〈補助金問題の現在地~3.29通知をうけて~ 10〉
記者座談会/補助金問題を各地で取材して
民族教育権の根幹が脅かされる現場/各地の運動を繋げる橋渡しに
文科省による「3.29通知」を受けて、本紙では各地の補助金支給をもとめる運動を9回に渡り紹介してきた。千葉・埼玉・大阪・神奈川・東京を回った各記者たちが取材経験を交換した。(まとめ=金宥羅)
座談会の様子
各地を回って感じたこと
A:千葉初中には3年ぶりに市から「千葉市外国人地域交流事業補助 金」という新しい名目で補助金が支給されるようになった。県が、10年の「高校無償化」制度からの朝鮮学校除外を受け、11年度から「経常費補助金」を継 続的に不支給としている中で、市の判断は補助金問題に風穴を開ける一歩であると感じた。その背景には学校関係者たちの徹底的な地域目線の運動があった。近 隣住民や学校との交流や、「千葉ハッキョの会」などの支援者とのつながり、「千葉地区日朝女性交流の会」を含む議員たちとのパイプ作りなど、地域に朝鮮学 校を認めさせるというスタンスでの運動が、確実に「地域感情」を変化させていた。
B:埼玉県は埼玉初中に対しての補助金を10年度から凍結している。凍結当時は、学校財政の健全性の確認ができないとの理由での凍結だったが、学校側が財政面の問題を解決した後は拉致問題や県民の理解が得られないなどという理由をつけて不支給を続けている。
一向に進まない状況の中で13年6月に学園は埼玉弁護士会に人権侵犯救済申立を行い、2年という異例の長さの調査期間を経て、同申立制度の中でもっ とも厳しい決定である「警告」が弁護士会から出された。朝鮮学校の補助金問題でこの決定が下されるのは初めてで、全国のモデルケースになる事例だ。この 「警告」では県の言い分の不当性を明らかにし、それが重大な人権侵害であることを述べている。しかし、その警告について県は無視を続けている。ある支援者 は朝鮮学校の問題にのみ、このような異例の対応を続ける背景には、日本の植民地主義の根がいまだ深く残っており、それを覆い隠そうという動きがあるからだ と話していた。現在埼玉では「ネットワーク埼玉」やアボジ会などの継続的な要請活動が続いている。
C:神奈川県には大前提として75年の長洲一二知事から始まった多 文化共生の県民風土があった。13年2月に県が県下の朝鮮学校5校に対して、補助金不計上を表明して以降、まっさきに93団体による「神奈川県知事による 朝鮮学園に対する補助金の予算不計上に抗議し、撤回を求める県民会議」が発足し、3月と11月の2回に渡って署名活動を行い4万5千筆近くの署名が集まっ たのもその風土を示すもの。このように、多文化共生という県民理解が一般化されているにもかかわらず、県はこの年の対応を見送り、14年には、朝鮮学校で の拉致問題に関する授業を注視していくという意見付きで児童・生徒の家庭を対象とした形での補助金支給を始めた。
今後の運動としては93団体による「県民会議」を解散し、その活動を「神奈川 朝鮮学園を支援する会」に移行する。支援する会は学校と協力し、日本市民の朝鮮学校への理解を深めるべく、来年2月から授業参観などを行っていくという。
D:大阪では、全国でトップクラスの額の補助金が支給されていたが、 その額は11年度以降ゼロになった。全国で唯一の補助金裁判が行われている中で、朝鮮学校関係者と日本人有志、弁護士からなる「朝鮮高級学校無償化を求め る連絡会・大阪」が中心となって、「火曜日行動」や「ホンギルトン基金」、集会、講演会などの幅広い活動を行っている。朝・日の連帯が非常に強いのが特徴 だ。
200回目の「火曜行動」に初参加者が多かったことをみると「連絡会」を中心に確実に連帯の輪が広がっているということを感じた。
