大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年07月24日 | 植物

<2033> 大和の花 (275) オトギリソウ (弟切草)                     オトギリソウ科 オトギリソウ属

                                    

 山野から亜高山帯の日当たりのよい草地に生える多年草で、草丈は20センチから60センチほどになる。葉は広披針形で、基部は茎を抱く。花期は7月から8月ごろで、茎頂に直径2センチ弱の黄色の5弁花を放射相称につける。朝開いて夕方には萎む1日花である。葉や花弁に黒い油点が出来るのが特徴で、透かして見れば確認出来る。

 オトギリソウ(弟切草)とは妙な名であるが、平安時代の花山天皇のとき、晴頼という鷹匠がいて、タカの傷を治すのにこのオトギリソウを密かに用いていた。これを弟が他匠に漏らし、激怒した晴頼は弟を斬った。この謂われに因みこの名があると『和漢三才図会』は伝える。葉や花の黒点は斬られた弟の血の痕だというもっともらしい尾ひれもついているが、西洋でもこの黒点にキリストの血とか聖ヨハネの血を想起している。

 北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でもよく見られるが、近畿の最高峰八経ヶ岳の標高1915メートルの山頂において咲く花に出会ったことがある、これをして言えば、オトギリソウは近畿地方で最も高いところに花を咲かせる草花である。

 なお、オトギリソウの茎や葉には収斂作用のあるタンニンが多量に含まれ、民間では切傷に用いたと言われる。また、漢方では、干した全草を煎じて、止血、月経不順、鎮痛、腫れものに用い、効能があるとされ、小連翹(しょうれんぎょう)の生薬名で知られる薬用植物である。 写真はオトギリソウ。左は曽爾高原。中は八経ヶ岳山頂の花。右は花と葉(黒点や黒線が見える)。

  日々暑しこの日々こなす齢かな

 

<2034> 大和の花 (276) サワオトギリ ( 沢弟切 )                     オトギリソウ科 オトギリソウ属

                     

  山地の水辺や湿気のあるところに生える多年草で、叢生し、高さ10センチから40センチほどになる。葉は倒卵形から長楕円形で、先は丸く、茎を抱かず、対生する。オトギリソウと異なり、葉には一面に明点が入り、縁には黒点が見られる。

  花期は7月から8月ごろで、茎頂の集散花序に黄色い1日花の5弁花を咲かせる。花弁や萼片にも明点や明線が見られる。北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)では紀伊山地においてよく見かける。 写真はサワオトギリ。左は群生して花を咲かせるところ。中は葉と花のアップ。右は一面に明点、縁に黒点の見える葉(西大台等)。  あのころといふ日ありけり夏木立

<2035> 大和の花 (277) ナガサキオトギリ (長崎弟切)            オトギリソウ科 オトギリソウ属

                                  

  サワオトギリ(沢弟切)の変種として知られるナガサキオトギリ(長崎弟切)は山地に生える多年草で、高さは30センチから40センチほどになり、数個叢生する茎の中部から上部で枝を出す。葉は長楕円形から倒披針形で、先端は丸く、基部はくさび形で、茎を抱かず対生する。サワオトギリと同じく、葉は裏面が白色を帯び、一面に明点が見られ、縁にわずかな黒点が入る。

  花期はサワオトギリと同じく、盛夏の7月から8月ごろで、茎頂の集散状の花序に黄色い直径1センチほどの5弁花を咲かせる。雄しべは多数、花柱は3個。萼片5個は広線形。実は蒴果で、熟すと褐色になる。全体的にサワオトギリに似て判別が難しく、分布域では、サワオトギリがほぼ全国的であるのに対し、ナガサキオトギリは四国、九州とする見解と東海地方以西とする見解、更には、サワオトギリが日本海側、ナガサキオトギリが太平洋側に見られるという見方もされているようである。言ってみれば、これはサワオトギリとナガサキオトギリが極めてよく似て、判別が難しいことを言っているということになる。

  紀伊山地に自生するものは果してどうなのであろうか。2種の違いは微妙で、まことに判別が難しい。敢えてここでナガサキオトギリをあげるのは、植物の中において常にこの問題が潜んでいるからである。写真の花は生える場所などを含めた全体的印象により、確実性は乏しいが、ナガサキオトギリと見た次第である。写真はナガサキオトギリ(ともに天川村の弥山登山道の標高1500メートル付近)。  店頭に西瓜の豊饒並びゐる

<2036> 大和の花 (278) コケオトギリ (苔弟切)       オトギリソウ科 オトギリソウ属 

                       

  湿気のある野原や休耕田などに生える多年草で、4稜のある茎は高さが数センチから30センチほどになる。柄のない広卵形の葉は長さ1センチほど。半透明の明点が散見され、対生する。花期は7月から9月ごろで、茎頂や枝先に直径1センチに及ばない黄色の5弁花を開く。花は朝開いて夕方には萎む1日花である。全国的に分布し、大和(奈良県)でも湿田などで見かける。 写真はコケオトギリ(桜井市笠など)。よく似るものに葉がやや厚く、雄しべが10個と多いヒメオトギリ(姫弟切)がある。

  生きるとは時の移ろひ見開く目即ち日月の扉に対かひ

 

<2037> 大和の花 (279) コゴメバオトギリ (小米葉弟切)      オトギリソウ科 オトギリソウ属

            

  セイヨウオトギリ(西洋弟切)を母種とする欧州原産の多年草で、1934年三重県で見つかった。いわゆる帰化植物で、日当たりのよい草地などに生える。高さは80センチほど、楕円状披針形の葉は小さく、これを小米に擬えこの名がある。葉には明点があり、縁には黒点が入る。

  花期は5月から7月ごろで、茎頂の集散状の花序に黄色の5弁花が集まってつく。葉が細く小さいので、日本産のオトギリソウとは一目で見分けられる。 写真はコゴメバオトギリ。両方の写真とも宇陀市山中の草原で。

   時を越え遠くより来しものたちを乗せて地球はまるい存在

 

<2038> 大和の花 (280) トモエソウ (巴草)                       オトギリソウ科 オトギリソウ属

         

  山地や丘陵の日当たりのよいところに生える多年草で、茎は4稜、下部は木質化し、大きいもので1メートルほどに直立する。葉は長さが5センチから10センチほどの披針形で、柄がなく対生する。花期は7月から8月の暑い盛りのころで、茎頂に直径4センチから5センチの黄色い5弁の花を数個上向きに咲かせる。花弁が捩じれ、巴形に開くのでこの名がある。花は朝方開いて夕方には萎む1日花で、写真は花が新鮮な朝方撮るのがよい。

  北海道から九州までほぼ全国的に分布し、国外でも朝鮮半島、中国、シベリア方面に見られるという。大和(奈良県)では、「生育環境が限られ、個体数もすくない」として2008年の奈良県版レッドデータブックでは絶滅危惧種にあげられている。最近、自生地の1つである大台ヶ原のドライブウエイ沿いでは増えている。

  なお、トモエソウは黄海棠(おうかいどう)の漢名を有する薬用植物で、全草を日干しにし、煎じて服用すれば、腫れもの、止血に効くという。 写真はトモエソウ(いずれも大台ヶ原ドライブウエイ沿い)。 増減は世の常まさにそれぞれの生にあるなり難題にして

 

 

 

 

 


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