元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

関ヶ原(司馬遼太郎)

2021-01-28 | 実生活

夢中で読める本に出会えることはとても幸せなことだと思います。

本屋さんをブラブラしていて、興味の赴くままに手に取って、偶然そういう本に出会えることもあれば、人に勧められて本がそういうこともあります。

本を勧めるのが上手な人がいて、そういう人はご自分が読んだたくさんの本の中から、私が好みそうだと思ったり、今の私の状況を察知して勧めてくれたりする。

私のことを考えて勧めてくれた本に、外れはなくて、その本とともにその気持ちがとても嬉しい。

そうやって勧められた本に、司馬遼太郎の「関ヶ原」がありました。

とても長い(3巻)小説でしたが、面白くて夢中で読みました。

関ヶ原の合戦は、今の世の中にもある権力闘争、派閥争いにも通じるものがあって、その中に生きる人の考えることはいつの世も変わらない。
力のない弱い者は、より大きな力の強い者にすり寄って、何とか生き残ろうとする。
自分の心を捨てることができた者だけが、出世することができた乱世の時代の最後。

義や誇りなどというきれいごとでは生き残ることができないと、武将たちは様々な策謀を企て、一人一人に物語がある。

忠義を尽くし、自分に与えられたもので満足する武士道という美しい生き方は、その後の泰平の世で、幕府が武士たちを統率するための宗教のようなものだったのだろうか。
戦がなくなって、与える恩賞がない時代、為政者はその宗教によってしか、武士を縛ることができなかったのかもしれません。

石田三成は、自分が持っている正義感、忠義の気持ちを誰もが持っていると思い込んでいた。
そして、それを持たないものを軽蔑して、突き放してきた。

しかし、家康はそういった軽蔑に値する心を持つ者をも取り込んで、自分の側につけて、天下人になった。

関ヶ原の中で、自分はどの武将に共感できるかと考えながら読んだ。なるべくなら、家康とまで言わなくても、生き残った人に共感できたらよかったけれど、自分は違った。

その時に自分が置かれた状況によって、この小説を読んで見える風景は違うのかもしれません。
そうやって何度でも読める小説でした。