shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Let It Be... Naked / The Beatles

2009-10-11 | The Beatles
 「レット・イット・ビー・ネイキッド」は色んな意味で賛否両論渦巻いたアルバムで、ひとつは音楽以前の問題としてのCCCD 論争、もう一つはスペクター版「レット・イット・ビー」との真贋論争だった。まぁCCCDはコースター代わりにするしか用途のないゴミなので、アホらしくて論争・糾弾するにも値しない。US盤かEU盤(CDとCCCDの2種類が出回ってるので要注意!)を買えばいいだけの話であり、ただでさえ売れなくなってきているCDにアホバカ・レコード会社自らの手でトドメを刺すような愚行にすぎない。問題はスペクター版と比較してどー違うのか、我々ファンの興味はその一点に尽きるだろう。
 前評判として “ネイキッド” 、つまり “裸のレット・イット・ビー” “ありのままのザ・ビートルズ” などという言葉が独り歩きし、私なんかスペクターが過剰な装飾を施す前の、あの幻のアルバム “ゲット・バック” をデジタル・リマスターしてリリースするものだとばかり思っていた。しかし届いた盤を聴いてみるとブートレッグで聴いてきたグリン・ジョンズ版「ゲット・バック」と明らかに違う。最初はワケが分からなかったが、少なくとも色々と編集してあるのは私の駄耳でもわかる。そこで私は様々な事前情報や先入観を捨て去り、1枚のビートルズのアルバムとして聴いてみることにした。
 まず何と言っても音がクリアだ。どの曲もそれこそ耳にタコができるぐらい聴き込んだものばかりだが、これまで聴いてきた中で一番クッキリ聞こえ、生々しい。少し離れた所で歌っていたビートルズがまるで眼前で歌っているかのような錯覚を覚えるトラックすらある。更に今まで聞こえなかった音まで聞こえるというのも嬉しい。どちらかというと「イエロー・サブマリン・ソングトラック」の感覚に近い、21世紀版リミックスという趣きの音で、例えるならニンニク卵黄のテレビCMに出てくる筋骨隆々のおじいさんみたいな感じなのだ。顔は老人なのに身体はムキムキというアレである。更にテクノロジーを駆使して違うテイクの良い所だけをくっつけて1つの曲を作ってあるトラックもあるらしい。だから発売当時には期待が大きかった分、 “偽物だ!” と糾弾する論調も多く見られた。まぁ確かにこれは “作り物” だが、実によくできた良い意味での “作り物” であり、私は基本的には楽しく聴いている。
 ①「ゲット・バック」はシングル・ヴァージョンのフェイド・イン風イントロではなく、いきなりアクセル全開といった感じのパワフルな演奏が楽しめる。エコーが取り除かれてクッキリしたヴォーカルとシャープでタイトなバンド・サウンドが一体となって実に気持のいいドライヴ感を生んでいる。ただ、エンディングをスパッと切り落とす編集には何度聴いても違和感を覚えてしまう。尻切れトンボとはまさにこのことだ。②「ディグ・ア・ポニー」は細部の音までクリアに聞こえるようになったのはいいが、曲のアタマのカウントやエンディングの会話がカットされていてイマイチ雰囲気が楽しめないのが難点。③「フォー・ユー・ブルー」はネイキッド効果テキメンのトラックで、スペクター版では全体的に何かフニャフニャした感じのサウンドだったものがこのネイキッド版では実にシャキッとしたロック・スピリット溢れる演奏に聞こえるのだ。私は絶対こっちの方がいい(^o^)丿
 スペクター版「レット・イット・ビー」の中でも特に問題となった④「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」は甘ったるいストリングスもコーラスもすべて排除したヴァージョン(音源そのものもスペクター版とは違って映画のテイクを採用)で、過剰な装飾が取り除かれた分、シンプルな美しさを湛えるトラックになっており、これを聴けばポールの意図したサウンドがよく分かる。私はこっちの方が好きだ。⑤「トゥー・オブ・アス」はスペクター版と同じテイクながら音がクリアーになった分、より臨場感あふれる演奏が楽しめてエエのだが、またしてもアタマの “I dig a pigmy...” がカットされており、私なんかこれがないと「トゥー・オブ・アス」を聴いた気がしない。⑥「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」はハイテクを駆使してルーフトップで演奏された2つのヴァージョンの良い所だけを合体させたというメカゴジラ・ヴァージョン(笑)で、ピューリタン的なビートルズ信者が頭から湯気を立てて怒り出しそうな複雑な編集が施されている。確かに今まで聴いてきた同曲とはかなり印象が違う迫力満点な仕上がりで、私はあれこれ深く考えずに “新しいヴァージョン” として楽しんでいる。⑦「ワン・アフター・909」もヴォーカルが近くなり、迫力・臨場感・疾走感が軒並みアップとエエことだらけなのだが、唯一惜しいのがエンディングの“オ~ ダニィボ~イ♪” がカットされたこと。リミックスの音作りとしてはホンマにエエ仕事してると思うのだが、このアルバムにはこういう無神経な編集が多すぎるように思う。それともオーケストラやコーラスだけでは飽き足らずにスペクター的な痕跡をすべて消し去りたかったのだろうか?
 ⑧「ドント・レット・ミー・ダウン」はオリジナル・アルバム未収録だったもので、比較対象はシングル・ヴァージョンになるが、当然ながらこっちの方がパワフルで生々しく響く。特にヴォーカルの押し出し感が凄まじい。⑨「アイ・ミー・マイン」はオーケストラを排して大正解、こっちの方が断然ロックしていて気持ちいい(^.^) ⑩「アクロス・ザ・ユニヴァース」は数種類のヴァージョンが存在する悩ましいナンバーで、聴く人の好みによって意見が大きく分かれそうなぐらいそれぞれ特徴あるプロデュースが施されている。このアルバムではテープの回転速度を正常に戻し、オーケストラやコーラスを消してあって “これぞネイキッド!” と大喜びしたのもつかの間、3分10秒を過ぎたあたりから不自然なくらいに深~いリヴァーヴがかけられていてエンディングなんかもう気持ち悪いったらありゃしない!何というムゴイことを...(>_<) せっかくの名曲名演が台無しだ。⑪「レット・イット・ビー」は⑥と並ぶ複雑怪奇なヴァージョンで、どこをどうツギハギしてあるのかわからないぐらいメカゴジラしている。しかしこれもまた⑥同様大正解で、巷間言わているような “美しいバラッド” ではなく、“力強いゴスペル” として激しく胸を打つ。特にコーラスなんかゾクゾクするほどのリアリティーだし、ジョージのギター・ソロの音も大きくなっていて、これまでに聴いてきたどのテイクとも明らかに違う “21世紀ヴァージョン” になっている。
 アルバム「レット・イット・ビー」の時にも書いたが、結局どれが本物でどれが偽物だなんて言ってみても始まらない。要は人それぞれ、自分が好きなヴァージョンで楽しめばいいだけの話だし、たとえどんな風に加工されようとも歌い演奏しているのは他ならぬビートルズなのだ。出来が悪いワケがない。むしろこんなに色んなヴァージョンが楽しめて、しかもあーでもないこーでもないと議論できること自体、ファンとして何と恵まれているのだろうと思う。他のアーティストでは絶対にあり得ないことだ。やっぱりビートルズは凄いなぁ...

FOR YOU BLUE FROM LET IT BE NAKED (STEREO)