shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

キイハンター・ミュージックファイル

2009-01-16 | TV, 映画, サントラ etc
 最近テレビを見なくなった。見るのはF1レースやB'z特番といった趣味関係か、「ラオウ外伝・天の覇王」(笑)くらいでそれ以外はほとんど見ない。だから「好きなテレビ番組は何?」って聞かれても答えにつまってしまう。しかし子供の頃に好きだった60's後半から70's前半のテレビ番組をケーブルテレビの再放送なんかで目にすると懐かしさのあまりついつい見入ってしまうことがよくある。当然テクノロジーの進歩した今の目で見ると稚拙な部分が多々見受けられるのは仕方のないことだが、それらを差し引いてもシンプルなのに今でも覚えているほど内容の濃い番組が多く、どんどん画面に引き込まれていってしまう。ノスタルジーを遥かに超越した次元で、今のテレビが失ってしまった面白さに溢れており、心に訴えかけてくるモノがあるのだ。
 私の場合、子供の頃の思い出はテレビが中心で、中でも冨士眞奈美の「加代!犬にやるメシはあってもおみゃーにやるメシはにゃーだで!」というセリフのインパクトが絶大だった「細腕繁盛記」(木曜)、クールな宇津井健がやけにかっこよかった「ザ・ガードマン」(金曜)、そしての千葉真一のハイパー・アクションにシビレまくった「キイハンター」(土曜)と、週末に向けての3本は何があろうと欠かさずに見ていた超お気に入り番組だった。
 時は流れ、音楽一筋の生活をするようになったある日、大阪日本橋の Disc JJ で偶然この「キイハンター・ミュージックファイル~伝説のアクションドラマ音楽全集~」CDを見つけた。その瞬間、例のオープニング・テーマが「チャ~ チャララ チャラララ ラ~ララ~♪」と頭の中で鳴り始め、私は小躍りしてレジへ直行した。帰って早速聴いてみると①「オープニング・テーマ」(千葉真一が地下駐車場で車に追われ天井の柱に飛びついて間一髪で難を逃れるシーンが目に焼きついて離れない!)のメロディーを様々にアレンジしたヴァージョンが入っており、中でもジャズ・アレンジを施して涼しげなヴァイブ演奏がめちゃくちゃクールな②には完全に参ってしまった。他にも前面に出たギターがカッコ良い⑨、音程の怪しいトランペットのプレイが笑える⑱、そこはかとなく漂う哀愁に涙ちょちょぎれる⑳と、この不朽のメロディーの素晴らしさを十分堪能できた。それ以外のもろサウンドトラックに当たる音源も中々よく出来ているし、ボーナス・トラックとして野際陽子のヴォーカル入りヴァージョンも入っており、至れり尽くせりだ。これはCDプレーヤーのプレイボタンを押すだけでタイム・マシーンさながらに古き良き昭和の時代へとトリップできる、思い入れ一発で聴く1枚だ。

キイハンター(key hunter) オープニング&エンディング japanese tv series



Burn / Deep Purple

2009-01-15 | Hard Rock
 日本におけるディープ・パープル神話は未だに絶対的なモノがある。私は日本のロック・シーンに最も強い影響を与えたバンドはベンチャーズとディープ・パープルの2つだと思っているが、実際に楽器を手にしたバンド少年達にとって、特にパープルの曲は教科書のような存在だったのだろう。彼らはシャウトするヴォーカル、延々と続くギター・ソロ、ヘヴィーなリズムと、まさに様式美ともいえる古典的なスタイルで何ものにも勝るカタルシスを与えてくれたし、何よりもコピーしやすかった。ギターを弾いたことのある人ならまず間違いなく「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のイントロを弾いてみたことがあるはずだ。だからハードロックを演るバンドのほとんどは複雑なゼッペリンではなくパープルのスタイルを踏襲していた。そう、日本でパープルというと必ず引き合いに出されるのがレッド・ゼッペリンなのだが、私にとってはこの両雄は同じハードロックを演ってはいても、そもそも立っている土俵が違っていたように思えてならない。どちらが良いとかそういう問題ではなく、例えればF1とラリーを比べるようなものだ。ヨーロッパ的なクラシック音楽に対する憧憬を内に秘めながらハードロックの究極の姿をとことんまで追求したパープルと、土着的なリズム&ブルースやブリティッシュ・トラッド・フォークの薫りを発散しながらハードロックの可能性に固執したゼッペリン。だからハードロックの様式美を何よりも尊重する日本でパープルが大ウケしたのだろう。
 私が最も愛聴したパープルのアルバムはご多分に漏れず「マシン・ヘッド」と「ライヴ・イン・ジャパン」だが、曲単位でいうとダントツにこの「バーン」が好きだ。この曲を初めて聴いてからもう30年以上経つが、未だにイントロのギター・リフを聴いただけで鳥肌が立つ。疾走感に溢れ、無駄な音が一つもない完璧なソロを弾ききるリッチー・ブラックモアのギターは神懸かっているし、間奏でリッチーと壮絶なバトルを繰り広げるキーボードのジョン・ロードも彼の生涯ベストのプレイを聴かせてくれる。デヴィッド・カヴァーデイルのヴォーカルも冴え渡ってるし、イアン・ペイスのドラム連打も凄まじい。とにかくこれを聴いて血沸き肉踊るような衝動にかられなければロック・ファンではない、と言い切ってしまいたいくらいカッコ良い演奏なんである。思わずコーフンしてしまったが、これこそが私のディープ・パープルなのだ。
 今回ブログに載せるにあたって「バーン」の映像はやっぱりカリフォルニア・ジャムのがエエかなぁとか考えながらYouTubeで検索してみたところ、めちゃくちゃオモロイ映像が見つかった。葉加瀬太郎率いる“クライズラー&カンパニー”が聖鬼魔Ⅱのギター、ドラムスとの共演で「バーン」をベートーベンの「運命」と融合させるという初期ELOもビックリの荒ワザが炸裂、情熱大陸をも深紫に染めんばかりの勢いはまさに新世紀のロール・オーヴァー・ベートーベンだ。タイトルがこれまた笑える... 題して「交響曲第5バーン(爆) 炎のベートーベン」... あかん、またハマりそうや... (≧▽≦)

Deep Purple-Burn


"Burn / Symphony No.5" - "交響曲 第5バーン"

