shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Hi Infidelity / REO Speedwagon

2009-04-15 | Rock & Pops (80's)
 先日 shoppgirl 姐さんからいただいたコメントの中に “My 80's Best 3” というのがあって、ポリスの「見つめていたい」、バングルズの「胸いっぱいの愛」、そしてREOスピードワゴンの「涙のフィーリング」を挙げられていた。いつもながらの選曲センスの良さに改めて感銘を受けるとともに、“My 80's Best 3” という発想そのものがめっちゃ気に入ってしまった。私はかなりの気分屋でしかも優柔不断ときているので “Best 3” はおろか、“Best 20” でも悩むかもしれないし、下手をすると日替わりで首位が変わる可能性も十分だ。しかし上記の3曲は確実に入ってくるだろう。あと、シャーリーンの「愛はかげろうのように」と、シカゴの「素直になれなくて」も外せない。ティファニーの「思い出に抱かれて」もエエなぁ... などと、80'sへの想いはどんどん膨らんでいく。あかん、とりあえず “Best 50” ぐらいから始めよう(笑) shoppgirl 姐さんは私の音楽人生に新たな楽しみを付け加えて下さった恩人だ(^o^)丿 それとREOスピードワゴン、最近ご無沙汰気味だったので昨日久しぶりに聴いてみたらこれがもう最高に懐かしくって涙ちょちょぎれる展開に... これは当ブログで取り上げないわけにはいかない。
 アメリカの古い消防自動車からグループ名をとったREOスピードワゴンは1971年にデビューした後、売れない下積みの10年間を過ごし、“アメリカで最も売れていないが、長続きしているバンド。傑出した作品もなく、ワンパターンで永久にヘッドライナーにはなれない。”(←そこまで言うか!)などど酷評されていた。まぁ70年代後半のミュージック・シーンを考えてみれば、一番ワリを食うのがこの手のバンドというのは火を見るよりも明らかだった。
 しかし80年代に入ってシーンは再び「歌の時代」へと回帰した。オーディエンスはもう70年代後半の無味乾燥な音楽に飽き飽きしていたのだ。ちょうどその頃、ヴォーカルのケヴィン・クローニン(←本名です!そりゃ苦労するわな...)は “バラッドの中にエネルギーを込める” 唱法を体得、バンドもエネルギッシュなロックンロール一辺倒からメロディーに重点を置いた音作りをするようになっていた。ついに時代の欲求とバンドのサウンドがピッタリ合致したのだ。その結果、1980年の終わりにリリースされた11枚目のアルバム「ハイ・インフィデリティ」は翌81年に15週連続全米№1を続け、アメリカだけで900万枚を売り上げるモンスター・アルバムとなった。
 アメリカでこのアルバムが大ヒットしていた頃、私はちょうど大学に入学したところで、ここに収められた楽曲群を聴くと今でも新生活のスタートで燃えていた自分を思い出してしまう。特に私がハマッていたのが②「キープ・オン・ラヴィング・ユー」で、まさにグループの歴史を象徴するかのように16週間かけてゆっくりとチャートを上がっていき、ついに全米№1に昇りつめた、ロッカ・バラッドの王道を行く名曲だ。実はこの曲、日本ではキャッチーな④「涙のレター」(いくら何でもREOの邦題は「涙の...」が多すぎ。「涙のレター」→「涙のフィーリング」→「涙のドリーム」→「涙のルーズ・ユー」って... エピックソニーは洋楽ファンをナメてんの?)のB面に収められていたので知名度は低いが、この重厚なサウンドをベースにしてそこにこれ以上ないくらい素晴らしい歌詞を乗せたのが4年後の大名曲「涙のフィーリング」なんじゃないかと思う。他にも歯切れの良い痛快なロックンロール①「ドント・レット・ヒム・ゴー」や泣きのギター・ソロがたまらない⑤「テイク・イット・オン・ザ・ラン」など、“歌心溢れる”ナンバーが目白押し。そのポップなハーモニーの多用といい、ダイナミックでスリリングなサウンド展開といい、このアルバムはアメリカン・ポップスの原点を見事に描写した作品であり、今まさに花開かんとする80'sポップスの出発点だったのだ。

Keep On loving You - REO Speedwagon (HQ Audio).flv
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Steve Miller Band Live!

2009-04-14 | Rock & Pops (80's)
 スティーヴ・ミラー・バンドは日本であまり人気がない。それは音楽的にどうこうということではなく、バンドの存在自体が地味なのであまり紹介されてこなかったと言った方が正しいだろう。若くてイケメンでファッション・センスが良い...レコード会社が歓迎しメディアが競って取り上げるのは、概してこういうタイプのバンドである。しかしスティーヴ・ミラーは一見どこにでもいそうな太ったオッサンだ。しかも演っているのは何の変哲もないごくごくフツーのブルースをルーツにした渋いロックンロール... だからここ日本ではメディアへの露出が極めて少ないのだ。ちょうどAC/DCやZZ トップと同じである。
 私が初めて彼らの曲を聴いたのは1981年で、アルバム「サークル・オブ・ラヴ」からのシングル「ハート・ライク・ア・ホイール」がTop 20に入った時に「ベスト・ヒットUSA」で紹介されたのがキッカケだった。その抜群にカッコ良いノリノリのロックンロールは私の嗜好にピッタリで、思わぬ掘り出し物に私は大喜びした。早速その「サークル・オブ・ラヴ」とそれ以前のヒット曲を集めた「グレイテスト・ヒッツ1974-78」を購入、特に後者に入っていた「ジェット・エアライナー」や「ロックン・ミー」は「ハート・ライク・ア・ホイール」に勝るとも劣らないノリの良さで、私の中で“ステーヴ・ミラー”という名前は特別なものになった。
 それから1年たった1982年の夏、ニュー・アルバム「アブラカダブラ」がリリースされ、ファースト・シングルになったタイトル曲「アブラカダブラ」(アルバム・ヴァージョンよりもテンポを上げて正解!)が大ヒット、スティーヴ・ミラー・バンドの一番の魅力である“音楽を前へ前へと推し進めていくドライヴ感”が如何なく発揮されたこの曲はサヴァイヴァーやシカゴといった強者を抑えて見事全米№1に輝いたのだ。彼独特のあの鼻にかかった声、ヤル気があるのかないのか分からんような気だるい歌い方、妙に耳に残るネチッこいメロディー・ラインといった持ち味も健在で、先の2枚と併せて聴きまくったものだった。
 久々の大ヒットに気を良くしたのか、はたまたレコード会社がアブク銭を稼ごうと画策したのかは知らないが、翌83年に出た彼ら初のライブ盤がこの「スティーヴ・ミラー・バンド・ライブ!」である。大ヒット曲がズラリと並ぶ選曲はまさに“ライブ・ベスト”といっていい内容で、オーディエンスを楽しませる“ツボ”を心得た楽しいロックンロール・ショーが展開される。デトロイトでのライブということで、②「ロックン・ミー」では歌詞を “Northern California where the girls are warm” から “The Motor City where the girls are so pretty” に変えて歌い大喝采を浴び、③「リヴィング・イン・ザ・USA」ではハーモニカをフィーチャーしてカントリー・フレイヴァー溢れるR&Bを聴かせる。シンセ全開のスペイシーサウンドをライブで見事に再現した④「フライ・ライク・アン・イーグル」、レイドバックした曲想がめちゃくちゃ心地良い74年の全米№1ソング⑥「ザ・ジョーカー」、スティーヴ・ミラーの本性であるブルース魂を開陳した⑦「マーキュリー・ブルース」と、ポップな曲とブルージーな曲のバランスも申し分ない。ドライヴ感たっぷりのリズム・ギターがたまらない⑧「テイク・ザ・マネー・アンド・ラン」、82年を代表する大ヒットとなったマジナイ・ソングを更にアップテンポで聴かせる⑨「アブラカダブラ」、スタジオ録音を凌ぐ凄まじいノリを生み出すギター・リフが圧巻な⑩「ジェット・エアライナー」と、ノリの良いヒット曲3連発で盛り上げ、ラストは⑪「バッファローズ・セレナーデ」でブルージーにシメるというるニクイ構成だ。R&Bをベースにしたノリノリのロックンロールが満載のこのライブ盤、ドライブのBGMにピッタリの1枚だ。

Steve Miller Jet Airliner

ビートルズ、ついに全アルバムがリマスター!!!!!

