新大久保駅事故:
自問と後悔… 立ちすくんだ在日3世
2011年1月27日 12時6分 更新:1月27日 14時49分
東京都新宿区のJR山手線新大久保駅で01年、線路に転落した男性を救出しようとした韓国人留学生の李秀賢(イ・スヒョン)さん(当時26歳)と 関根史郎さん(同47歳)が亡くなった事故から26日で10年がたち、事故を目の当たりにした歌手のLIMさん(38)=本名・林享弘(イム・ヒャンホ ン)さん=が重い口を開いた。【池田知広】
LIMさんは京都出身の在日韓国人3世。成人後に上京してモデルや役者の仕事をしていたが30歳からは歌手として活動している。李さんと面識はなかったが、祖国を同じくする青年同士。「なぜ彼は飛び込めて、僕は飛び込めなかったのか」と悩み続けてきた。
01年1月26日午後7時過ぎ。ホームで電車を待っていると、酔客の男性が目の前で線路に転落した。近づく電車のライトに「頭の中が真っ白になっ た」。すぐに、李さんが飛び込み、続いて関根さんが線路に下りた。電車の急ブレーキは間に合わず、3人が巻き込まれた。現場に居続けることが不謹慎な気が して、救急車が来るとその場を立ち去った。数日後、警察の現場検証に立ち会った。
その後の報道で、亡くなった1人が二つ年下の韓国人留学生と知る。そして「一歩も踏み出すことができなかった。自分は正しかったのか」と悩むよう になった。亡くなった李さんと代われるならば代わりたい、そう思い詰めた。「そこまで背負い込まなくても」と周囲には言われた。だが、3人の命が消える一 瞬を目の当たりにしたショックは大きく、自分を責め続けた。
事故を受け入れられるようになり始めたのは、2、3年前だ。「あの時、僕ができることはなかった。生きていることに感謝しなければいけない」。そ して李さんを偲(しの)ぶ会が10周忌で終わると聞いて、26日の同会に駆け付けた。「(亡くなった)3人のために歌いたいと思います」。壇上で「ハレル ヤ」など3曲を熱唱した。
偲ぶ会で李さんの両親と初めて対面し、言葉を交わした。2人は笑顔だった。「一番つらかったのは、ご家族だったはず。お会いして、抱えていたものが一つ一つが軽くなった気がします」。韓国・釜山にある李さんの墓参りにも近く、行くつもりでいる。