The Spotnicks In London

2009-01-14 | エレキ・インスト
 自分が生まれた頃に流行っていた音楽、つまり60'sのオールディーズを後追いという形で遡って聴いていく場合、どうしても全米チャート主体になってしまい、日本やヨーロッパだけでヒットした曲が漏れ落ちてしまうというケースがしばしばある。あと10年早く生まれたかったと言ってみたところで仕方がない。幸いなことに私の場合、リアルタイムで60'sを体験された音楽マニアの先輩達が色々と貴重なレコードを紹介して下さるのでホンマにありがたい。いくら感謝してもしきれないくらい感謝してマス!
 私が初めてスプートニクスを聴いたのは約5年前のG3の時で、「エレキ欧米対決!」と題して plincoさんはベンチャーズを、901さんはスウェーデンのスプートニクスを持参された。その時聴かせていただいたのが「霧のカレリア」で、明らかにアメリカ産のノーテンキなテケテケとは違う、まるで歌謡曲のような哀愁を帯びた泣きのメロディーが印象的だった。それからしばらく経ってベンチャーズに本格的にハマッた私は「寝ても覚めてもテケテケ状態」に陥り、他のエレキ・インスト・バンドも聴いてみたくなった。そこで思い出したのがスプートニクスである。早速ベストCDをゲットして聴いてみると、これがもうめちゃくちゃカッコイイ。これはベスト盤だけではもったいないと思い、オリジナル盤を1枚また1枚と集めていった。彼らの全盛期は62年の「イン・ロンドン」から67年の「ライヴ・イン・ジャパン」辺りまでで、中でもデビュー・アルバムの「イン・ロンドン」は彼らの最高傑作といってもいいくらい素晴らしい。アルバム1曲目を飾る①「オレンジ・ブロッサム・スペシャル」は元々はアメリカ東部を走っていた最高級列車 "オレンジ・ブロッサム・スペシャル号" を歌ったブルーグラスの名曲で、イントロから全開のリズム・ギターが機関車の走る音を巧く表現しているのが凄い。0分7秒と47秒でむせぶボー・ウィンバーグのギターはまるで汽笛のようだ。④「ナイトキャップ」は何故かバリバリのジャズ・ギターみたいなサウンドで、クールで粋なプレイがめっちゃカッコイイ。⑤「スプートニクスのテーマ」のイントロを聴くといつも「ゲバゲバ90分のオープニング・テーマ」を連想してしまう私って一体...(>_<) ロシア民謡の「ポーリュシカポーレ」をアレンジした⑧「ザ・ロケット・マン」(この曲が一番好き!!!)のイントロなんて、フェイド・インの仕方といい、ドラムのリズム・パターンといい、もろユーミンの「ルージュの伝言」だし、同じくロシア民謡の⑨「ダーク・アイズ」はテンポの速いマヌーシュ・スウィングの演奏では気付かなかったがこのスプートニクス・ヴァージョンで聴くとザ・ピーナッツの「恋のフーガ」そのものだ。この⑧⑨に関してはホンマに似てるんで実際にご自分の耳で確かめてみて下さい。めちゃくちゃ笑えます(^o^)丿 そーいえば大瀧詠一の「さらばシベリア鉄道」も「イン・パリ」に入ってた「空の終列車」にうりふたつだし、こーやって見ていくとスプートニクスって歌謡曲や J-POP の元ネタの宝庫なのかもしれない。いや~音楽ってホンマに面白いですねぇ(^_^)

Spotnicks - Rocket Man

Mon ChouChou / ZaZa avec Cafe Manouche

2009-01-13 | Gypsy Swing
 シャンソン歌手ZaZa さんのカフェ・マヌーシュとの共演第2弾となるアルバムが届いた。タイトルは「モン・シュシュ」、フランス語で「私のお気に入り」という意味だそうだ。「エディット・ピアフ、ゲンスブール、ペギーリー、デューク・エリントン、そして笠置シヅ子と、日米仏の名曲がマヌーシュ・スウィングに楽しくおしゃれに変身」というのがこのアルバムのコンセプト。まず何と言っても④「買い物ブギ」が最高に面白い。戦後間もない頃に岸和田あたりの商店街を割烹着を着て歩いていたようなこの曲を、バックのクラリネット、ギター、ヴァイオリンが寄ってたかって強引に21世紀のパリのシャンゼリゼ通りへ連れ出したかのような、時間と国籍とジャンルの意味を空洞化した何でもアリの精神が素晴らしい!パリのエスプリを運んでくるピアノ・ソロと顎が落ちそうなリズム・ギター・カッティングも絶品で、和製ブギにフレンチ・ワインをたっぷりふりかけマカフェリ粉をつけてマヌーシュ油でカラッと揚げて「和製ブギのマヌーシュ丼シャンソン風、一丁上がり!」みたいな手際の良さだ。ZaZaさんもこの曲のみCDブックレット見開き2ページを割いてフランス語の歌詞と日本語訳を載せている。いきなり例の有名フレーズ「オッサン、オッサン...」が「ムッスュー、ムッスュー...」で、買い物リストの品目は「バター、生クリーム、ジャム、カマンベール、タルト・フランベ、ブイヤベース」だ(笑) 続く「ケチャップ、シルヴプレ!」でイスから転げ落ち、「ボンジュー、ムッスュー、コマンサヴァ!」で腹筋が崩壊する(^o^)丿 ぜひフランス人の感想を聞いてみたいと思わせる、抱腹絶倒の5分40秒だ。⑥「小さな花」はザ・ピーナッツのデビュー曲として有名だが、オリジナルのシドニー・ベシェが乗り移ったかのようなクラリネットがマカフェリ・ギターと絡む瞬間がたまらない。岡本敦郎の⑩「リラの花咲く頃」は原曲の湛えていた詩情を殺さずにフレンチの要素を巧みに取り入れ、懐かしのラジオ歌謡をマヌーシュ・スウィングと融合させたアレンジ・センスがお見事だ。昭和歌謡モノ以外ではロジャース&ハート作の大スタンダード・ソング⑨「マイ・ロマンス」が出色の出来。スローで始まり1分28秒からアップ・テンポに転じて一気呵成にたたみかけるような展開は ZaZa & カフェ・マヌーシュの得意技だ。同じくマヌーシュ・スウィング全開の⑪「ベルヴィルランデヴー」の疾走感も言葉にできないほど素晴らしい。やはり「カフェ・マヌーシュにハズレなし」なのだ。
 映画「僕のスイング」公開以降しばらく活況を呈していたマヌーシュ・スウィング界だが、最近新譜のリリース・ペースが鈍ってきている。いつまでも「黒い瞳」に「マイナー・スウィング」といったワン・パターンの選曲では煮詰まって当然だ。せっかくこんなに素晴らしい定型演奏フォームがあるのだから、ジャンゴ・ナンバーに固執せずにまだ誰も手をつけていないようなスタンダード・ソングからトラデショナル・フォーク、ディズニー、アニソン、昭和歌謡に至るまで題材を広く取り、可能な限り片っ端からマヌーシュ化していってほしいものだ。マヌーシュ・スウィングの未来は一にも二にもその選曲センスにかかっている。そのことをこのアルバムが如実に示しているように思えてならない。

