ペン先調整はペン先を適正な状態にして、万年筆をより書きやすくするというのが目的ですが、お客様のご要望をお伺いして、そのご希望通りのペン先に近付けるということも、私の役割としてあります。
それは人が道具に合わせて使いこなすか、道具を自分仕様に合わせるかの、考え方の違いなのかもしれません。
万年筆の書き味の好みは本当に人それぞれで、その項目は筆記角度、ペン先の向き、筆圧、文字の大きさ、インクでの好み、書き味の好みなど様々です。
ペン先調整において、万年筆がお客様と私の間を何度も行き来することを「千本ノック」と言い出したのはいつ頃だろう。
開店から半年ほどした当店に来られるようになったY女史の高い要求に応えるためにペン先調整をしていて、その状況をを言い表した言葉で、Y女史の千本ノックで私はペン先調整において、最も大切なこれ以上していはいけないという限界点を知りましたし、いろんな勉強をさせていただきました。
私自身はペン先調整は、メーカーの書き味を尊重して、紙に置くだけでインクが出て、変な引っ掛かりがないところまで調整できていれば充分だと思っているところがありますし、その状態の万年筆をしばらく使っていると自分の書き方にペン先が馴染んでくることも分かっていて、それが楽しいと思っていますが、お好みの仕様にペン先を合わせるという考え方も非常によく分かります。
千本ノックというと何かしごかれているように聞こえますが、私は何とかこの万年筆の書き味がもっと喜ばれるものにしたいという、献身的な気持ちでご要望をお伺いしていますので、それほど悲壮感のあるものではありません。
たくさん万年筆を持っていて、ひとつの万年筆ばかり使っているわけではないので、1本を悠長に書き慣らす気になれない。
それにせっかく万年筆を使うのだから今すぐ書きやすいものを使いたい、というお気持ちもよく分かりますし、ごもっともなことで、そのために私がいるので、私はいつでも千本ノックを受け続ける気持ちでいます。