2009-04-13 | The Beatles
 キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! 時の経つのは早いもので、思えばビートルズの全アルバムが初めてCD化された87年から既に20年以上の年月が過ぎ去った。当時はCDが普及し始めて間もない頃で当然デジタル技術もまだまだ未熟、アナログ・レコードに拘るマニアックなファンからは音が硬いだの高音がキツイだのとボロクソに言われていたが、すでにアナログLPに見切りをつけていた私はCD化されたというだけで大喜びし、すべて買い揃えて楽しんでいた。その後、デジタルのマスタリング技術は目覚ましい進歩を遂げ、90年代半ばぐらいにはCDの音が飛躍的に向上、アナログを超えたとは言わないまでもそれに近い自然な音で、しかも迫力のあるクリアなサウンドが聴けるようになった。その結果、それ以前に出たCDは今の耳にはハッキリ言って聴くに堪えない代物に成り下がってしまった。テクノロジーの問題だけでなく、マスタリング・エンジニアの感性にも大いに問題があったのかもしれない。さすがにビートルズのCDはジョージ・マーティン自らがマスタリングに関わったとというだけあって音のバランスは良かったが、残念なことにカッティング・レベルが低く迫力に欠けていた。
 その後CDレコーダーを手に入れてからは録音レベルを音が割れるギリギリまで上げてCD-Rに焼いて悦に入っていたものだが(←アホ?)、先日たまたま見たHMVサイトのトップ・ニュースで「21世紀に最高の音質で蘇る!初の全オリジナル・アルバム・リマスター盤、9月9日全世界同時発売決定!」という文字が目に飛び込んできた時は思わず声を上げてしまった。おぉ、ついにこの日がやってきたか!私はデビュー50周年にあたる2012年あたりを予想していたのだが、著作権etcの諸々の事情で前倒しされたのかもしれない。とにかくこのニュースはまさに青天の霹靂で、真夜中だというのに大コーフンしてしまって中々寝付けなかった(笑)
 一夜明けても頭の中はビートルズ・リマスターのことばかりで仕事も手につかない。まぁ世間は「ラヴ」の時みたいに「音が格段に良くなった」派vs「ビートルズの音に手を加えるなんてけしからん」派に分かれて喧々諤々賛否両論渦巻くのだろうが、嫌なら買わなければいいだけの話。私は当然買いますよ!「音がちょっと良くなったぐらいで中身の音楽そのものが変わるワケじゃなし...」と言われようが、「モノでもステレオでも一緒やろ」(←ミックス違いが色々あって楽しいんよ!!!)と言われようが、それがどーしたソー・ホワット!下らない新譜を買うぐらいなら音の良くなったビートルズを買って楽しむ方が遥かに理に適っていると思う。そんなことよりも今一番気になってるのは「ステレオ盤バラ売り」、「ステレオ・ボックス・セット」、「モノラル・ボックス・セット」という3つの選択肢のどれを選ぶべきかということと、日本盤と輸入盤のどちらを買えばいいのかという、この2点である。
 まず初CD化音源が一番多く含まれているのが「モノラル・ボックス・セット」で、「ヘルプ」から「ホワイト・アルバム」までの6枚分のモノ・ミックスと「ヘルプ」「ラバー・ソウル」のオリジナル・ステレオ・ミックス(87年の時はジョージ・マーティンがCD化に際してミックスをやり直したニュー・ヴァージョンだった)、それに「パスト・マスターズ」のモノ・ヴァージョンというからこれはもう何が何でも手に入れねばならない。かといって初期4枚のステレオ・ヴァージョンはアナログLPでも持っていないのでこれも絶対欲しい。ステレオ・ボックス・セットは“バラ売り+特典DVD”ということらしいから、結局2つのボックス・セットを買うことになりそうだ。まだ5ヶ月もあるから月1万5千円ずつ貯金していこう(^o^)丿
 日本盤vs輸入盤の件に関しては、今回はCDエキストラ仕様ということでさすがの東芝もCCCD化は無理やろな(笑) 心配なのは輸入盤DVDの方で、UK盤はPALの可能性が、US盤はリージョン1 の可能性が高い(>_<) パソコンやフリフリ・プレーヤーでしか見れへんのもイヤやし、かといって大嫌いな東芝EMI(ネイキッドやジョージのダークホース諸作再発をCCCDにした暴挙を私は許していない!)にお布施する気にもならんし... まぁあと半年もあるからもっと情報を仕入れてゆっくり悩むとしよう。

The Beatles Remasters Trailer
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Synchronicity / The Police

2009-04-12 | Rock & Pops (80's)
 70年代末期のアメリカのミュージック・シーンは惨憺たる有様で、アホの一つ覚えのようなワン・パターンのディスコ・ミュージックか、薬にも毒にもならないような無味乾燥なAORという二大潮流に収斂しており、イギリスでは「そんなかったるい音楽聴いてられるか!」とばかりに怒れる若者たちがパンクやニューウェイヴと呼ばれるプリミティヴなロックを次々と生み出していくという実にスリリングな状況だった。当時の私は音楽雑誌を通して情報を得るしかなかったのだが、それでも紙面を通してロンドンの過熱ぶりは十分に伝わってきた。ポリスはその登場してきたタイミングやら「ロクサーヌ」(何回聴いても「六さぁ~ん!」って聞こえてしまう... 和の鉄人orz)が放送禁止処分になったことやらでついつい他のニュー・ウェイヴ・バンドと一緒くたにされて紹介されることが多かったように思うが、私にはどこをどう聴いてもセックス・ピストルズやクラッシュとは全く異質の、高度な演奏技術を持った本格派のバンドに思えた。特にファースト・アルバム「アウトランドス・ダムール」とセカンド・アルバム「白いレガッタ」の“ハイスピード・ホワイト・レゲエ”とでも言えるような先鋭的なサウンドは凡百のニュー・ウェイヴ・バンドとは激しく一線を画す衝撃的なものだった。
 サード・アルバム「ゼニヤッタ・モンダッタ」(←それにしても凄いタイトルやね)やフォース・アルバム「ゴースト・イン・ザ・マシーン」になると、ポップなヒット曲と実験的要素をもった曲が絶妙なバランスの下に配置され、彼らが試行錯誤を重ねながらも音楽的に進化し続け、高度で先進的な音楽を演奏するようになっていった様子がそのサウンドにリアルに反映されていた。それは「ロクサーヌ」や「孤独のメッセージ」を聴いた後に続けて「マテリアル・ワールド」や「インヴィジブル・サン」を聴けば一聴瞭然で、その贅肉をそぎ落としたようなサウンドといい、インテリジェンス溢れるメッセージ性の高い歌詞といい、わずか3年しかたっていないというのにポリス・サウンドの進化には隔世の感があった。
 そして迎えた83年、80'sポップス黄金時代の幕開けといえる絢爛豪華なヒット曲がひしめくミュージック・シーンの中で突如としてリリースされたのが彼らの最高傑作にしてラスト・アルバムの「シンクロニシティー」である。ファースト・シングル⑦「見つめていたい」は絵に描いたような名曲で、8週連続№1を獲得、⑧「キング・オブ・ペイン」や⑨「アラウンド・ユア・フィンガー」といった後続シングルもスマッシュ・ヒットになり、それに引っ張られる形でアルバムも大ヒット、この年の全米アルバム・チャートではあの「スリラー」の37週に次ぐ10週の№1を記録、1年を通じてほとんどこの2枚が首位に居座っていたことになる。いやはや、何とも凄いアルバムだ。
 アルバム・タイトル曲「シンクロニシティー」はちょうどLPレコードでいうとA面のトップ①とラスト⑥にそれぞれⅠとⅡ(まったく別の曲!)が配置され、前半部の流れを形作っている。特にⅠの方はアグレッシヴでエッジの効いたサウンドが際立っており、初めて聴いた時はその異様なまでのテンションの高さに圧倒された。ⅡもⅠ同様にアップテンポのカッコイイ曲で、民俗音楽っぽい②「ウォーキング・イン・ユア・フットステップス」、3人の演奏技術の高さがに如実に示された③「オー・マイ・ゴッド」、後期クリムゾンみたいなアヴァンギャルド④「マザー」、トーキング・ヘッズあたりの影響も垣間見れる⑤「ミス・グラデンコ」といった個性的な楽曲群をサンドイッチした恰好になっている。⑩「サハラ砂漠でお茶を」と⑪「マーダー・バイ・ナンバーズ」はスティングのソロを予見させるようなジャジーなナンバー。個人的には聴きやすいB面よりも曲者揃いのA面をよく聴いている。
 エスニック、ジャズ、ラテン、プログレ、レゲエといった様々な音楽の要素をうまく取り入れながらそれを実験的なもので終わらせずに見事なロックに仕上げたポリス・サウンドの集大成と言えるこのアルバムは70年代後半に生まれたニューウェイヴ・ムーヴメントが到達した究極の姿と言えるのではないだろうか。

