shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

This One's From The Heart / James Darren

2009-01-27 | Jazz Vocal
 ジェームズ・ダーレンといっても「誰?」という反応が返ってくるのが関の山だろう。私だって10年前までは名前すら知らなかった。彼は60年代に活躍した俳優で、数々のテレビドラマや映画に出演しヒット・シングルまで出していた、いわゆるティーン・アイドルというやつである。その後ずーっと表舞台から姿を消していたが、98年になって突然の復活を遂げることになる。人気SFテレビ・シリーズの「スタートレック・ディープ・スペース・ナイン」に「ヴィック・フォンテーン」という名のホログラム歌手の役、それも準レギュラー扱いで出演したのだ。
 彼が出たのは全176話中最後の約30エピソードだけだったが、その存在感はピカイチで、60年代のベガスを再現したステージでアメリカン・スタンダード・ソングを専門に歌ういわゆるクルーナーとして、またある時は宇宙ステーション・クルーの良き相談相手役として、スタトレ・ファンの間で人気が爆発した。かく言う私も熱狂的なトレッキーで、スタトレ・シリーズはすべてDVDで持っており、ヒマを見つけては繰り返し見ているのだが、何度見ても飽きない。そんなSFドラマの中にジャズが、しかも大好きなアメリカン・スタンダード・ソングが頻繁に登場するようになったのである。もう嬉しくてたまらなかった。
 彼が番組中で披露した歌の数々があまりにも素晴らしかったので、「CD出ぇへんかなぁ...」と思っていた矢先、この「ジス・ワンズ・フロム・ザ・ハート」がコンコード・レーベルからリリースされたのだ。コンコードってバリバリのジャズ・レーベルやん!早速 US アマゾンで購入。おぉ、ハロルド・アーレンにサミー・カーンにジミー・ヴァン・ヒューゼン...まさに名曲の宝庫ではないか!彼のヴォーカルは古き良きアメリカン・スタンダード・ソングを軽やかに、そして粋にスイングしながら歌う軽妙酒脱なスタイルで、温かみがあって親しみやすく、「ジャズなんて年寄りの音楽やろ?」とか「ジャズは難しすぎてちょっと...(>_<)」という偏見やステレオタイプを木っ端微塵に打ち砕く懐の深さを持っている。ジャズ・ヴォーカル、しかも男性ヴォーカルとなると日本ではどうしても敬遠されがちだが、こんなに粋で洒落た音楽を聴かず嫌いではもったいないと思う。
 CD 収録曲はドラマの中で歌詞の内容にピッタリの場面で歌われたものばかりで、ヴィックが初登場のシーンでシナトラばりに歌っていた②「カム・フライ・ウィズ・ミー」、戦闘で片足を失い義足となったクルーを元気付ける場面で効果的に使われた⑤「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」、クルーが愛を告白するシーンのバックでステージ上からヴィックが遠巻きに歌う姿がめちゃくちゃカッコ良かった⑩「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」、最終回にクルー全員の別れの宴で歌われてスタトレ・ファンの感動を呼んだ⑪「ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト」など、どの曲を聴いてもそれぞれの場面が鮮明に甦ってくる。私のような熱狂的なトレッキーにとってはもちろんかけがえのない盤だが、特に思い入れのない一般の音楽ファンが聴いても男性ジャズ・ヴォーカルの逸品として楽しめる1枚だ。

Odo plays "Come fly with me" with Vic Fontaine