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元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

万年筆を取替えながら

2011-05-11 | 仕事について

私が全ての万年筆に同じ色のインクを入れているのは、例えばペン習字の時間、万年筆を取替えながら、その時の気分やコンディションに合うものを探しながら書きたいからです。

全てのペンに同じ色のインクを入れるとひとつひとつのペンに限定的な用途ができず、替えがききます。

目の前にコンプロット10を立てて、万年筆を取り替えながら書き物をすることを楽しんでいます。

それは手紙を書く前などでも同じで、これからの作業に使うペンを選ぶのは一瞬の楽しみで、使い出してそれが気分に合うものだったら、上手く字が書けるような気がします。

万年筆は本当に不思議な道具であり、工業製品であると思います。

いつも使う10本の万年筆が入っているコンプロット10から使うものを選んで使い始めますが、使い始めるまでそれが今の自分の気持ちやコンディションに合うのか分からないからです。

また上手く字が書けるペンとそうでないペンがあったり、人によって合う合わないがあることも不思議な感じがします。

何年も使い続けているのに、なかなか言うことを聞いてくれない。理解させてくれない、そんなところも万年筆にはあります。


立地

2011-05-10 | 仕事について

店の立地について考えに考え抜きましたが、今では店の立地に正解などなく、それを正解にしていくのはその後の努力と方針の持っていき方だと思っています。

でも最初は本当に考え込んでいました。

人通りの多い、便利な場所、いわゆる商業的な一等地は家賃が高くて、その逆だと安くなっていく。

例えば元町駅近辺だと、元町駅の南側は当店のある北側の3倍くらいの家賃になります。

家賃はずっとかかってくるものだから、なるべく安い方がいい。
でも何となくゲンの悪い場所は嫌だ。
家賃が高いとそれを払うためにいつも売上の心配をさらに強くしなければならない。

店の場所を決める時、いろんな人が相談に乗ってくれて、仲間達と話し合いました。
でもその話し合いの中で、家賃の高い人通りの多い場所は当店のような店には必要な立地ではなく、探して来てくださる方が来やすければいいというふうに気付いて、割り切ることができたのは、本当に幸運でした。

当店の場所が今の場所以外には考えられないと思うけれど、違う場所でやっていたら、それはそれでそれなりにやっていたのかもしれませんが、でもやはり今の場所、とても好きだなと思っています。


喉元すぎれば

2011-05-09 | 仕事について

店の業績が悪いとき、何がいけないのか、どうすればいいのか必死に考えます。

このままでは本当にヤバい、自分たちが生活できなくなる。

そんなお尻に火がついたような、追いかけられるような想いで考えます。

そういった焦りは時として良い考えを生み出すこともありますが、時にはとんでもない愚策に走らせてしまうことがあります。

愚策というのは、その時は藁にもすがる想いで始めたことですが、気持ちが落ち着いた時、何でこんなことをしてしまったのだろうと恥ずかしくなるようなことです。

私の場合、追い込まれている時、業績が良くなくて気持ちが貧しい時はもしかしたらあまり頭は使わない方がいいのかもしれません。

頭を絞るよりも体を使って、手を動かして何か作業的なことをする方がいいのかと思っています。

何か一生懸命考えるのは、業績の良い、気持ちに余裕のある時。目先のことではない、少し先までちゃんと見据えられる時。

業績が悪い時は必死で悩みます。
でもまた盛り返した時(商売はそれの繰り返しですが)、その時悩んだことを忘れてしまって考えようとしなくなる。

良いときほど考える、悪いときほど体を動かすように心掛けようと思っています。


1枚の白いシャツ~男45歳からの服装術~(河毛俊作著)

2011-05-08 | 仕事について

書店の男性ファッションコーナーでドンピシャのサブタイトルに惹かれて買った本ですが、何でも長く使われている質の良い定番といえるものを知りたいと思っていますので、おもしろく読みました。

テレビディレクター、映画監督である著者が自身のファッションへのこだわりと経験から綴った男性ファッションの指南書です。

男の究極のおしゃれは流行のないオーソドックスなグレーのパンツに白いシャツである、そしてなるべく上質なものを身につけるべきだという持論を展開します。

この本を書かなければいけないと著者が思った背景には、昨今の大人らしい服装の衰退があり、文中でも何度もそのことに触れています。

男も女も子供と同じような服装をするようになって、流行とは関係なくしっかりと作られた服があまり着られなくなって苦しんでいる。
このままでは、日本から良い服がなくなってしまうという焦りが感じ取れます。