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It's Time For Tina / Tina Louise

2009-04-11 | Jazz Vocal
 今から約10年ほど前に私が白人女性ヴォーカルに本格的にハマッてブイブイいわしていたある日のこと、いつものように京阪神CDハンティングを終えて難波にあるジャズ専門店“しゃきぺしゅ”に流れ着いてコーヒーをごちそうになっていた時、たまたま壁に掛ってあった1枚のレコードに目が止まった。それはその筋では超有名なティナ・ルイスの「イッツ・タイム・フォー・ティナ」の日本盤LPで、私はジャケットのティナと思わず目が合ってしまった。その目が「買ってぇ~」と訴えかけているように思えた私は次の瞬間、店のご主人に「ちょっと見てもいいですか?」と言いながら壁に掛けてあるジャケットを手にとっていた。うーん素晴らしい... もちろんCDで持ってはいたけれど、やはりLPのジャケットには勝てない。ご覧いただければ一目瞭然、顔やスタイルが美しいのは言うまでもないセクシー系ジャケット(専門用語でcheesecakeって言います)の最右翼と呼べる逸品であり、右手を豊かな金髪にあてている腕の線が綺麗な、いわゆる“腕美人”ジャケットでもある。ここで買わねば男がすたる(なんでやねん!)と思った私はその時はまだLPレコードを聴けるアナログ・プレイヤーを持っていなかったにもかかわらず、その日が給料日で気が大きくなっていたこともあって衝動買いしてしまったのだ(←アホや)。その時はインテリアとして部屋に飾るのに3,400円なら安い買い物だ、ぐらいの気持ちだった。それ以前からアナログLPへの誘惑には必死で抵抗していたのだが、ティナの視殺線にコロッと参ってしまい、とうとうLPの世界に足を踏み入れてしまったという次第。しかし一旦ハマると後はとことんまでイッてしまうコレクターの哀しい性ゆえか、家に帰ってティナのLPジャケットを眺めながらCDを聴いてシアワセな気分に浸っているうちに(←これって最高の贅沢かも...)無性に他のLPも欲しくなってきて、美人女性ヴォーカルをLPで集めようと心に決めた。その後は女性ヴォーカル→インスト・ジャズ→オールディーズ→ビートルズ→その他のロック/ポップスと、好きな盤はすべてオリジナル・アナログLPで集めたのだが、そういった諸々すべてはこのティナ・ルイス盤との出会い(←不純な動機やけど...笑)から始まっており、私の猟盤人生の上で非常に重要な1枚なのだ。
 何だかセクシーなジャケットの話ばかりになってしまったが、中身の歌の方もコールマン・ホーキンスをはじめとする超一流ミュージシャンたちのツボを心得た伴奏をバックにまるで耳元で囁くようにしっとりと歌うティナの艶っぽい歌声がムード満点で、まさにジャケットのイメージ通りの音がスピーカーから聞こえてくる。全12曲、曲想の似通ったナンバーばかりをすべてバラッド・テンポで歌い切っており、普通なら途中で飽きてくるところだが、しっかりとした歌唱力に裏打ちされたその歌声にグイグイ魅き込まれ、43分がアッという間に過ぎていく。特に⑦「イッツ・ビーン・ア・ロング・ロング・タイム」で聴かせる蕩けるような歌声は、ペギー・リー、ドリス・デイ、イヴ・ボスウェル、キティ・カレンらの名唱に比肩する素晴らしさだし、⑤「アイム・イン・ザ・ムード・フォー・ラヴ」でホーキンスの絶妙なオブリガートをバックに聴かせる“ため息”ヴォーカルにはフニャフニャと腰砕け状態になってしまう。とにかく冒頭の“トゥナァ~イ♪”からラストの“グッナァ~イト♪”に至るまで、どの曲もメロディーの一音一音を大切にした素直なヴォーカルで、歌詞に込められた想いがダイレクトに伝わってくる歌い方がめっちゃエエ感じ。ただの“悩ましさ”をウリにしたお色気ヴォーカルとはワケが違う。
 “コンサート・ホール”という通販専門のマイナー・レーベルから発売されたオリジナルLPは軽く数万円はするという超希少盤。こーなってくるともう骨董的価値のある絵画を買うようなレベルだが、その値段がこの盤にそれだけの価値があることを逆説的に証明している。ジャケ良し歌良し演奏良しのこのアルバム... 女性ヴォーカル・ファンなら必聴の1枚だ。

Tina Louise - It's Been A Long Time (1957)
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Llllloco-Motion / Little Eva

2009-04-10 | Oldies (50's & 60's)
 プレスリーの時にも書いたが、私にはかつてオールディーズのヒット曲をオリジナル盤の生々しい音で聴きたいなどという無謀なことを考え、海外のオークションでせっせと入札を繰り返していた時期があった。60年代といえば今のようにアルバムを完成させてそこからシングルを切るのではなく、シングル・ヒットが何曲か出たからそれらを元にして1枚のアルバムを作ってしまおうという発想が主体だった。ましてや当時はシングル盤を中心に世界が回っており、LPは高級品でまだあまり普及しているとはいえず、売り上げも70~80年代と比べれば桁違いに少なかったので、そーいったレアな盤を40年以上も経って、しかも日本にいながら手に入れようなどというのは今にして思えばとんでもなく天地真理、じゃなくて甘い考えだったのだ。
 そのような悪条件にもかかわらず、レコードに関しては絶対に後に引かない私は難関といわれるロネッツやクリスタルズらのフィレス勢を皮切りにカスケーズ、エンジェルズ、シフォンズ、リトル・ペギー・マーチ、ディオン、ニール・セダカ、デル・シャノン、サム・クックetc 片っ端からイキまくったのだが、そんな中で意外なほど競争が激しくて苦労したのがマーヴェレッツのタムラ盤、パリス・シスターズのサイドウォーク盤、そしてこのリトル・エヴァのディメンション盤だった。
 リトル・エヴァといえば何はさておき「ロコモーション」である。キャロル・キング家のベビーシッターとして働いていた黒人女性歌手リトル・エヴァの唯一にして超特大ヒットとなったこの曲は、まず62年にエヴァのオリジ・ヴァージョンで全米№1、74年には何とあのグランド・ファンク・レイルロードによる痛快無比なハードロック・カヴァーで再び全米№1に輝き、更に88年にはカイリー・ミノーグによる軽快なダンス・ポップ・カヴァーで全米3位をマークするという、まさに絵に描いたような名曲で、日本では“さぁさぁダンスのニュー・モード...♪”で始まる伊東ゆかりのカヴァーで有名だ。作者はもちろんジェリー・ゴフィンとキャロル・キング夫妻の黄金コンビで、元々はディー・ディー・シャープのために書いたのに彼女に気に入ってもらえず歌うのを拒否されたので、エヴァのヴァージョンをレコード化したら大ヒットしたという、オールディーズの世界ではよくあるサクセス・ストーリー(スプリームズとか、ホリーズとか...)だ。バック・コーラスは、この後ゴフィン=キング作の「チェインズ」(ビートルズがファースト・アルバムでカヴァー)をヒットさせたクッキーズというからブリル・ビルディング・パワー恐るべしである。エヴァのパンチの効いた歌声とバックの快活な演奏はパワー・ポップの源流といっていいほどで、この曲のテナー・サックス・ブロウがあのデイヴ・クラーク・ファイヴに多大な影響を与えたという話は有名だ。
 LPには全13曲入っており、「ロコモーション」以外はオマケみたいなモンだが、ニール・セダカの「悲しき慕情」、クリスタルズの「アップタウン」、シュレルズの「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」あたりの有名曲カヴァーがエエ感じ。拾い物は「プリーズ・ミスター・ポストマン」と「マッシュト・ポテト・タイム」を足して2で割ったような「キープ・ユア・ハンズ・オフ・マイ・ベイビー」とゴフィン=キングの隠れ名曲「ヒー・イズ・ザ・ボーイ」で、この2曲は結構気に入っている。それ以外は filler と呼ばれる穴埋め用の退屈な曲で、まぁ売れない頃のクリスタルズみたい、っていえばわかる人にはわかるハズ。
 この後リトル・エヴァはヒットらしいヒットも出せずにフェイド・アウトしてしまったが、彼女は「ロコモーション」一発でオールディーズ・ポップス史に永遠にその名を刻みつけたのだ。