ザザ

ブギの女王 / 笠置シヅ子

2009-01-12 | 昭和歌謡
 最近笠置シヅ子にハマッている。ど~せ古い歌謡曲やろ、などと侮ってはいけない。様々な音楽を聴いてきた今の耳で聴いてもそのスインギーでパンチのある歌声は風化するどころかより一層の輝きを放っている。彼女は「ブギの女王」と呼ばれ、敗戦直後の1940年代後半から50年代にかけて国民的人気を誇った歌手である。「青い山脈」や「銀座カンカン娘」といった名曲を次々と生み出した服部良一のプロデュースの下、そのエネルギッシュな歌唱とスイング感溢れる激しい身体の動きで敗戦で意気消沈していた人々の心を癒し、勇気づけたという。あの美空ひばりや江利チエミといった大歌手たちがリスペクトしてやまない、昭和歌謡の源流とでもいうべき偉大なシンガーなのだ。
 しかし私が彼女を聴くのはそういった「歴史聴き」をするためではない。ただ単に彼女の歌がめちゃくちゃ面白いから聴いているのだ。鼻歌で歌えそうな覚え易いメロディーとウキウキするようなリズムに乗せて、ヘタなお笑いよりも遥かに面白い歌詞が炸裂する。そこには凡百の J-POP が束になっても敵わないエネルギーが充満している。そんな彼女の残した数々の名唱の中でも特に私が好きなのが「買物ブギー」である。
 この曲、当時の大阪のおばちゃんの日常を面白おかしく綴ったコミカルな歌詞がめちゃくちゃ楽しく、何度聴いても心がウキウキしてくる。「おっさん、おっさん、これなんぼ?」「アホかいな!」とコテコテの大阪弁で暴れまわるところなんかもう最高(^o^)丿 しかも「たいに ひらめに かつおに まぐろに ぶりにさば」「とり貝 赤貝 たこにいか えびに あなごに きすにしゃこ」とまるで早口言葉のように言葉数の多い歌詞を、新しいリズムに乗って今でいうラップのような言葉の速射砲で難なく歌いこなす彼女の技量にはもう参りましたというしかない。まさに日本で最初の「和製ラッパー」である。
 ただひとつ残念なのは、現在入手可能なすべての CD 音源で後半の歌詞の一部がカットされていること。「わしゃ つんぼで聞こえまへん」の部分がレコード会社の自主規制とやらにひっかかり、「つんぼで」を丸ごとカットして前後を無理やりつないでいるため非常に不自然に聞こえるのだ。何もそこまでやらなくてもと思うが、しかし幸いなことに下にアップした映像ではオリジナルの完璧なヴァージョンが聴ける(ゲシュタポみたいな連中に削除される前にダウンロードしましょう!)のがありがたい。
 彼女の吹き込みをほぼ網羅したこの3枚組CDには他にも傑作が目白押しで、彼女をというよりむしろあの時代を代表する屈指の名曲「東京ブギウギ」、和製ジャンプ・ミュージックの原点ともいえる「ヘイヘイブギー」、抜群のスイング感がめちゃくちゃカッコイイ「ラッパと娘」、買い物ブギーと双璧をなすようなコテコテぶりに大爆笑の「たのんまっせ」、アメリカ生まれのブギウギを無理やり村祭りのやぐらの上に乗せてインターナショナル盆踊り大会にしてしまう「博多ブギウギ」、オモロうてやがて哀しき「めんどりブルース」、彼女が最高のジャズ・シンガーでもあることを証明した「大阪ブギウギ」、あのスタンダード・ソング「オールド・マン・リヴァー」に張り手を食らわせ倒れた顔面に和製ブギをぶち込んだような「オールマン・リバップ」と、まさに宝の山である。ただ、題名が「○○ブギー」とか「○○ブギウギ」とか似たものが多くて紛らわしく、あれを聴くやら、これを聴くやら、それがごっちゃになりまして、わてほんまによういわんわ~♪

笠置シズ子 買物ブギ Shizuko KASAGI,1950 高画質
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In The Court Of The Crimson King / King Crimson