ファッションでも何でも、売れれば売れるほど陳腐化していき、イメージとビジネス的な成功はなかなか両立するのは難しいということを考えさせられます。

女性からいかに色気のある男に見られるかということを意識し過ぎているところはあまり共感できませんが、ファッションのスタンダードを知る著者の見識はとても参考になり、ぜひ実践したいと思いました。

大人の服装の自分スタンダードを確立するための参考書として読みました。


ご飯

2011-05-07 | 仕事について

自分がご飯が好きだと気付いたのは、20歳を過ぎてからでした。

アルバイト先のカラオケボックスでのまかないで他の人とご飯を食べる機会が多くなって、自分が人よりもご飯をたくさん食べることを知りました。
思えば大盛りのご飯にボンカレーだけ、あるいは缶詰ひとつがおかずとしてある夕食でも侘しいと思わなくて、むしろ喜んで食べていたことに思い当たりました。


ご飯は日本人にとって、あまりにも当たり前のものなので、まさか自分がこれが好きだということが、あるいはご飯が好きです、と宣言することになるとは思わなかった。

ご飯を美味しく食べるためにおかずを彩り程度に食べる、ご飯をたくさん食べることのできない食事は色あせて見えます。

お酒が好きな人が酒に合うものが分かるように、ご飯に合うものにはとても敏感です。
妻はそんな私の感性が理解できないので、ご飯に合わないものが夕食に出ていることがあり、そういう時には猛烈に腹が立ちます。

~産の~米が良いとか、そういった好みはないですが、米が美味いか不味いかは分かる。
そして大盛りご飯3杯は食べる。
高い米を買う必要はないけれど、最低限美味い米を買うというのがうちの不文律になっています。

齢も齢だから食べる量を減らさなければと思うけれど、美味しくご飯を食べられたらそれで幸せというところがあって、ご飯を減らすくらいなら何も食べない方がましだと思ってしまいます。


夏の靴

2011-05-06 | 仕事について

冬に夏のことはなかなか考えられないし、その逆も然りです。

特に服装に関することは、暑い寒いに関係なくても、1年通すのは難しいことが多いと思います。

靴などもそうで、1年中履くことができる靴というのはビジネスシューズくらいしかないのかもしれません。
でも暑くなりすぎた日本の夏には、ビジネスシューズでさえ合わないのかもしれないと思っています。

夏が近付くとビルケンシュトックの靴がその季節や服装に合ってきます。

暑いと感じる気温になってくるとあんまりピッタリした靴は履きたくなくなって、ビルケンシュトックの、ちゃんとした靴でもなくサンダルでもない靴ばかり履いています。

ビルケンシュトックのロンドンという名前の靴で、靴として決してカッコよくないけれど、足が自由な履いている感じが気持ちよく気に入っています。
靴の中で足先が自由に動くし、靴を履いているという感覚がないので、何か集中しないといけない作業に向いた靴というのはこういうもので、これはもしかしたら職人靴なのかもしれないと思っています。

ロンドンは、アッパーがとても柔らかいためか、脱ぎ履きがとても楽なのに、歩くと脱げそうになることもない。
考えごとをする時に、左足だけあぐらのように椅子の座面に乗せる癖がありますがそんな時にも便利です。

ベージュのパンツ用の薄茶とカーキのパンツ用のこげ茶を持っていて、特にこげ茶は靴底を何度も貼り換えお気に入りになっています。

先日3度目の靴底の貼り換えから出来上がってきたロンドンを受け取ってきました。

季節がビルケンシュトックを求めていて、服装も微妙にこの靴に合わしたものになっていきます。


休日

2011-05-05 | 仕事について

ゴールデンウィーク中ですが、昨日は水曜日でしたのでお休みさせていただきました。

世間様が休日の時に、水曜日だからといって休ませていただけることをとても有り難いと思っています。
でも祝日の水曜日に休むと、ル・ボナーの松本さんからはからかわれます。
そして、ル・ボナーさんはちゃんと祝日の木曜日は営業されています。

ゴールデンウィークなので、息子は学校が休みで久し振りに家族3人で出掛けました。

出掛けたと言っても観光ではなく、買物に出掛けました。

渋滞を避け、電車で出掛けましたがなかなか楽しい移動時間を過ごすことができました。

阪神間は有料道路料金を払えばどこに行くにもそれほどストレスを感じることなく行くことができますので、車の楽さが捨てきれず、どうしても車で出掛けてしまいますが、たまには良いものですね。

垂水から三宮、阪神三宮から甲子園、甲子園から今津、今津から西宮北口と移動しました。

特に阪急電車今津線は初めて乗りましたが、4両編成の短い電車、乗り降りする人の少なさ、阪神国道など聞きなれない駅名、短い区間でしたが町中のローカル線気分を楽しみました。