Little Eva The Locomotion

Foreigner 4

2009-04-09 | Rock & Pops (80's)
 英米混成バンド、フォリナーは“元スプーキー・トゥースのミック・ジョーンズ(ギター)と元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルド(キーボード)が結成したスーパーグループ”という華々しい前宣伝で77年にデビューした。しかし当時の私はまだ「宮殿」を聴いたこともなければスプーキー・トゥースなんて名前も知らなかったので、音楽雑誌でデカデカと取り上げられていても「それがナンボのもんじゃい!」ぐらいの認識しかなかった。
 そんなある日のこと、ラジオから彼らのセカンド・シングル「コールド・アズ・アイス」が聞こえてきて、あのイントロで連打されるキーボードに耳が吸いついた。曲そのものはブリティッシュ特有の翳りのあるストレートなロックながら、リード・ヴォーカルのルー・グラムのイキの良い声といい、ツボを心得た見事なコーラス・ハーモニーといい、メロディアスでありながらドラマティックな曲構成といい、他のバンドとは激しく一線を画すカッコ良いサウンドがすっかり気に入ってしまった。
 翌78年、セカンド・アルバム「ダブル・ヴィジョン」が出た時はすぐに輸入盤屋へ買いに走ったのを覚えているが、爽快なアメリカン・ハードロック「ホット・ブラッディド」、70’sブリティッシュ・ロックの薫りが横溢するタイトル曲「ダブル・ヴィジョン」や「ブルー・モーニング・ブルー・デイ」と英米混成バンドの面目躍如といえる素晴らしい出来だった。
 79年にはサード・アルバム「ヘッド・ゲームズ」をリリース、女の子が男性用便器に腰掛けてる悪趣味なジャケット(仲間内では“トイレット・ギャル”って呼んでた...)とは裏腹に、何か吹っ切れたようなストレートアヘッドなロックンロールが痛快だったが、このアルバムを境に彼らは“大時代的なブリティッシュ・ロック”と決別、今にして思えばそのことがイアン・マクドナルドとアル・グリーンウッドの脱退を暗示していた。
 デビュー以降年1作のペースでどんどん新作を出し続け、ミリオン・ヒットを連発していたフォリナーが2年間スタジオに籠り、来るべき80年代に向けて練りに練って作り上げた最高傑作がこの「4」である。クレジットを見ると全10曲中6曲がミックとルーの共作で残りの4曲がミックの単独作ということで、明らかにミック・ジョーンズ主導の“ポップな王道ロック”の究極の姿がここにある。
 アルバムはルーのシャウトがかっこ良いノリノリのロックンロール①「ナイト・ライフ」で幕を開ける。続く②「ジュークボックス・ヒーロー」もハードなロックンロールで、口の悪い連中は“産業ロック”と揶揄するが、私に言わせれば“キャッチーなメロディーをハードロックのイディオムで表現したカッコ良い演奏”だと思う。ミックお得意のキーボードを多用したポップ・ロック③「ブレイク・イット・アップ」に続く④「ウェイティング・フォー・ア・ガール・ライク・ユー」は全米チャート10週連続2位という珍記録(ずーっとオリビアの「フィジカル」に抑えられていた...)を打ち立てたことで有名だが、エアプレイの比重の大きいラジオ&レコーズ誌では逆にオリビアを抑えて(放送禁止になった州もいくつかあったし...)6週連続1位になったことでも分かるように、ラジオ受けしそうな必殺の名バラッド。私も当時アホみたいに聴きまくった覚えがある(笑) ただ、これで味をしめたミックがこの後シカゴみたいなバラッド路線に軸足をシフトしちゃったのが残念。⑥「アージェント」はエレクトロ・ポップ風の摩訶不思議なイントロが耳に残るユニークな曲で、ヒップな間奏のサックス・ソロもルーのテンションの高いヴォーカルも◎。シングル曲以外にもどこか懐かしい響きを持ったサビのメロディーが印象的な⑧「ウーマン・イン・ブラック」、いかにもフォリナーな泣きのメロディーがたまらない⑨「ガール・オン・ザ・ムーン」と、絵に描いたような名曲名演がズラリと並ぶ。フォリナーのアルバムは基本的に全部好きだが、どれか1枚となればやはりこの「4」をベストに挙げたい。