2009-01-11 | Rock & Pops (70's)
 プログレッシヴ・ロックの雄キング・クリムゾンは音楽シーンが混沌としてきた1969年にデビューした。プログレッシヴ・ロックとは「進歩的なロック」、つまり「考えるロック」である。例えて言うならエルヴィス・プレスリーからビートルズへと受け継がれてきたいわゆる「ロックンロール」から「ロール」の部分、つまり聴いてて思わず身体が揺れるような「理屈抜きの楽しさ」を取り去ったもの、と考えれば分かりやすいかもしれない。そういった音楽本来のノリとかスイング感から離れた所でいかにロックが可能なのかを追求し続けたのが通称「プログレ」と呼ばれるロックなのだ。
 彼らのデビュー・アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」は衝撃的だった。とにかく1度見たら忘れられないようなエグいジャケットで、口を大きく開けて恐怖におののいたような凄い形相の男の赤い顔がどアップでリアルに描かれており、それはもう強烈すぎるほどのインパクトがあった。中身の方もジャケットに負けず劣らず凄まじい。A面1曲目のタイトルからして①「21世紀の精神異常者」である。先鋭的でアグレッシヴなイントロに導かれ、ディストーションをかけて歪ませたヴォーカルが狂気に満ちた攻撃的なフレーズを連射、フリーキー・トーンをまき散らすギターが暴れまわり、アヴァンギャルドな咆哮を上げるサックスとのユニゾン・フレーズをビシッとキメ、手数の多いドラミングが生み出す複雑極まりないリズムが更に興奮を煽るという、それまでのポピュラー・ミュージックにはとてもあり得ないサウンド展開だった。精神異常者の世界を音で表現したかのようなその破壊的で壮絶なプレイは実にスリリングで、7分21秒を異常なくらいのハイ・テンションで一気に駆け抜ける。抽象的で難解な歌詞は今まさに混沌の真っ只中にある21世紀の現代社会を40年前に予見していたかのようだ。キング・クリムゾン恐るべしである。
 心が安らぎ癒されるような②「風に語りて」(1曲目とのこの落差は何なん?)に続くのが有名な③「エピタフ」で、歌詞にある「混乱こそ我が墓碑銘」というのがクリムゾンがこのアルバムに込めたメッセージ。メロトロンが生み出すその重厚なサウンドは混沌としたロックという音楽へのレクイエムのように響く。静謐な④「ムーンチャイルド」は12分を越す長い曲で、前半部分は胸をしめつけるような切ないメロディーに涙ちょちょぎれるのだが、2分25秒以降は難解すぎて私にはさっぱりワケが分からない。いつもこの悪趣味な前衛ごっこみたいな部分だけは飛ばして聴いている。ラストを飾るアルバム・タイトル曲⑤「クリムゾン・キングの宮殿」は壮大なスケールを持ったダイナミックな曲で、メロトロンを駆使した温かみのあるサウンドの洪水の中から聞こえてくるグレッグ・レイクの説得力溢れるヴォーカルが心の琴線を震わせまくる。狂気に満ちた①の対極にあるような幻想的で荘厳な⑤で大団円を迎えるこのアルバム、高度なテクニックでシュールな世界を見事に描き切った、プログレッシヴ・ロックの金字塔といえる1枚だ。

King Crimson - 21st Century Schizoid Man

ゴールデン☆ベスト / キャンディーズ

2009-01-10 | 昭和歌謡
 私はキャンディーズの全盛期にギリギリ間に合って、彼女らが “最後” に向かっていかに加速していったかをリアルタイムで体験できたラッキーな人間である。私が本格的にハマッたのは76年に⑩「春一番」を聴いた時で、たたみかけるような曲の展開といい、ウキウキするようなリズム・メロディーといい、洋楽に負けないくらいのポップ・フィーリングに溢れていた。春の次は夏でいったろかとばかりにリリースされた⑪「夏がきた!」もキャッチーなポップスで、どこかで聞いたような懐かしいメロディーなのにそれが何かはすぐには思いつかないような巧妙なアレンジがされており、何よりも「ウゥ~ ラッララ~♪」という彼女らのコーラス・ハーモニーに完全にKOされてしまった。
 当時キャンディーズのファンだというとハンで押したように「3人の中で誰が好きなん?」と聞かれたものだが、私は正直に「そんなん選べへんわ(>_<)」と答えて周りをシラケさせていた。というか、スレンダーなミキちゃん、華やかなランちゃん、愛くるしいスーちゃんと、3人それぞれに違った魅力があって、浮気性の私は誰か一人を選べなかっただけなのだが...(笑) とにかく3人の個性が絶妙に溶け合って、1+1+1が10にも20にもなるような、そんな魅力が彼女達にはあった。何があろうと “キャンディーズ” はこの3人でなければ成立しえなかった。
 才色兼備とはよく言ったもので、ルックスの可愛さに負けないくらい彼女らのコーラス・ハーモニーは華麗で美しかった。それを如実に示したのがその年の冬にリリースされた⑬「哀愁のシンフォニー」である。イントロのスキャットからとてもただのアイドル・ユニットとは思えない絶妙なコーラス・ハーモニーの波状攻撃で、今聴いても鳥肌モノだ。確かに一人一人の歌唱力だけならもっと上手い歌手はいくらでもいるだろう。しかしあの3人が一体となって生み出すハーモニーは唯一無比で、まさにキャンディーズ・マジックといえた。CDの解説によると、アルトにまわって正確な音程で支えるミキちゃん、メゾソプラノとしてサウンドを安定させるスーちゃん、そしてソプラノとしてコーラスを輝かせるランちゃんと、それぞれの役割分担が明確に決められていたという。まさに不世出のコーラス・グループだったというわけだ。
 更に彼女達は良い楽曲にも恵まれていた。特に吉田拓郎が彼女らのために書いた⑭「やさしい悪魔」(親指と小指を立てるデビルサインに萌えます!)と⑯「アン・ドゥ・トロワ」(トロけるようなふんわり感が絶品!)の2曲はキャンディーズのみならず昭和歌謡屈指の名曲名唱と信じて疑わない。細部まで丁寧に作り込まれたサウンドも名曲度アップに拍車をかけている。特に後期キャンディーズのサウンド・プロダクションの凝りようには目を見張るモノがあり、最新リマスターCDで聴くと当時は気付かなかった “隠し味” が随所に見られ、サウンドに厚みと奥行きを与えているのがわかる。彼女らのブレーンはきっと音楽マニア集団だったに違いない。
 ラス前シングル⑰「わな」は初めてミキちゃんがリードを担当した哀愁舞い散る名曲で、高音パートを彼女が担当した「哀愁のシンフォニー」と同様に大人っぽい雰囲気を醸し出している。バックにまわった2人の「アッア~♪」もたまらない(≧▽≦) ラスト・シングル⑱「微笑返し」は彼女らにとっては最初で最後の№1ソングだそうだが、記録よりも記憶に残るスーパー・アイドル、キャンディーズのスワン・ソングとして忘れ難い。過去のヒットの曲の名が随所に出てくる歌詞もファンにとっては涙モノだ。
 人間、引き際が難しいとよく言われるが、メンバー間の不仲や人気の凋落といったマイナス要素で晩節を汚すことなく最高の状態で解散したキャンディーズは幸せなグループだったのかもしれない。そしてそんなキャンディーズと共に10代を過ごせて本当によかったと思う。