映画「阪急電車」はこの今津線が舞台になっているようで、映画も見に行ってみたいと思いました。


ペン先調整機

2011-05-04 | 仕事について

既製で売っているわけではないし、名前を付けていたわけでもありませんので、この機械をペン先調整機としか呼びようがありません。

でも当店のペン先調整において、なくてはならないものになっています。

この機械には軍手の手でも操作できそうな大きなスイッチがついていて、これで下回転、上回転どちらにも回すことができ、期待する効果によって使い分けることができます。

例えば極端な筆記面を作りたいと思ったときは、ペン先の頭に向けて下回転にするというようなことです。

番手の大きなゴム砥石がついていますので、仕上がりはとてもきれいです。
イリジュウムは光り輝きますので、この機械で作ったペンポイントをルーペで見るのはとても楽しい作業です。

この機械は当店がオープンして間もない頃に訪ねて来て下さった、堺市のHさんが機械製作会社を紹介して下さったことで作ることができました。

スケッチというか、完成図をレポート用紙に描いて、それが図面になってちゃんとした形になりました。

それまで東急ハンズとかホームセンターなどを見て回って、ペン先調整に使える機械を探していましたがこれというものに出会えていませんでした。

そんな時にHさんのネットワークでペン先調整機を作ることができたので、Hさんには本当に感謝しています。

万年筆を売っているお店でこのような機械を備えているところは少ないし、使いこなすのにそれなりの経験と勘が必要です。
当店のペン先調整は、この機械によって仕上がりがとても良くなりましたし、千本ノックもこれがあるから受けられるのだと思っています。


休まない

2011-05-03 | 仕事について

小学校の時から、学校を休むのを母が異常に嫌がるようになって、熱があるくらいだったら無理に行かされていました。

他の子に伝染すなどを考えると迷惑なことですが、多少体がしんどくても出掛けて体を動かしていれば元気になるということを体で覚えました。

しんどいと思っても休むという選択肢がなくなると不思議なもので、病気をしなくなりました。

それは今も変わってなくて、大人になっても病気をして仕事を休むことがなくなって、何のとり得もないけれど、それが唯一のとり得だと思っています。

でも何か続けようと思った時に体が丈夫であるということは本当に大切なことで、どんなに才能があっても健康に不安があると続けることができなくなることもあります。

ただ体が強いだけではありませんでしたが、広島の衣笠選手、阪神の金本選手などのような連続試合出場記録を重ねた人たちに感動し、自分もあのように生きたいと思いました。

私が物に対して、機能性や美しさ、極上の感触よりもただ頑丈であるということに惹かれ、すぐに壊れてしまうものを軽蔑するのは、そこに自分を弁護する気持ちがあるからなのかもしれません。

丈夫に生んでくれた母親にとても感謝しています。


仮設住宅

2011-05-02 | 仕事について

阪神淡路大震災で家が全壊になり、住むところを失った妻の母は親戚の家を転々として、最終的にやっとライフラインが通じた県営住宅の私たちの家に落ち着きました。

家に母がいると私としては本当に助かることばかりで、随分と楽をさせてもらいましたが、人一倍気に病む性格の母は居候していることを詫びてばかりいました。

私はずっと家にいてもらっても構わないと思っていましたが、かなり早い時期から仮設住宅の入居希望を出していて、順番が回ってくるのを心待ちにしていました。

かなり暖かくなってから、大久保の明石刑務所の敷地内に大規模な仮設住宅ができ、母は喜んで引っ越していきました。

仮設住宅に落ち着いて、母が安泰な日々を送ることができたのは本当にわずかで、今度は仮設住宅の居住期間というものが気になり出しました。

仮設住宅に入ってすぐに県営住宅の申し込みをしていましたので、今度は県営住宅の順番が回ってくるのを待っていました。

私の隣の棟に空きができて、入居できた時母は本当に喜んでいました。

やっと何も気にせず住むことができる場所に落ち着くことができたのは震災から3年たってからでした。

それから1年も経たないうちに母の病気が分かり、入退院を繰り返した末に亡くなってしまいました。

母の病気は、悪性リンパ腫とのことでしたが、私は心労が溜まったせいで病気になったのだと思っています。

被災者の人たちの仮設住宅建設を待つ気持ち、そして生涯落ち着ける場所を求める気持ちが分かります。
早く、最低限のプライバシーが保てるご自分たちの空間を持てるように、そして新しい終の棲家に早く移れることを心から願っています。