shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Red Shoes / Kate Bush

2009-01-05 | Rock & Pops (80's)
 ケイト・ブッシュは孤高の存在である。彼女のレコード・キャリアは万人向きではないがとても印象的な世界を確立しており、ロックでもポップスでもない、ケイト・ブッシュ・ワールドとしか言いようがない個性的な音楽を聴かせてくれる。彼女の書く曲はどれも「ポピュラー音楽のあるべき形」というものを超越したところで強烈な光を放つ。とりわけ78年の彼女のデビュー・シングル「嵐が丘」は衝撃的だった。当時ヒット・チャートを賑わしていた他の曲と違い、詞が文学的で、何よりもケイトの驚異の声が様々な感情を表現していたからだ。今では「恋のから騒ぎ」の主題歌といった方が分かりやすいかもしれないが、とにかく彼女が注目を浴びたのはその個性的な声のおかげだったといっていいだろう。しかしじっくり聴くと、声だけでなく曲作りから一つ一つの音の構築のし方に至るまで、時代の流行とは関係なしに独自の発想で音楽を作っているのがわかる。そんな彼女が93年に出したのがこの「ザ・レッド・シューズ」である。1stシングルになった①「ラバーバンド・ガール」は彼女にしては珍しくノリのいいナンバーで、ダンサブルなサウンドと「輪ゴム娘(?)になりたい」というエキセントリックなフレーズのコントラストが鮮やかだ。何故か「ラババン・ガ~♪」という言葉が耳にこびりついて何度も何度も繰り返し聴きたくなる不思議な曲で、単調なリズムの積み重ねが心地よく響く。この曲のExtended Mix CDも持っているが、そっちの方は「ラババン・ラババン・ラババン・ラババン~♪」とケイトの声がまるで呪文のように心に入り込んでくる妖しいミックスになっていて、7分を超える時間をまったく感じさせない見事な音宇宙を構築している。エリック・クラプトンのブルージーなギターが冴え渡る②「アンド・ソー・イズ・ラヴ」は彼女の4thアルバム「ドリーミング」の音世界を更に洗練・深化させたようなナンバーで、彼女の変幻自在な歌声についつい魅き込まれてしまう。アルバム中最もポップな③「イート・ザ・ミュージック」はバリハやカボシといったマダガスカルの珍しい楽器を使ってアフリカの民俗音楽っぽいグルーヴを生み出し、音でカラフルな世界を描き切っているのが凄い。④「モーメント・オブ・プレジャー」は初期のケイトを想わせる内省的な作品で、その抑えた音作りが却って彼女の表現力豊かなヴォーカルを引き立たせている。プリンスがヴィクターという変名で参加した⑪「ホワイ・シュッド・アイ・ラヴ・ユー」では、あのアクの強いプリンスでさえもサウンドの一部と化してしまう強烈なケイトの個性に唖然とさせられる。アルバムのラストを飾る⑫「ユア・ザ・ワン」は「青い影」のプロコル・ハルムを彷彿とさせるハモンド・オルガンが印象的なナンバー。これはピンク・フロイドやキング・クリムゾンといった70年代初期のプログレッシヴ・ロックを彼女なりの方法論で更に深化させたような、アートの薫り溢れるアルバムだ。

Kate Bush - Rubberband Girl

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