キャンディーズ - やさしい悪魔

The Essential Collection / The Hollies

2009-01-09 | Oldies (50's & 60's)
 60's半ばに活躍したブリティッシュ・ビート・バンドの中でサウンド的に初期ビートルズ路線を継承していたのがマンチェスター出身のホリーズだった。ホリーズと聞いてまず頭に浮かぶのは⑭「バス・ストップ」だろう。この曲は元々ハーマンズ・ハーミッツの為に書かれたものだが彼らがシングル化を蹴ったためにホリーズに廻ってきてそれが大ヒットになったという曰く付きのレコード。歴史が作られる時というのは得てしてそーゆーモンである。胸に突き刺さるような必殺のメロディーを奏でるギターのイントロからドラムの連打と共に "Bus stop, wet day, she's there, I say, please share my umbrella... Bus stop, bus goes, she stays, love grows, under my umbrella" と、中学生でも分かりそうな易しい英語でリズミカルにたたみかける導入部。もうこれだけで名曲の殿堂入りは決まったようなものだ。ある青年がバスを待ってる女の子に傘を貸して恋が芽生えやがて結婚するという、ただそれだけのストーリーを切ないマイナー調のメロディーに乗せ、間奏部に哀愁舞い散るギター・ソロを挟み、彼らお得意のシャープなコーラスを絡ませながら実に魅力的な3分間ポップスに昇華させている。もう見事という他ない。ここまで書くと彼らは「バス・ストップ」だけのグループのように思われるかもしれないし、私もこのCDを聴くまではそう思っていた。しかしそれは完全な誤解で、他にも魅力的な曲が一杯入っている。私が⑭に次いで好きなのが③「ステイ」で、モーリス・ウイリアムズ&ザ・ゾディアックスの60年のヒット曲をカヴァーしたもの。私はジャクソン・ブラウンの「孤独のランナー」でメドレー処理されてたこの曲を初めて聴いた時何ていいメロディーなんだと感激していたのだが、ホリーズは思いっ切り高速化してノリノリの演奏を聴かせてくれる。ヴォーカルには「ハード・デイズ・ナイト」の頃のジョン・レノンが乗り移ったかのようで、明るく楽しいバック・コーラスのハモリ具合いもビートルズを彷彿とさせる気持ちよさ(^o^)丿 ⑤「ジャスト・ワン・ルック」と⑬「アイ・キャント・レット・ゴー」は共にリンダ・ロンシュタットがカヴァーしたヴァージョンを愛聴していたのだが、ホリーズのヴァージョンの方は荒削りだが躍動感に溢れている。⑦「タイム・フォー・ラヴ」はキャッチーなメロディーが耳に残る、まさに隠れた名曲の名にふさわしい曲。ラヴ・ミー・ドゥーなハーモニカもエエ感じだ。ビーチ・ボーイズが憑依したかのような⑰「キャリー・アン」はバーバラ・アンがカリフォルニア・ガールズと共に夢のハワイでファン・ファン・ファンしてるサーフィン・サファリなサウンドに唖然とさせられる。ホリーズとビーチ・ボーイズって何か接点あったっけ?まぁビートルズとは違ってその不器用さゆえに時代の変化にうまく適応できず失速していった感なきにしもあらずのホリーズだが、エヴェリー・ブラザーズ直系という意味においてもビートルズの弟バンド的存在の愛すべきグループなのだ。

Hollies - Bus Stop

Buddha Lounge Renditions Of Led Zeppelin

2009-01-08 | Led Zeppelin
 ハードロックの王者レッド・ゼッペリンの楽曲をジャズ・アレンジで演奏するという、今まで誰も考えつかなかったような斬新な(おバカな?)コンセプトのCDをHMVの試聴サイトで見つけた。それがこの怪しげなジャケットの「ブッダ・ラウンジ・レッド・ゼッペリン」である。「ブッダ・ラウンジ」シリーズを初めて見たのは「ブッダ・ラウンジ・ビートルズ」というCDで、仏さん4体の顔面アップという不気味なジャケットに興味を引かれ、面白そうやなぁと思って試聴してみると、30秒の試聴時間すらキツイくらいの意味不明な音楽が聞こえてきた。それはもう、ビートルズ・カヴァーをすべて集めてやろうという意気込みだった私にカウンター・パンチを食わせるようなトホホなサウンドで、当然パス!こんなん誰が買うんやろ?と思ってたら何と第2・第3弾としてブッダ・ラウンジのメタリカ、AC/DCヴァージョンが出た。特にAC/DCのやつはジャケットの仏さんにAC/DCのトレードマークであるツノが生えており思わず大爆笑。奈良の「せんとくん」もビックリだ。そして第4弾がこのレッド・ゼッペリン・ヴァージョンというわけ。今度は仏さんの顔の周りを飛行船が飛んでいる(笑) もうええかげんにせぇよ、とも思ったが一応試聴することに... あれ?今までのアホバカ盤とは全然違う。それにラウンジっていうだけあってちょっとジャズっぽいやん?コレは買いや!ということで早速購入。演奏してるのは「ウエスト・52nd・ストリート・ブッダ・ラウンジ・アンサンブル」という正体不明のグループで、多分その名の通りニューヨークのラウンジ専門のバンドだろう。一番気に入ったのは②の「ブラック・ドッグ」で、軽快なブラッシュ(!)に乗って涼しげなヴァイブとギターがメロディーを奏でる、めっちゃクールな演奏だ!あのハードロックの名曲がこんな粋なラウンジ・ミュージックに変貌するとは... この1曲だけでもこの盤を買った価値がある。④の「ホール・ロッタ・ラヴ」は物憂げなウィスパー・ヴォイス入りで、ギター、オルガン、コンガetcを駆使して洒落た雰囲気を醸し出している。⑥の「ロックン・ロール」ではチャンプスの「テキーラ」かよ!とツッコミを入れたくなるようなラテンなリズムに大爆笑。逆に⑧の「移民の歌」や⑩の「天国への階段」はオルガンやギターでメロディーを弾くのがやっとで、これはどうあがいてもラウンジ・ミュージックにはならへんね。どっちも原曲の良さが全く活かされてないのが残念。まぁ、一種のキワモノ盤だが、個人的にはブラッシュでジャジーなゼッペリンが聴けただけで大満足だ。

