<3629> 奈良県のレッドデータブックの花たち(155) シラビソ(白檜曽) マツ科
[別名] シラベ(白檜)
[学名] Abies veitchii
[奈良県のカテゴリー] 絶滅危惧種・注目種(旧絶滅寸前種)
[特徴] 亜高山の寒温帯域に分布するモミ属の常緑高木の針葉樹で、高さは普通20メートルほど。大きいものでは30メートル超のもあるという。だが、山頂部に見られるものは、風雪の影響により高さが抑えられる傾向が見られる。寿命は短く、樹齢数十年で帯状に枯れる縞枯れの特徴がある。枯れた後、時を経て種子の発芽があり、幼樹が生え出し復活する。
灰白色の樹皮は平滑で、脂(やに)の溜まった袋状の皮目がところどころに見られ、これを傷つけると香りのよい脂が出て来る。樹形は下部の枝ほど太く長いので、端正な円錐形になる。葉は長さが2~2.5センチの線形で、先がわずかに凹む。表面は青味を帯びた緑色で、光沢があり、裏面は白い2本の気孔帯が見られる。
雌雄同株で、花期は5~6月。雄花は前年枝の葉腋に垂れ、雌花は上部の枝の葉腋につき、暗紅色で、直立する。花は3年に1度くらいの間隔で開花結実する。球果は長さ5~6センチ、直径2~2.5センチほどの円柱形で、青紫色を帯び、先の尖った扇状の種鱗が目立つ。
[分布] 日本の固有種。本州の福島県から中部地方、紀伊半島、四国(四国に見えるものは球果がひと回り小さいので、シコクシラベの名で呼ばれ、本種と分ける考えもある)。
[県内分布] 五條市、天川村、上北山村の大峰山脈(八経ヶ岳の一帯)。
[記事] シラビソはモミ属の仲間で、モミ属の樹木は世界に約40種。日本にはモミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、トドマツの5種が自生し、大和地方にはモミ、ウラジロモミ、シラビソが自生し、シラビソはウラジロモミより標高の高い近畿の最高峰で知られる大峰山脈の主峰八経ヶ岳(1915メートル)山頂周辺の寒温帯域にトウヒと混生し(一部純林をなし)分布している。
この八経ヶ岳山頂付近のシラビソ、トウヒ群落を含む一帯は「仏経嶽原始林」として1922年、国の天然記念物に指定された。その後、台風の影響による枯死やシカによる樹皮の食害などで、危機的状況に至ったため、奈良県では絶滅寸前種にあげるとともにシカ避けの防護柵を設置するなどの対策を施し、減少を食い止めているとして、レッドリストは危険度を1ランク下げ、絶滅危惧種とした。奈良県は分布の南限に当たることから注目種にもあげている。 冒頭の写真は花期のシラビソ(左)、シラビソの幹(右)。
この2枚の写真はシラビソがトウヒと混生する八経ヶ岳で、左が2003年7月、右が2016年8月に弥山(1895メートル)登山道のほぼ同位置から撮影したもので、シラビソ、トウヒの樹木相にかなりの変化が見て取れる。
左の2003年では山肌全体にシラビソの立ち枯れて行く樹幹の白化現象が見られ、13年後の2016年では、縞枯れの後に幼樹が生え出し様相が一変している。しかし、シラビソが純林をなす山頂付近では、逆に2003年では異常は見られず、2016年では立ち枯れが酷くなり、山頂が痩せて見える。5年後の現在の写真はないが、八経ヶ岳のシラビソはかなり激変している。
最近ではシカ避けの防護柵が廻らされ、シカの食害の脅威は避けられている感があるが、地球温暖化による気温上昇の影響により山頂付近の縞枯れしたシラビソの純林には厳しく、トウヒ林に移行する可能性も考えられる。この上なおも温暖化が進めば、紀伊山地からシラビソが消えるかも知れないという懸念の思いも廻る。
人工は自然が基にあって成り立ち
意味を成すものになり得ている