Jukebox Hero

Bossa'n Beatles / Rita Lee

2009-04-08 | Beatles Tribute
 ボサノヴァは元々アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトといったブラジル音楽界の猛者たちが50年代後半に確立した音楽ジャンルで、クラシック・ギターを指でつま弾きながら呟くようなヴォーカルで抑制されたメロディーを歌うというスタイルが大きな特徴だった。しかし時が経ちそのグローバル化に比例するようにより洗練された聴きやすいサウンドへと変化するにつれて、誰もがそのメロディーを知っているような有名曲をゆる~いヴォーカルで歌った心地良い脱力系サウンドの総称として広義に解釈されるようになった。そういった新感覚ボッサは日本ではカフェなどで流れるお洒落感覚のBGM、いわゆるラウンジ・ミュージックとして定着しつつある。以前アルゼンチンのレーベルが仕掛けたストーンズ・ナンバーのボサ・ノヴァ・カヴァー集「ボッサン・ストーンズ」を取り上げたことがあったが、その後も「ボッサン・ローゼズ」や「ボッサン・マーレイ」といったいわゆる「ボッサン」シリーズが次々と作られ、そのどれもがヒット。一方本家ブラジルも負けじとボサ・ノヴァ界の巨匠ロベルト・メネスカル・ファミリーを中心とした“アルバトロス・ミュージック”レーベルが「ビートルズ・イン・ボッサ」や「カーペンターズ・イン・ボッサ」といったコンピレーション盤を続々発売、他にも大小様々なレーベルがまるでアホの一つ覚えのように既製の名曲の数々をボッサ化し、世はまさに“ボッサ・ウォーズ”の様相を呈してきた。そんな中、“単独アーティストによる” 一味も二味も違うビートルズ・ボッサ・カヴァー集としてリリースされたのがヒタ・リーの「ボッサン・ビートルズ」である。
 彼女は大のビートルズ・ファンで、パーカッシヴなボサ・ノヴァ、すなわちボッサン・ロールというスタイルを確立した“ブラジル・ロック界のクイーン”的なシンガーである。そんな彼女が念願叶って吹き込んだこの盤には彼女のビートルズ愛が溢れており、同じビートルズ・ファンとして彼女の悦びがダイレクトに伝わってくる。彼女はティーンエイジャーの頃から慈しんできたビートルズ曲のメロディーを崩すなどという勿体ないことはしない。リラクセイションに満ちたボサ・ノヴァのリズムをバックに珠玉のビートルズ曲を気持ち良さそうに歌うヒタ・リーの抑制されたヴォーカルには小賢しいアレンジなど必要ない。①「ア・ハード・デイズ・ナイト」はボサノヴァではなくまさにボッサン・ロールそのもののユルいロックアレンジが斬新だ。名刺代わりの1曲といったところか。②「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ」から本格的なボサ・ノヴァ・スタイルに突入、リンゴが歌った呑気な曲が信じられないくらい見事にボッサ化されている。囁くようなヴォーカルがたまらない③「イフ・アイ・フェル」、力の抜き具合が絶妙な④「オール・マイ・ラヴィング」、曲がニッコリ微笑んでいるような素敵なボッサ⑤「シー・ラヴズ・ユー」、パリのエスプリがそこはかとなく漂うフレンチ・ボッサ⑥「ミッシェル」、曲を慈しむように歌う姿勢に心打たれる⑦「イン・マイ・ライフ」、辛口バラッドを旨口ボッサに昇華させた⑧「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」と、もう名曲名演のアメアラレである。アコーディオン入りでウキウキするようなボッサン・ロール⑨「抱きしめたい」、透明感溢れるヴォーカルが心に染み入ってくる⑩「ルーシー・イン・ザ・スカイ」、そして③⑦⑧のポルトガル語ヴァージョンが続き、ラストが⑭「キャント・バイ・ミー・ラヴ」でこれもポルトガル語で歌われている。“トゥド ポラァ~モ~ォ~♪”って、ポルトガル語で聴くビートルズも中々おつなものだ。
 だんだん暖かくなってきて陽射しが柔らかく感じられるこの時期、ヒタ・リーの素敵なボッサに浸りながら(←コレが言いたかった...笑)テラスで過ごすブリリアントな午後というのもエエんじゃないでしょうか?

Em minha vida (In my life - Beatles by Rita Lee)

Boston

2009-04-07 | Rock & Pops (70's)
 これまでの音楽体験の中で、“天地が逆になるくらい衝撃を受けた新人バンドのデビュー・アルバム”というのが数枚ある。ビートルズやゼッペリンは残念ながら後追い聴きだしエイジアは新人とは言い難いので除外するとして、リアルタイムで聴いて腰を抜かすほど衝撃的だったのはヴァン・ヘイレン、ダイアー・ストレイツ、ナック、ポリス、そしてこのボストンである。偶然にもすべて70年代後半にリリースされたアルバムだが、多分ミュージック・シーンの流れにおけるオールド・ウェイヴとニュー・ウェイヴの節目にあたるのがこの時期なのだろう。特にアメリカン・ロックの流れの中でボストンの出現というのは後のアメリカン・プログレ・ハードを標榜する幾多のバンドの台頭への道筋をつけたという意味においてエポックメイキングな出来事だったといえる。
 アメリカ随一の名門であるマサチューセッツ工科大在学中にギターを独学でマスターし、卒業後はポラロイド社に勤めていたトム・シュルツが趣味で作った12トラックのホームメイド・テープがボストンの始まりだった。そのテープに興味を持ったエピックとレコーディング契約を結んだトムは地元で名の知れたミュージシャンを集めてボストンを結成し76年にデビュー、シンセサイザーを一切使わずに(セカンド・アルバムの見開き中ジャケにデカデカと “No Synthesizers Used, No Computers Used” って但し書きアリ)ギターとコーラスだけで壮大なサウンドを作り出したこのアルバムは史上最も売れたデビュー・アルバムとなったのである。
 彼らのサウンドは、ELP型プログレッシヴ・ロックとパープル型ハードロックをしっかりかきまぜて、そこにドゥービー・ブラザーズっぽいノリとイーグルスっぽいコーラス・ハーモニーをたっぷりふりかけ、アメリカ人的な明るいポップ・センスでじっくりと煮込んだような、当時としては非常に斬新なものだった。ファースト・シングルになった①「モア・ザン・ア・フィーリング(宇宙の彼方へ)」は宇宙的な広がりを感じさせるメロディアスなハードロックで、幾重にも重ねられた分厚い音のハーモニーが圧巻だ。まるで曲のテンポを設定しているかのようなハンド・クラッピングも実に効果的に使われている。②「ピース・オブ・マインド」はまるでドゥービー・ブラザーズのようなエッジの効いたシャープなリズム・カッティングと爽快感溢れるコーラス・ハーモニーに涙ちょちょぎれる。これぞアメリカン・ロックといえるカッコイイ曲だ。③「フォープレイ / ロング・タイム」は一転ELPの「タルカス」や「恐怖の頭脳改革」を髣髴とさせるプログレ・サウンドが展開され、初めて聴いた時は①②とのギャップに唖然としたものだ。しかしメドレー後半はちゃんと①と②を足して2で割ったようなサウンドへと収斂していく。トム・シュルツ恐るべしだ。④「ロックンロール・バンド」は題名通りかなりストレートなロックンロールだが、楽曲としては今一歩ツメが甘いかも。⑤「スモーキン」はまるでエディー・ヴァン・ヘイレンの「アイム・ザ・ワン」のようなリフから始まるハードでキャッチーなナンバー。間奏でオルガン・ソロに突入するあたりなんかは完全にディープ・パープルが憑依、こーゆーの、ハッキリ言って大好きです!!! クイーンも真っ青のメロディアスで緻密な音世界が素晴らしい⑥「ヒッチ・ア・ライド」、まさにボストン・サウンドの魅力を濃縮還元したようなキャッチーなアメリカン・ロックの⑦「サムシング・アバウト・ユー」、後のスティクス・サウンドに与えた影響の大きさがわかる⑧「レット・ミー・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト」と、まるでアメリカン・プログレ・ハードの原点のような楽曲が並ぶ。かくして幻想飛行に飛び立ったボストン号は後ろを振り返ることなくこの2年後に新惑星着陸を果たし再び大反響を巻き起こすことになるのだが、それはまた別の話。

Boston - More Than A Feeling (Sound Remastered)

