大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年02月16日 | 植物

<1875> 大和の花 (144) イヌノフグリ ( 犬の陰嚢 )               ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

              

 膨らみのある蒴果の形からイヌの陰嚢(いんのう)を連想したことによりこの名がある在来の越年草乃至は2年草で、本州の中部地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、東アジアの一帯に見られるという。大和(奈良県)では、道端などで普通に見られていたが、同属で外来のオオイヌノフグリやタチイヌノフグリが入って来て勢力を伸ばし、繁茂するに従って姿を消し、今では石垣の隅に追いやられるような姿で生き残っている様子がうかがえ、奈良県のレッドデータブックには絶滅危惧種として見える。

  茎は地を這うように生え、下部で分枝し横に広がる傾向が見られる。少し厚みのある葉は下部で対生、上部で互生し、長さ幅とも2センチ弱の卵円形で、4個から8個の鋸歯を有している。花期は3月から4月ごろで、茎上部の葉腋から1センチに満たない花柄を出し、淡紅色に紅紫色のすじが入るミリ単位の花を1個つける。

 種子をアリが運ぶことで知られ、石垣の隙間でも生き継いで行けることが証明されている。だが、帰化した外来種に圧せられ、最後の砦とも言える石垣もコンクリートで固められる昨今の環境事情はイヌノフグリにとって著しく生き難い時代になっているのかも知れない。かわいらしい花だけに見ているといじらしさが募って来るところがある。  写真は石垣を住処にして生え、横に広がるようにして花を咲かせるイヌノフグリ(左)とイヌノフグリの花と若い実 (ともに奈良市内での撮影)。

    「かはいいね」言はれて見れば確かなるイヌノフグリの淡紅の花

 

<1876> 大和の花 (145) オオイヌノフグリ (大犬の陰嚢)    ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

          

  シソ科のホトケノザ(仏の座)とともにいち早く春を告げて咲き出し野を染める。ホトケノザの下向きに咲く紅紫色の花に対し、オオイヌノフグリは青空を映したような空色(瑠璃色)の花を上向きに開く好対照な花である。イヌノフグリが在来であるのに対し、オオイヌノフグリは西アジアから中近東が原産とされる外来の越年草乃至は2年草で、渡来は明治年間と目され、日本の風土に適合し、全国的に広がり、今ではイヌノフグリを完全に凌駕し、日本全土を席巻する勢いである。

  茎はよく分枝して広がり、群生する。葉はイヌノフグリと同じく、下部で対生、上部で互生するが、形は卵状広楕円形で、鋸歯がイヌノフグリよりも明らかに多く8個から16個で、葉でも違いがわかる。花期は3月から5月ごろであるが、場所によっては2月に花を見せる個体も見られる。花は直径1センチほどで、4裂する合弁の花冠には濃いすじが入り、2個の雄しべの葯がSF映画に登場する異星人の目玉を幻想させる。

  それにしてもかわいらしい花で、ルリカラクサ(瑠璃唐草)、テンニンカラクサ(天人唐草)、ホシノヒトミ(星の瞳)などの別名がある。 写真左は一面に咲くオオイヌノフグリ(夜間や雨の日は花を閉じる。右下の白い花はハコベ)。次は花をローアングルで見たもの。右は花とナナホシテントウムシ。テントウムシは花の周りによく姿を見せる。比較すると花の大きさがわかる。

 花に来てゐるものたちよ幸せを身に帯びながら働いてゐる

 

<1877> 大和の花 (146) タチイヌノフグリ (立犬の陰嚢)             ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

          

  欧州の原産とされる外来の越年草乃至は2年草で、明治時代に渡来した外来の帰化植物である。オオイヌノフグリほど目立たないが、全国各地に広がり、在来然としたところがうかがえる。茎は直立して高さが30センチほどになるのでこの名がある。

  対生する葉は2センチほどの広卵形で、上部では小さくなり、苞となる。花期は4月から6月ごろで、上部の葉腋に花冠が青色の花をつける。直径が5ミリ弱の小さな花で、花柄はほとんどなく、萼片や苞に埋もれるように咲く特徴がある。実は大きさが3、4ミリの扁平な蒴果で、葉にも実にも腺毛が目立つ。 写真は花を咲かせるタチイヌノフグリ(斑鳩の里と東吉野村の明神平での撮影)。

 梅だより三寒四温の日々にあり

 

<1878> 大和の花 (147) フラサバソウ                                            ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

           

 欧州が原産のイヌノフグリの仲間の越年草乃至は2年草で、世界に広く行き渡り、日本にも帰化して各地に広がりを見せている。茎が下部で分枝して繁殖し、ときに道端の草地などで群生している。1センチ前後の広楕円形の葉が互生し、2個から4個の鋸歯が見られる。花期は4月から5月ごろで、上部の葉腋から花柄を出し、ミリ単位のごく小さな淡青紫色で紅紫色のすじのある花を1個つける。花は4裂する合弁花で、イヌノフグリに似るところがあるが、花を被う萼片や葉や実に毛が生えているので見分けられる。

 それにしても、フラサバソウとは奇妙な名で、この名については次のような由来譚がある。フランスの植物学者A.FranchetとP.Savatierが明治時代の初めに共著として出した『日本植物目録』(1875年)にフラサバソウが記録されていた。だが、実物が見つからず、幻の植物になっていた。昭和12年(1937年)、このフラサバソウの長崎で採集した標本が発見され、この2人を記念して2人のFraとSavaを採って組み合わせフラサバソウと名づけるに至ったという。 

 写真はフラサバソウ。群生して花を咲かせるフラサバソウ(左)、長い毛がびっしりと生え、実も毛に被われており(中2枚)、花はオオイヌノフグリよりかなり小さいのが見て取れる(右)。明日香の里と河合町での撮影。

   遠くより呼ぶ声がする夢の中誰かは知らずふるさとの岡

 

 

 

 

 

 


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