ブッダ・ラウンジ・ゼッペリン

Leader Of The Pack

2009-01-07 | Wall Of Sound
 「リーダー・オブ・ザ・パック」は、フィル・スペクターと共に数々の名作を世に送り出したエリー・グリニッチが85年にボブ・クリュー(フォー・シーズンズやダイアン・リネイ、ハニーズetcのプロデューサーとして有名)と製作したミュージカル作品で、この2枚組アルバムはそのミュージカルの歌部分だけを改めてスタジオ録音したもの。エリーが旦那のジェフ・バリーとのコンビで書いた名曲の数々... ロネッツ、クリスタルズ、ダーレン・ラヴ、シャングリラス、レインドロップス、ディキシー・カップス、といったガール・グループ・クラシックスから、トミージェイムズ&ションデルズやマンフレッド・マンといったロックンロールに至るまで、懐かしい60'sヒッツのリメイクが満載の、オールディーズ・ファンにとってはたまらない企画盤なのだ。最大の聞き物は何と言ってもダーレン・ラヴ本人が参加して過去のヒット曲をセルフ・カヴァーしていることで、特に「ウェイト・ティル・マイ・ボビー・ゲッツ・ホーム」「トゥデイ・アイ・メット・ザ・ボーイ・アイム・ゴナ・マリー」「ノット・トゥー・ヤング」「クリスマス・ベイビー・プリーズ・カム・ホーム」で聴かせる伸びやかな歌声は60年代よりもパワーアップしており、スピーカーの前でただただ圧倒される。この人はホントに上手い。ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」そしてシャングリラスの「リーダー・オブ・ザ・パック」の3曲でリードを取るアニー・ゴールデンのヴォーカルは瑞々しい感じで好感が持てる。もちろんロニーとは比べるべくもないが、「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」の「ウォッ、オ~♪」にはモノマネ大賞をあげたいくらいドキリとさせられた(>_<) エリー自らがリードを取るのはクリスタルズの「ダ・ドゥー・ロン・ロン」とレインドロップスの「ホワット・ア・ガイ」だが、まったく衰えを知らない彼女の歌声が60'sの空気を運んできてくれる。バックのサウンドもゴージャスで、その音圧は凄まじいの一言。まさに現代に蘇ったウォール・オブ・サウンドだ。何でも有名なクラブDJがイベントでかけたのをきっかけにオルガンバー/サバービア関連のサイトで紹介され、今ではとんでもないプレミアがついているらしいが、幸いなことにeBayでわずか$10で落札できてラッキーだった\(^o^)/ それにしてもこんな名盤が入手困難とは嘆かわしい。CD化したら絶対に売れると思うけどなぁ...

ダ・ドゥー・ロン・ロン

ベスト・オブ・ジリオラ・チンクェッティ

2009-01-06 | European Pops
 ジリオラ・チンクェッティは60年代にカンツォーネを日本で大流行させたイタリアの歌姫である。彼女は清純派の美人シンガーで、ヨーロッパはもちろんのこと、ここ日本やアルゼンチンでも根強い人気を誇っている。彼女の一番の魅力は何と言っても母性で優しく包み込むようなその歌声にある。私の知る限りオーラ以前にオーラのような声はなく、オーラのように歌った歌手はいなかった。更に彼女はヴァラエティーに富んだ楽曲にも恵まれていた。トヨタのCMでもすっかりおなじみの①「雨」は69年のサンレモ音楽祭であのフランス・ギャルとデュエットした彼女の代表曲。マイナー調のイントロから入り、「イョ~ ノカンビョマァ~イ♪」からメジャーに転調、「ラ~ピョ~ジャ~♪」で一気にたたみかける曲想も素晴らしい!この曲は当時日本全国の運動会で行進曲になったとどこかで読んだ記憶があるが、CMに行進曲にと引っ張りだことはきっと日本人の心を惹きつける何かがあるのだろう。弘田三枝子のカヴァーでも知られる②「ナポリは恋人」は覚えやすいメロディーを持った美しい曲。彼女の伸びやかなヴォーカルがすーっと心に染み入ってくる。④「ローザ・ネーラ」は風雲急を告げるようなイントロから彼女の切羽詰ったようなヴォーカルが滑りこんでくる瞬間がたまらない。見事な感情表現をみせる彼女の歌声と、いかにもイタリアらしいノーテンキなサビのコーラスが生み出すコントラストも絶妙だ。竹内まりやがアルバム「ロングタイム・フェイヴァリッツ」でカヴァーした⑥「夢みる想い」はオーラの日本でのデビュー・シングルで、64年のサンレモ音楽祭やユーロヴィジョン・コンテストといったヨーロッパの賞を総ナメにした名曲。高貴な雰囲気を醸し出すピアノのイントロに続いてオーラが「ノノレタァ~♪」と歌いだすとまるで心が洗われるような清々しい気持ちになる。彼女本来の持ち味はこういった「歌い上げる」タイプの曲で最大限に発揮されるということがよくわかる名唱だ。曲調が二転三転する⑦「消え去る想い」では緩急自在という言葉がピッタリのヴォーカルを披露、カンツォーネ・シンガーとしての実力を見せつける。シルヴィー・ヴァルタンやミーナもカヴァーした⑩「ズン・ズン・ズン」はマーチ風の楽しげな曲で、オーラも元気一杯で弾けるようなヴォーカルを聴かせてくれる。⑪「花咲く丘に涙して」はウィルマ・ゴイク65年のヒット曲をカヴァーしたもので、オーラの囁くような歌声がたまらない。緊張感溢れるキーボードのイントロが印象的な⑫「つばめのように」は彼女の持ち歌の中で私が一番好きな曲で、GSを彷彿とさせるマイナーなメロディーのアメアラレ攻撃に涙ちょちょぎれる。イタリア版ブルーシャトウみたいな曲だ。⑬「薔薇のことづけ」はアップテンポに転じた0分48秒の所から徐々に盛り上げていって2分50秒の「オ~ ロ~ゼ ロゼ♪」で一気にクライマックスにもっていく壮大な曲想に圧倒される。こんなに素晴らしいシンガーなのに現在入手可能なCDがベスト物だけとは淋しい限りだ。入手困難なオリジナル・アルバムのCD化を切に望みたい。

ジリオラ・チンクエッティ la pioggia(雨) Gigliola Cinquetti
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The Red Shoes / Kate Bush