The Ventures Play the Batman Theme

2009-04-06 | エレキ・インスト
 以前“苦手な名盤”について書いたことがあった。世評はめっぽう高いのに自分にはまったくその良さが分からない困った盤のことである。逆に何でこんなエエ盤が話題に上らへんねやろ?と思わず首をかしげたくなるような、いわゆる“自分だけの名盤”も多い。私にとってそんな私的名盤の1枚がこの「バットマン・テーマ / ベンチャーズ」である。
 ベンチャーズの名盤と言えばまず頭に浮かぶのが「ライブ・イン・ジャパン」であり、スタジオ録音盤なら「ウォーク・ドント・ランVol.2」、「ノック・ミー・アウト」といった中期の傑作だが、この「バットマン・テーマ」だって負けてはいない。しかしこのアルバムを褒めるどころか話題にするレビューや感想にすらお目にかかったことがないのだ。それは何故か?考えられる理由は3つ:(1)「ラップ・シティ」「ウォーク・ドント・ラン'64」「10番街の殺人」といった“この1曲!”と呼べる超有名曲が入っていない、(2)“TV番組のテーマ・ソング集”ということで軽視or無視されている、(3)トホホな超手抜きジャケットがチープ感を更に増幅している... そんなところだと思う。私だって実際に聴いてみるまではこの盤の存在など歯牙にもかけなかった。たまたま「EPコレクション」で聴いた「秘密諜報員」が気に入ってこのCDを買ったのだが、聴いてビックリとはこのことだ。とにかく収録されている楽曲群の充実度は上記のアルバムに引けを取らないと思う。
 ①「バットマン」は原曲が単調なメロディーの繰り返しなので女性コーラスやキーボードを多用するなどアレンジに工夫が見られるが、わざわざベンチャーズがやらなアカンほどの曲とは思えない。マーケッツで十分ではないか。まぁ曲の知名度だけは高いので一種の話題作りだろう。②「ゾッコ」はどっかで聴いたリズム&メロディーやなぁ...と思ったらゼッペリンの「移民の歌」(日本ではブルーザー・ブロディーのテーマとして有名?)にそっくりやん!ジミー・ペイジがベンチャーズの大ファンやというのは知ってたけど、これほどとは(゜o゜) ③「ジョーカーズ・ワイルド」は007のテーマにそのまま使えそうな曲。だだし時折挿入される変な笑い声は不要だと思う。④「ケープ」はチャンプスの「テキーラ」みたいなリズムに乗せてスパイ映画の主題歌みたいなメロディーが奏でられる不思議な曲。メル・テイラーの律儀なドラム・プレイが爽快だ。⑤「007-0011」は文字通りジェームズ・ボンドの007とナポレオン・ソロの0011を合わせたようなカッコイイ曲想がたまらないキラー・チューンで、個人的には全ベンチャーズ曲でトップ3に入るほど愛聴している。過小評価されがちなベンチャーズの作曲能力の高さを改めて思い知らされる1曲で、本盤収録の他のTVテーマ曲が霞んでしまうほどのクオリティーだ。⑥「ナポレオン・ソロのテーマ」は①と同様単調なメロディーをごまかすための女性コーラス・フィーチャーがミエミエで、LPならA面ラストということでまだ救いがあるがCDで聴くと⑤と⑦に挟まれて間延びした印象しかない不憫な曲。⑦「秘密諜報員」はノーキー・エドワーズの縦横無尽なギター・プレイが堪能できる文句なしのロックンロール。単なるTVドラマ主題歌をここまで見事なロックンロール・ナンバーに昇華させたベンチャーズの手腕には脱帽だ。⑧「ホット・ライン」、待ちに待った“テケテケテケ...”がついに出たぁ!!! これだけでもうメシ3杯は喰えそうだ(笑) ⑨「ヴァンプキャンプ」は「ミナミの帝王・エンディング・テーマ」の原型とおぼしきイントロから始まるミディアム・スローなロック曲。演奏はエエねんけど、③と同様に気持ち悪いサウンド・エフェクトは不要だ。⑩「若さでジャンプ」はドン・ウィルソンのリズム・ギターがカッコいい。⑪「それ行けスマートのテーマ」は何か②と⑨を足して2で割ったような感じ... ということはゼッペリンの元ネタをたどっていくと... あかん、考えんとこ(>_<) ⑫「グリーン・ホーネット’66」はアルバムの最後を飾るに相応しいノリの良い演奏で、ここでは女性コーラスも効果的に使われている。
 このようにいいことづくめのアルバムなのだが、日本盤CDはマスターテープ不良のためか数曲で明らかに音がこもる箇所があるので×、東芝EMIはCCCDに固執して姑息な策を弄してる暇があったらまずこーいった不手際を正せと言いたい。

The Ventures - Secret Agent Man (1984)

Blame It On The Bossa Nova / Eydie Gorme

2009-04-05 | Jazz Vocal
 日本人はマイナー調のメロディーが好きだとよく言われる。昔ながらの歌謡曲はもちろんのこと、かつて一世を風靡した「ランバダ」や“泣きのジャズ“の定番「レフト・アローン」を例に挙げるまでもなく、哀愁を帯びた旋律は日本人の心の琴線を震わせやすい。
 80年代中頃にたばこのCMソングとしてイーディー・ゴーメの③「ザ・ギフト」という曲がお茶の間に流れていたことがある。原題を「リカード・ボサ・ノヴァ」といって、ジャズ・ファンの間ではハンク・モブレイの名演で有名なこの曲、哀愁のメロディーとラテンのリズムが見事にハマッた“いかにも日本人好みのする”洒落たボサ・ノヴァで、イーディ・ゴーメという名前を知らなくてもこの曲を聴けば「あぁ、何かどっかで聴いたことあるなぁ...」と思い出す人が多いかもしれない。私もそんな1人で、そのCMが流れていた当時はマドンナやマイケル・ジャクソンといったいわゆる80'sポップス一筋の生活を送っていたため、ボサ・ノヴァもクソもなかった(笑)のだが、それから約10年経ち、女性ヴォーカルに開眼して色々聴き漁っていた頃たまたまこの「ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノヴァ」というアルバムをレコード屋で聴かせてもらい、この曲との再会を果たした。マイナー調のメロディーが大好きな私は「うわぁ~、めっちゃ懐かしい感じのするこのメロディー... たまらんなぁ(≧▽≦)」ということで即購入。厚化粧のオバQみたいなジャケットが玉にキズだが、中身の方は文句の付けようがないくらい素晴らしい。
 ゴーメはデビュー直後の1950年代後半のABCパラマウント時代が声に張りと艶があり彼女の旬だと言われる。確かにその通りだけれど、親しみやすいメロディーを持った名曲の数々を軽快なラテンのリズムに乗って伸びのある歌声でハツラツと歌うこのコロムビア盤の方が遥かに聞きやすいと思う。つまりゴーメとしてはベストではないかもしれないが、聴く方にとってはベストのゴーメだということだ。ましてやこのアルバムが録音されたのはボサ・ノヴァが文字通り“新しい波”として世界的にブームになりつつあった1963年だから、あらゆる条件がプラスに作用し大ヒット(全米アルバム・チャートで22位まで上がった!)したのも頷ける。
 個々の曲に関して言うと、スイートで可愛らしい②「メロディー・ダモール」やエキゾチックな雰囲気横溢の⑤「ダンセロ」、リラクセイション感覚溢れる本格的ボッサ⑦「ディサフィナード」なんか癒し効果抜群だし、エルジー・ビアンキの名唱で有名な④「ザ・スウィーテスト・サウンズ」は哀愁舞い散るメロディーと乾いたボサ・ノヴァがベストのマッチングを聴かせてくれるキラー・チューンだ。アルバム・タイトル曲⑥「ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノヴァ(恋はボサ・ノヴァ)」は何とあのバリー・マン&シンシア・ウェルという超強力コンビの作品で、そのせいかポピュラー歌手であるゴーメが全米シングル・チャート7位にまで上がるという快挙を達成、ポップス・ファンにまでその名を知られるようになった記念すべき大ヒット曲だ。私の愛聴曲⑨「オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ」や超有名曲⑩「ムーン・リヴァー」、どちらも他に類を見ないアップ・テンポのボッサ・アレンジで賛否両論あるだろうが、私はめっちゃ気に入っている。マンデル・ロウの軽快なギターが絶品だ。とにかく全12曲、実に聞きやすい歌と演奏のオンパレードで「ザ・ギフト」以外にも聴き所が満載の、“アルバム1枚通して捨て曲なし”といえる名盤だと思う。

Eydie Gorme The Gift!(Recado Bossa Nova)

