い葯が印象的な雄しべが8個、雌しべの柱頭は4つに裂ける特徴がある。内花被片はない。実は球形の液果で、熟すと黒くなり、外花被片は果期にも残る。

  ほぼ全国的に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では金剛山(1125メートル)の山頂付近で見られるとともに、大峰、台高山系の高所部でもときおり見かける。仲間に葉の多いクルマバツクバネソウがある。なお、ツクバネソウにはツチハリ(土針)の別名があり、『万葉集』に「吾がやどに生ふる土針心ゆも想はぬ人の衣(きぬ)に摺らゆな」(巻7・1338)とある土針について、本命はシソ科のメハジキ(目弾き)とされるが、このツクバネソウとする説も見える。所謂、万葉植物の候補の1つである。 

  写真はツクバネソウ。左は花柄の長いタイプ(花が完開していない状態・大峰山脈の高所)、中は花柄の短いタイプ(完開の状態・柱頭が4つに裂けている・大台ヶ原山)、右は若い実をつけた個体で、花柄の長いタイプ(金剛山)。   いい風にいい風鈴の心地よさ

<2025> 大和の花 (269) エンレイソウ (延齢草)                                 ユリ科 エンレイソウ属

                 

  山地の湿り気のあるところに生える多年草で、茎の高さは15センチから30センチほどになり、茎頂に菱状円形の柄がない葉を3個輪生する。単子葉植物であるが、網状の脈を有し、先は尖る。花期は4月から5月ごろで、茎頂から花柄を伸ばし、1花を横向きに開く。花は紫褐色または緑色を帯びた外花被片(萼片のようなもの)3個からなり、内花被片は普通見られない。実は球形の液果で、外花被片は果期にも残る。

  全国的に分布し、国外ではサハリンや南千島に自生する北方型で、大和(奈良県)ではそれほど多くなく、シカの食害も減少要因と見られ、大切にしたい植物の一つとして希少種にあげられている。白い花のシロバナエンレイソウ(白花延齢草)も大和に分布するが、生える場所も個体数も極めて限られ、こちらは絶滅寸前種としてあり、私にはまだ出会っていない。エンレイソウについては金剛山と八経ヶ岳のお花畑で出会った。

  なお、エンレイソウはサポニンという物質を含む有毒植物で、この有毒を逆手に取って根茎を陰干しにし、煎じて服用すれば胃腸薬や催吐薬として効能があるという。有毒なだけに量を誤ると副作用が生じるので注意が必要と本草書には見える。エンレイソウ(延齢草)の名はエンメイソウ(延命草)の別名があるように、延命につながる薬用の働きがあるからに違いない。 写真左は小群落(金剛山)、中は標高1800メートル付近の個体(八経ヶ岳)、右は実をつけた個体(金剛山)。  風鈴下妻の昼寝の寝顔かな

 

 

 

 


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