E:東京都では10年度から補助金が不支給となっている。都は交付し ない理由を後から探し出すような形で、異例となる朝鮮学校への実態調査を行い、13年11月には「朝鮮学校調査報告書」を発表。報告書には①教育内容及び 学校運営②施設財産についての実態調査結果が記載され、②についてはすでに解決済みだ。都はこれまで明確な不支給理由を学園側に示してきていない。学園側 は年5回の要請活動を行っている。
また、都内の状況を詳しく見ると、23区ではすべての区で補助金が支給されているが、6市では未実施の状態が続いている。西東京では、学校と「ウリの会」という支援ネットワークがタッグを組み、活発に運動が行われている。
取材の印象としては、「無償化」問題に対し幅広い層の関心があるのに対し、補助金問題に関しては各学校を中心とした運動であると感じた。
これからの運動をどう広げていくか
200回目を迎えた大阪の「火曜行動」。運動の裾野は確実に広がっている。(2016年6月21日)
B:埼玉初中では、補助金の不支給状態が続く中で、「志遠」基金というプロジェクトを発足し、実質的な学校財政支援を行っている。
不支給から6年がたち、学校側は出来る限りの努力を行ってきたが、状況は動いていない。しかし、弁護士会の「警告」にもある通り、正当性は学園側に ある。多くの理解者を増やし、世論喚起を喚起する活動を継続すると共に、議員とのパイプを構築する等、より効果的な運動の方法論を組み立てていく必要があ る。
D: 大阪では「3.29通知」以降、大阪弁護士会「子どもの権利委員会」の「外国人の子どもの人権部会」が朝鮮学校の実態を知ろうと授業参観と懇談会を実施し た。弁護士会は各地にあるが、このような部会があるのはあるのはめずらしい。当日は弁護士からひっきりなしに質問がとんだ。例えば「補助金が不支給になっ たことにより、学校でできなくなったことはありますか?」などの弁護士の財政面での質問に対し、学校側は「保護者が納涼大会やチャリティーゴルフを通して 収益を生み、それを寄付している」と回答。地域や保護者が必死に支えている実態が浮き彫りになったが、日本人から見たらそれは普通ではない状況だというこ とを再確認した。裁判も大詰めとなる中で、学校、日本市民、弁護士が三者一体となって作り上げたネットワークにより多くの人を網羅し、朝鮮学校についての 理解を広めることが大事だと感じている。
E:西東京の「ウリの会」では、都内の大学生を招き、フィールドワークを行う等、若い世代に働きかけることをメインの活動にあげている。これからを担う市民との交流が大事だ。
紙面を通してこの問題をどう発信していくべきか。
C:同胞たちの運動ももちろんのこと、周りを固める支援者たちの繋がりを伝えることで、その方法が各地で共有されるようにしたい。
B:徐々に運動の広がりは見せているが、その中での現場の閉塞感というものはやはりある。だからこそ、地域の同胞たちが他の地域の運動を知ることが同胞たちの力になり、参考にもなる。動きを逐一追っていくことが重要だと感じる。
E:教育権獲得運動という面で、「無償化」問題、補助金問題、全体の足並みをそろえていくことが大事だ。今回取材にあたった際、東京朝鮮学園理事長が、久しぶりに新報記者が要請活動の取材に来たと喜んでくれた。運動の現状を継続して、可視化させていく必要があると感じた。
A:ミクロな視点で地域の活動を拾うとともに、大局的な観点から運動 の方向性を打ち出す記事が不可欠だと感じている。私立学校振興助成法をもとに補助金が支給された当初の運動では、私立学校並みの教育助成金を求めていた が、10年度以降、次々と補助金が不支給となる中でその復活を求める運動へと変化せざるを得なくなった。民族教育権の根幹が脅かされている状況下で、運動 の軸を堅持し、各地の運動を全国的な連帯へとつなげる橋渡しの役割を新報が担えるように活動していきたい。
(朝鮮新報)