Elvis' Golden Records / Elvis Presley

2009-04-04 | Oldies (50's & 60's)
 これまで自分が買ったレコードやCDには様々な思い出が染み付いている。いつ頃どこのレコ屋で買ったとか、ネット・オークションで希少盤を何故か無競争で落札できて超オイシイ思いをしたとか、逆に猛追を受けてヒヤヒヤしたとか、その音楽の内容とは別に、ある意味これまでの自分の猟盤人生が詰まっていると言っても過言ではない。たいていは良い思い出なのだが、中にはそのレコードを見るたびに苦い思い出が蘇ってくるものがいくつかある。この「エルヴィスのゴールデン・レコード第1集」もそんな1枚だ。
 80年代以降、音楽メディアは完全にアナログLPからCDへと移行し、私は何の疑いもなく「CDの方がLPよりも音が良い」と信じていた。やがてジャズを聴くようになりオーディオをグレード・アップして“オリジナル(初版)LPの方がCDよりも断然音が良い”(いくつか例外もあったけど...)ことを発見、愛聴CDはオリジナルLPで買い直してその生々しい音を楽しんでいた。ある時ふと「ジャズでこれやったらロックやポップスもエエ音で聴けるんちゃうやろか?」と思いつき、試しにロネッツを獲って聴いてみるとこれがまた凄い音でビックリ(゜o゜)、“真空管アンプ+大型ホーン・スピーカー”というヴィンテージ・システムが60年代のサウンドにベストのマッチングをみせ、迫力満点の豊潤なサウンドが楽しめて私はすっかり有頂天になった(^o^)丿 それからは狂ったように50's 60'sのオールディーズをLPで集め始めた。ジャズでもポップスでも状態の良いオリジナル盤を日本で探すのは至難のワザなので、入手方法はおのずと海外のネット・オークション eBay に限られてくる。最近はご無沙汰だが、2002~2004年頃は多い時で一日に5~6枚のブツが届き、郵便配達のオッチャンが目を丸くしていたものだ(笑)
 そんな或る日、1枚のLPが届いた。差出人を見ると待ちに待ったエルヴィス盤のセラーだ。ついに来たか(^o^)丿 以前に獲ったエディー・コクランのリバティ盤が物凄い音してたので二匹目のドジョウを狙ってエルヴィス盤を獲ったのだ。LPレコードというのはふつうレコード発送専用のブ厚い段ボール箱に梱包して送るのが一般的なのだが、そのブツは薄っぺらいボール紙で包まれてるだけで、私はパッと見ただけで嫌な予感がした。手にとって見ると中から「カラカラ~♪」と音がする(((( ;°Д°)))) ここで私の不安はMAXに!開封してみると中から出てきたのは無残に砕け散ったLPレコードの破片だった...((+_+)) まさに天国から地獄とはこのことだ(>_<) 割れたレコードが届いたのはその時が初めてだったせいもあって私は大ショックを受けた。それからしばらくは会う人会う人に「どないしたんや?具合でも悪いんか?」と聞かれるほど落ち込んでいた。結局そのレコードはセラーに送り返して返金してもらい、別のしっかりしたセラーから改めて獲り直して送ってもらったのだが、嫌な思い出だけが残った。その後も何回か割れたレコードが届いたことはあった(特にRCA盤と初期マーキュリー盤が割れやすい...ビニールの材質の問題かな?)が、エルヴィス盤で免疫が出来ていたせいか、「ああ、またか」という感じでそれほど動揺もしなくなった。しかし今でもこのジャケットを見るとあの「カラカラ~♪」という音が頭の中に響き、中からレコードの破片が出てきそうな気がする(←完全にトラウマやん?)
 中身の音楽についてはもう何も言う必要はないだろう。この盤に封じ込められたプリミティヴなパワー、爆発的なエネルギーの奔流を体験すれば、いみじくもジョン・レノンが言っていた “Before Elvis Presley, there was nothing.” (エルヴィス以前には何もなかった)という言葉の意味を実感できるハズだ。「世界を変えた」のはビートルズだが、そのきっかけを作ったのは紛れもなく“ザ・キング”エルヴィスだったのだ。

Elvis Presley Milton Berle Show 5 Jun 1956: Hound Dog

Eliminator / ZZ Top

2009-04-03 | Rock & Pops (80's)
 ZZ トップの凄さを説明するのは本当に難しい。理屈や理論が通用しないから、身体でその凄さを感じ、理解しなければならない。コンサートに足を運ばせ、凄いライブを見せつけ、レコードを売るというロックの基本ともいえる方法論を地道に実践してきたのが彼らなのだ。何といってもストーンズの73年全米ツアーで前座を務め、全盛期のストーンズを食ってしまったというからライブ・バンドとしての実力は折り紙つきだ。そんな彼らの名を世界中に知らしめた大ヒット・アルバムがこの「エリミネイター」である。
 このアルバムで彼らは特に目新しいことをやっているわけではない。一言でいえば昔ながらの“ブルースに根ざしたハード・ドライヴィング・ブギーとサザン・ロックの融合”ということになる。①「ギミ・オール・ユア・ラヴィン」はまるでこの1曲にZZ トップの魅力を凝縮したような感じで、ビリー・ギボンズのギターが唸り、ダスティー・ヒルのベースが重戦車のようなリズムを刻み、フランク・ベアードのドラムが躍動感あふれるビートを叩き出す… これで身体が揺れなければロックンロールとは無縁の人だ。②「ゴット・ミー・アンダー・プレッシャー」はアップテンポのロックンロールで間奏のギター・ラインがカッコいい。③「シャープ・ドレスト・マン」は①と同じようなノリを持つ豪快なブギー・ロックで、パワフルで分かりやすいZZ トップ・サウンドを絵に描いたような名曲名演だ。ドライブのBGMとしても最高で、ハイウェイを飛ばすドライバー達がガソリン・スタンドやドライブ・インでこのアルバムのカセット・テープを買うことが多かったため、売り上げの半分近くがテープだったというのも頷ける話だ。④「アイ・ニード・ユー・トゥナイト」はブルージーなギターが炸裂するスローなナンバーで、ジミヘンが絶賛したといわれる彼らのブルース魂は80年代に入っても不変といったところか。⑤「アイ・ガット・ザ・シックス」はZZ トップ版ハードロックで、ここでも彼ら独特のノリが威力を発揮、特にシュアーなビートを刻み続けるドラムのプレイが印象的だ。
 ⑥「レッグズ」は全米チャート8位という、シングル・ヒットとはほぼ無縁だった彼らにしては珍しい大ヒットで、ロックンロールの基本とでもいうべきシンプルでストレートなブギー・ロックがめちゃくちゃカッコいい曲。更にそのビデオ・クリップも、毎日イジメられてた女性をZZ トップと謎の美女軍団が助けるという超お約束的な展開ながら、ついつい見入ってしまう非常によく出来た作りになっており、MTVで頻繁にかかっていたのを覚えている。脚の綺麗なオネーチャンたち以外にも、ギターやベース(それも毛付き!)をくるりと回すお得意のパフォーマンスやZZ ダンスなど見所満載だ。ミディアム・テンポの⑦「殺し屋稼業」や⑧「TV ディナーズ」は80年代っぽくシンセを導入して泥臭さをあまり感じさせない洗練された音作りになっているが、いきら着飾ってもその根底に流れているのはあくまでもブルース・ロックというのが伝わってきて微笑ましい。⑨「ダーティ・ドッグ」は⑥の流れをくむノリノリのロックンロールで、シンプルな楽曲が却って彼らの魅力を浮き彫りにしているようなナンバーだ。⑩「イフ・アイ・クッド・オンリー・フラッグ・ハー・ダウン」はスティーヴィー・レイ・ヴォーンが得意としていたようなシャッフル・ナンバーで、テキサス魂爆裂!といえる。⑪「バッド・ガール」はライブ感溢れるロックンロールで、疾走するようなスピード感がたまらない。クールなおっさん3人組が放つ骨太なブギー・ロック、車を運転しながら大音量で聴くには最高のアルバムだ。