2009-01-05 | Rock & Pops (80's)
 ケイト・ブッシュは孤高の存在である。彼女のレコード・キャリアは万人向きではないがとても印象的な世界を確立しており、ロックでもポップスでもない、ケイト・ブッシュ・ワールドとしか言いようがない個性的な音楽を聴かせてくれる。彼女の書く曲はどれも「ポピュラー音楽のあるべき形」というものを超越したところで強烈な光を放つ。とりわけ78年の彼女のデビュー・シングル「嵐が丘」は衝撃的だった。当時ヒット・チャートを賑わしていた他の曲と違い、詞が文学的で、何よりもケイトの驚異の声が様々な感情を表現していたからだ。今では「恋のから騒ぎ」の主題歌といった方が分かりやすいかもしれないが、とにかく彼女が注目を浴びたのはその個性的な声のおかげだったといっていいだろう。しかしじっくり聴くと、声だけでなく曲作りから一つ一つの音の構築のし方に至るまで、時代の流行とは関係なしに独自の発想で音楽を作っているのがわかる。そんな彼女が93年に出したのがこの「ザ・レッド・シューズ」である。1stシングルになった①「ラバーバンド・ガール」は彼女にしては珍しくノリのいいナンバーで、ダンサブルなサウンドと「輪ゴム娘(?)になりたい」というエキセントリックなフレーズのコントラストが鮮やかだ。何故か「ラババン・ガ~♪」という言葉が耳にこびりついて何度も何度も繰り返し聴きたくなる不思議な曲で、単調なリズムの積み重ねが心地よく響く。この曲のExtended Mix CDも持っているが、そっちの方は「ラババン・ラババン・ラババン・ラババン~♪」とケイトの声がまるで呪文のように心に入り込んでくる妖しいミックスになっていて、7分を超える時間をまったく感じさせない見事な音宇宙を構築している。エリック・クラプトンのブルージーなギターが冴え渡る②「アンド・ソー・イズ・ラヴ」は彼女の4thアルバム「ドリーミング」の音世界を更に洗練・深化させたようなナンバーで、彼女の変幻自在な歌声についつい魅き込まれてしまう。アルバム中最もポップな③「イート・ザ・ミュージック」はバリハやカボシといったマダガスカルの珍しい楽器を使ってアフリカの民俗音楽っぽいグルーヴを生み出し、音でカラフルな世界を描き切っているのが凄い。④「モーメント・オブ・プレジャー」は初期のケイトを想わせる内省的な作品で、その抑えた音作りが却って彼女の表現力豊かなヴォーカルを引き立たせている。プリンスがヴィクターという変名で参加した⑪「ホワイ・シュッド・アイ・ラヴ・ユー」では、あのアクの強いプリンスでさえもサウンドの一部と化してしまう強烈なケイトの個性に唖然とさせられる。アルバムのラストを飾る⑫「ユア・ザ・ワン」は「青い影」のプロコル・ハルムを彷彿とさせるハモンド・オルガンが印象的なナンバー。これはピンク・フロイドやキング・クリムゾンといった70年代初期のプログレッシヴ・ロックを彼女なりの方法論で更に深化させたような、アートの薫り溢れるアルバムだ。

Kate Bush - Rubberband Girl

アニメ・ド・キャトルマン / レ・フレール

2009-01-04 | J-Rock/Pop
 2年前のある日曜の朝のこと、休日には珍しく午前中に目が覚めた私は布団から這い出してリビングへと降りていき、何の気なしにテレビをつけた。すると偶然「題名のない音楽会」という番組をやっていて、「どーせクラシックやろ」と思ってチャンネルを変えようとすると、ちょうど「注目の若手アーティスト」というコーナーが始まり、ジャニーズみたいなイケメン青年2人がいきなりピアノの連弾を始めたのだ。しかもクラシックどころか私の大好きなブギウギ・ピアノ、それも連弾でだ!いっぺんに目が覚めた私は画面を食い入るように見つめた。何なん、これ?1つのイスに2人で座って弾いてるやん!いきなり後ろに回りこんで弾いてるやん!手をクロスさせて弾いてるやん!私は思わず「うわぁ、すげェ~(゜o゜)」と叫んでしまった。4本の手が鍵盤の上を目にも留まらぬ速さで自由自在に動き回る様はまさに圧巻で、私は彼らのパフォーマンスにグイグイ引き込まれていった。そのプレイは録画ボタンを押すのも忘れるほど衝撃的で、気がついた時には10分弱のステージは終了し、「レ・フレール」という名前をメモるのがやっとだった。早速ネットで検索し、メジャー・デビュー・アルバム「ピアノ・ブレイカー」を購入。う~ん、こりゃ凄いわ(≧▽≦) 彼らの音楽にすっかり魅せられてしまった私は、彼らがメジャー・デビュー直前にマイナー・レーベルから出したというCDも手に入れた。それがこの「アニメ・ド・キャトルマン」である。キャトルマンとはフランス語で「4本の手」、つまり「連弾」を意味する。つまりアニメ・ソングをレ・フレール流に料理しましたということだがアニソンと聞いて馬鹿にしてはいけない。わずかな時間でリスナーの心をつかんでしまうアニソンの方がジャズやロックのヘタなオリジナル曲よりも楽曲として遥かに優れていると私は思うのだ。2人にとってはまさに最高の素材といえるだろう。「ミッキーマウス・マーチ」をベースにした①「ブギー・マウス」、映画のテーマ曲で終わらせるのはもったいない隠れ名曲②「スパイダーマン」、斬新なブギウギ解釈がめちゃくちゃ楽しい③「ポパイ・ザ・セーラーマン」、耳タコのはずのメロディーになぜか惹きつけられる④「おしえて(アルプスの少女ハイジ)」とノリノリの演奏が続く。⑥「よあけの道(フランダースの犬)」も④と同じく懐かしいのに新しい、不思議な感覚だ。中盤でおとなしめの曲が続いた後、⑩「ルパン三世のテーマ」では再びアップ・テンポに戻ってブギウギ・ピアノの楽しさが全開だ。逆にスローで迫る⑪「ルパン三世のエンディング・テーマ」は夕陽の中をバイクで走る峰不二子のイメージが目に浮かぶ。たいした表現力だ。軽快な⑫「くまのプーさん」、「イッツ・ア・スモール・ワールド」のブギウギ・インプロヴィゼイション⑬「イッツ・ア・ブギー・ワールド」に続いて、本盤最大の聴き所がやってくる。ディズニー・ソングのブギウギ・メドレー⑭「クラブ・イクスピアリ」だ。珠玉のメロディーが惜しげもなく現れては消え、消えては現れる。これはたまらない。ハッキリ言って「この1曲で1万円です」と言われても買うかもしれない。私のようなディズニー好きにとっては至福の5分25秒だ。思い起こせばそれもこれもあの日の偶然から始まったのだ。早起きは三文の得というが、三文どころか三万円ぐらいは得した気分だ(^o^)丿

LES FRERES -- getsuyoru-boogie

An Atlanta Tribute To Sir Paul McCartney

2009-01-03 | Beatles Tribute
 私はレコードであれCDであれ、ジャケット・デザインを重視する。音楽を聴きながらジャケットを聴いているといってもいいかもしれない。だから音源のみで装丁のない「ミュージック・ダウンロード」などというものは私にとっては邪道以外の何物でもない。ロックでもジャズでも、音楽を聴いている時には必ずジャケットが思い浮かぶ。ビートルズの「ラバー・ソウル」はあの歪んだ写真でないと「ラバー・ソウル」にならないし、「サージェント・ペパーズ」の万華鏡の如き音世界を表現するにはあのカラフルなジャケットしかなかったように思う。「リヴォルヴァー」のサイケなサウンドはあのモノクロのリトグラフと密接に結びついているし、それはジャズの「サキソフォン・コロッサス」や「クール・ストラッティン」でも同様だ。ましてやそのアーティストへの愛情やリスペクトの度合いが勝負を決めるトリビュート物となると更にジャケット・デザインのセンスが問われてくる。そういう意味でビートルズ関係はパロジャケの宝庫なのだが、解散後のソロ・ワークス、特にポール関連で面白カヴァー・カヴァー(笑)を見つけるのは難しい。そんな中で私のイチオシがこの「ラヴ・イン・ソング~アトタンタ・トリビュート・トゥ・サー・ポール・マッカートニー~」だ。要するにジョージア州アトランタの地元ミュージシャンが一堂に会したポールへのトリビュート盤なのだが、元ネタであるポールの1stソロ・アルバム「マッカートニー」がテーブルの上にサクランボをたくさん並べていたのに対し、こちらは桃がいっぱい並んでいる。なぜ桃なのか... ジョージア州は「ピーチ・ステイト」とも呼ばれており、桃はジョージア州のシンボルなのだ。中々ヒネリが効いている。参加ミュージシャンはローカルなメンツばかりで知っているのは「ジョージア・サテライツ」のメンバーのみだが、かなりの力作が揃っている。中でも②「バンド・オン・ザ・ラン」(ソノママ ←変な名前!)、③「マイ・ブレイヴ・フェイス」(スター・コレクター)、⑤「ジェット」(ブラックライト・ポスターボーイズ)、⑧「レッティング・ゴー」(ヴァン・ゴッホ ←何者やねん!)、⑩「アナザー・デイ」(ポール・メランソン)といった、原曲に忠実なアレンジのトラックが気に入っているのだが、どれか1曲といわれれば意表を突いた女性ヴォーカルが楽しい⑥「ガールズ・スクール」(キャットファイト ←コレもふざけた名前やなぁ...)を挙げたい。ポールの作った軽快なロック曲がまるでシーナ&ロケッツのようなガレージ・ロック・サウンドに形を変え、実にカッコいいヴァージョンに仕上がっている。全20曲一気聴きしてみて、改めてポールの天才メロディー・メーカーぶりを再認識させられた。まさにカヴァー・アルバム・ハンター冥利に尽きる面白いCDだ。

Star Collector - My Brave Face

Sgt. Pepper's / Big Daddy

2009-01-02 | Beatles Tribute
 一瞬「正月からいきなりサージェント・ペパーズかよ」と思われたかもしれないが、よくよく見れば福助もマリリン・モンローもいない。演奏しているのはビッグ・ダディという、最近の曲を50'sのスタイルで聴かせるロカビリー・バンドで、この盤ではビートルズの「サージェント・ペパーズ」を丸ごとロカビリー仕立てでカヴァーしているのだ。アルバムはコースターズ風ドゥー・ワップ①「サージェント・ペパーズ」で幕を開ける。お約束の指ぱっちんと「ワワワゥワァ~」コーラスがのっけから炸裂、要するにアメリカ版シャネルズだ。②「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ」はジョニー・マティスの「恋のチャンス」そのもので、チープなストリングスが雰囲気を盛り上げる。③「ルーシー・イン・ザ・スカイ」はジェリー・リー・ルイスが乗り移ったかのようなブギウギ・アレンジに大爆笑(^o^)丿 人気コメディー番組「アイ・ラブ・ルーシー」のパロディーも織り交ぜながらの火の玉ロックなプレイが最高だ。④「ゲッティング・ベター」の元ネタは分からないが、50's風R&Bバラッドになっている。⑤「フィクシング・ア・ホール」はディオン&ザ・ベルモンツの「ワンダラー」と見事に一体化していてまたまた大爆笑!もう面白すぎて腹筋が痛い(>_<) コイツら、かなり強力におバカです。そして⑥「シーズ・リーヴィング・ホーム」は何とポール・アンカの「ダイアナ」だ!あのバラッドがこんな風になるなんて...(゜o゜) この奇抜な発想を音楽的に高度な次元で結実させるアレンジ・センスは素晴らしい。⑦「ビーング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」はフレディー・キャノン風の、メロディアスなビートが印象的なロックンロールに大変身。最大の難曲⑧「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」はフルート、アコベ、ボンゴをバックに詩の朗読スタイルで処理しており、ワケのわからん前衛ジャズみたいだ。⑨「ホエン・アイム64」はドミノスの「60ミニット・マン」のアレンジで、めっちゃ洒落たドゥー・ワップに仕上がっている。⑩「ラヴリー・リタ」はエディー・コクラン風ロカビリーがカッコイイ。⑪「グッド・モーニング・グッド・モーニング」は完全アカペラの大胆なドゥー・ワップ・アレンジで原曲の面影はかけらもない。タイトル曲のリプリーズ⑫を経てラストの⑬「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」はバディー・ホリーの「ペギー・スー」だ。プロペラ音のSEが暗示するのは例の飛行機事故。ラストの「ガ~ン」の代わりに爆発音と「音楽が死んだ日」を伝えるDJの声... 思いっ切り笑わせといて最後はブラック・ジョークでシメるとは、コイツらただモンやないな。そうそう、最後にしっかりテープの逆回転も入ってるし(笑) ホンマにこーゆー「おバカ」なアルバム好っきゃわぁ...(≧▽≦) シャレのわかるオールディーズ&ビートルズ好きにオススメの1枚。

ビッグダディ