Doris Day's Greatest Hits

2009-04-02 | Jazz Vocal
 女性ヴォーカルの歴史において1930年代後半から1940年代にかけて “バンド・シンガー” というスタイルが隆盛を極めていた。女性シンガーはまずそのキャリアをビッグ・バンドの専属歌手という形でスタートするというのが一般的だったのだ。ベニー・グッドマン楽団のヘレン・ウォード、マーサ・ティルトン、ペギー・リー、アーティー・ショー楽団のヘレン・フォレスト、ジミー・ドーシー楽団のヘレン・オコネルと、挙げていけばきりがない。紅一点とはよくいったもので、彼女達は持ち前の美貌と小気味よくスイングする見事な歌いっぷりでバンドそのものの人気をも左右するほどの重要な存在となり、やがてバンド・リーダーよりも人気が出てソロとして独立、というパターンも多かった。
 ドリス・デイもそんなバンド・シンガーの1人で、ちょっとハスキーな声とクセのない素直な歌い方が大衆にウケていた。特に1945年にレス・ブラウン楽団をバックに歌った「センチメンタル・ジャーニー」はちょうど第2次大戦終戦と共に帰還する兵士たちの賛歌として爆発的にヒット(9週連続全米№1!)、ポピュラー音楽史に残る屈指の名曲として人々の記憶に深く刻み込まれた。今でもドリス・デイといえば「センチメンタル・ジャーニー」であり、「センチメンタル・ジャーニー」といえば松本伊代、じゃなかったドリス・デイなのだ。
 ソロとして独立後は映画にも出演しながらミリオン・ヒットを連発し、“アメリカ最高の女性ポピュラー・シンガー” と言われるまでになった。あのジョン・レノンが「ディグ・イット」の中で「ドリス・デイ!」と叫んだり、桑田佳祐師匠が「いなせなロコモーション」の中で「あ~なたとドリス・デイ♪」と歌詞に盛り込んだりと、ロックの世界においてもそのポピュラリティは微動だにしない。そんな彼女のソロ独立後のヒット曲を集めたのがこの「ドリス・デイ・グレイテスト・ヒッツ」である。
 全14曲、歯切れの良い1人二重唱がかっこいい①「エヴリバディ・ラヴス・ア・ラヴァー」、歌詞の1語1語の微妙なニュアンスを見事に表現しながら軽快に歌う③「ガイ・イズ・ア・ガイ」、ほのぼのとした雰囲気が彼女にピッタリな⑤「ティーチャーズ・ペット(先生のお気に入り)」、ロジャース&ハートの名バラッドを情感豊かに歌いこなす⑥「ビウィッチド(魅惑されて)」、アップテンポのリズムに乗って溌剌とした歌声を聴かせる⑦「ピロー・トーク(夜を楽しく)」、ヒッチコックの「知りすぎた男」でアカデミー主題歌賞を受賞した名唱⑧「ケ・セラ・セラ」、アップテンポで気持ち良さそうにスイングする⑩「上海」、ナット・キング・コールの名唱に迫る素晴らしさの⑪「ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ(恋に落ちた時)」、ハリー・ジェイムズをフィーチャーしたヴァージョンじゃないのが玉にキズながら彼女のヴォーカルは文句なしに素晴らしいわが愛聴曲⑫「ララバイ・オブ・ブロードウェイ(ブロードウェイの子守唄)」、アップテンポな解釈が多い中スローでしっとりと歌い上げる⑬「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー(情欲の悪魔... って何ちゅう邦題つけるねん!)」、レス・ブラウン時代のリメイクながらそのオリジナル・ヴァージョンを超えた究極の名唱⑭「センチメンタル・ジャーニー」と、どこを切っても“女性ヴォーカルかくあるべし”といえる歌声が楽しめる。
 ③を江利チエミが、⑩を美空ひばりが、⑫をザ・ピーナッツがそれぞれカヴァーしたことでもわかるように、彼女が昭和歌謡の大歌手たちに与えた影響は計り知れない。又、ジャネット・サイデルを始めとする多くのコンテンポラリー・シンガーたちも彼女をリスペクトしてやまない。ドリス・デイ、その歌声は単なるノスタルジーではなく、どんなに時代が変わろうともエヴァーグリーンな輝きを放ち続けるだろう。

Doris Day - Sentimental Journey (remastered)
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Real Wild Child: Video Anthology / Joan Jett

2009-04-01 | Rock & Pops (80's)
 「一番好きな女性ロッカーは誰?」と問われれば私は迷うことなく「ジョーン・ジェット!!!」と答える。彼女ほど黒の革ジャンが似合う女性を私は他に知らない。とにかくロックンロール一筋の頑固一徹姐さんで、音楽性にまったくブレがない。売れ線狙いでシンセを取り入れてみようとか、たまにはスローなバラッドで泣かしてやろうとか、そういったさもしい発想は一切ない。そのストイックさには感動を覚えるほどだ。
 ランナウェイズのギタリストとしてヴォーカルのシェリー・カーリー脱退後ももう1人のギタリストであるリタ・フォードと共にバンドの屋台骨を支えていた彼女だったが、ストレートなロックンロール志向のジョーンとハードロック色の強いリタの間で徐々に音楽的な方向性にズレが生じ、結局バンドは解散する。その後 “ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ” を結成し、2枚目のアルバム「バッド・レピュテーション」からゲイリー・グリッターのカヴァー②「ドゥー・ユー・ウォナ・タッチ・ミー」をシングル・カット、ライブ感溢れるこの曲が20位まで上がるヒットになった。彼女のヴォーカルはロックンロールを歌うのにピッタリの芯のある声質で、そのソリッドでエッジの効いたギター・サウンドと共に彼女の大きな魅力の一つだろう。82年春にはアローズ(ヴォーカルは何とあのヘレン・メリルの息子さん!)のカヴァーで今や彼女のテーマ・ソングとなった③「アイ・ラヴ・ロックンロール」が突如バカ売れし、結局7週連続全米№1という大ヒットになった。ストレートアヘッドな良い曲だとは思うが、ポップス・チャート向きとはいえないこの曲が何故あんなに売れたのかは今もって謎だ。それはさておき、同アルバムからの第2弾シングル④「クリムゾン&クローヴァー」もトミー・ジェイムズ&ザ・ションデルズのカヴァーで、ヘヴィーなリフの波状攻撃が生み出すグルーヴが快感を呼ぶこの曲も前作の勢いに乗って7位まで上がるヒットになった。
 翌83年には「アルバム」というタイトルのアルバム(←ややこしいっちゅーねん!)からキャッチーな⑤「フェイク・フレンズ」がヒット、このアルバムに収められたストーンズの隠れ名曲「スター・スター」のカヴァーはロックンロール好きなら要チェックのキラー・チューンだし、他にも⑥「エブリデイ・ピープル」や⑦「ザ・フレンチ・ソング」などの佳曲が一杯詰まった名盤だ。84年リリースの「グロリアス・リザルツ・オブ・ア・ミススペント・ユース」は1曲目にランナウェイズ時代のセルフ・カヴァー⑧「チェリー・ボム」を配したタイトでソリッドなロック・サウンドがたまらない好盤。シングル・カットされた⑨「アイ・ニード・サムワン」はポップなメロディーと見事なコーラス・ワークが光る名曲名演だ。86年発表の⑪「グッド・ミュージック」は何とあのビーチ・ボーイズをゲストに迎えた意欲作で、60’sロックンロールへのオマージュとでもいうべきタイトル曲「グッド・ミュージック」、ストレートなロックンロール「ロードランナー」やBBのカヴァー「ファン・ファン・ファン」と、名曲名演のアメアラレ。88年の「アップ・ユア・アレイ」ではボン・ジョヴィをスターダムに押し上げたデズモンド・チャイルドとの共作⑫「アイ・ヘイト・マイセルフ・フォー・ラヴィング・ユー」が久々の大ヒット、「アイ・ラヴ・ロックンロール」を更にリファインしたようなカッコいい曲で、ヘヴィーなリズムに乗って炸裂するジョーン姐さんの熱いロック・スピリット溢れるヴォーカルが圧巻だ。
 90年代に入っても「グランジ/オルタナがナンボのもんじゃい!」と言わんばかりに我が道を行くジョーン・ジェット... 90年リリースの「ザ・ヒット・リスト」はAC/DCのカヴァー⑮「ダーティー・ディーズ」(ビデオ・クリップのカメラ・ワークがめっちゃカッコエエわぁ...)やCCRのカヴァー⑰「雨を見たかい」といったシンプルで力強いナンバーが目白押し、小賢しいアレンジも演出も一切なしの直球勝負でそれぞれ異なる他人のヒット曲を見事に自分色に染め上げ、持ち前のロック魂全開で歌いきるジョーン姐さんこそ真のロッカーといえるだろう。この輸入DVDはそんな彼女の姿を時系列に沿って記録したもので、私のようなジョーン・ジェット信者には座右の盤といえるビデオ・アンソロジーだ。

Joan Jett - Dirty Deeds