文化にも広がった交流
歴史問題の重み、改めて痛感
文化財問題で韓国訪問
緒方副委員長 対談 笠井衆院議員
しんぶん赤旗より
日本共産党の緒方靖夫副委員長・国際局長と笠井亮衆院議員が八月十九日から二十三日まで、韓国を訪問しました。植民地支配下で日本に持ち出された文化財の返還運動を韓国で進めている民間団体の共同代表を務める国会議員・金元雄さん(統一外交通商委員長)の公式招待によるものです。訪韓で見たこと、感じたことについて、緒方さんと笠井さんが語りました。
感謝の手紙と訪韓の招待
![写真](https://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-08-29/2007082906_01_0.jpg)
(写真)月精寺の書庫の前でメディアの質問に答える(右から)正念師、緒方副委員長、笠井議員=21日、韓国江原道平昌郡(前田和則氏撮影) |
緒方 今回の訪韓に至ったきっかけは、四月に衆院での「武力紛争時の際の文化財保護法案」の審議の機会に、日本共産党の石井郁子議員が植民地支配下の朝鮮から日本が持ち出した文化財の実態調査と返還を求めたことでした。次いで五月に私が参院外交防衛委員会で、現在は宮内庁保管で韓国側が返還を求めている「朝鮮王室儀軌」について麻生外相(当時)に質問しました。
儀軌については、韓国の民間団体「朝鮮王室儀軌還収委員会」が返還運動をしていて、昨年十二月に韓国の国会が返還要求決議を採択しています。日本共産党の国会質問を知った還収委員会の代表団が七月に訪日し、私たちと話し合い、さらに外務省に出向いて返還を申し入れました。
その後、還収委員会の共同議長である韓国国会議員の金元雄さん(国会統一外交通商委員会委員長)から感謝の手紙と訪韓の招待を受け、今回の訪問になったわけです。
笠井 訪韓前に緒方さんと一緒に宮内庁の書陵部に行き現物を見ました。朝鮮王朝の歴史を知ることができる貴重な資料で、韓国にあってこそ意味があるものだと感じました。朝鮮王室儀軌は国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録されています。文化財は原産国に戻すべきだというのが、一九七〇年にユネスコが採択した条約の原則です。
儀軌返還問題は、日本が植民地支配のけじめをつける意味もあります。偶然ですが、儀軌が朝鮮総督府から皇室に「寄贈」された一九二二年は、日本共産党が創立された年でもあります。植民地支配に反対した日本共産党と儀軌返還運動の運命的といえるような出会いを感じました。
緒方 国会質問で政府側は、六五年に日韓国交正常化した際に締結した「請求権協定」や文化財引き渡しに関する協定を根拠に、日本政府は儀軌を返す法的な義務を全く負っていないと言いました。同時に、個別の協定を結んで韓国側に引き渡した前例があり、両国の友好促進のためにケース・バイ・ケースで検討すると答弁しました。
笠井 たとえば、一九九一年に東京の国立博物館に保管されていた故・李方子さん(植民地期に「内鮮一体」を進める日本政府の方針で元朝鮮王族と結婚した日本皇族の女性)の服飾を引き渡した例があります。朝鮮王朝時代の服飾が一式まとまって残っている唯一の例だといわれています。
最初に訪ねたソウルの国立古宮博物館はこの服飾を特別に見せてくれました。二年に一回、一週間だけ一般公開するものだそうです。
緒方 一度広げると、たたんで元に戻すだけで八時間かかるとか。それだけの労を惜しまないくらい、今回の訪韓への韓国側の関心と期待は高かったのです。私たちが文化財の返還問題で声を上げた日本の議員だということで、歓迎されました。博物館には韓国政府の文化財庁から幹部が来て、私たちを案内しました。
文化財の意味改めて実感
笠井 いま問題になっている儀軌は、一八九五年に日本の軍人らに殺害された閔妃(びんひ=朝鮮王朝第二十六代国王・高宗の妃)の国葬を記録したものです。博物館の近くに復元中の閔妃の居所にも特別に入れてくれました。歴史の現場に立ってみると、文化財の意味を改めて実感するものですね。
緒方 儀軌の保管を朝鮮王朝から託されていた月精寺への訪問もたいへん印象的でした。この寺の住職は豊臣秀吉の侵略の際、仏教界で抵抗の先頭に立ったそうです。朝鮮王朝から重要な文献の保管を任されていた寺で、儀軌があった史閣(書庫)の前で今の住職の正念師(還収委員会共同議長)や地元の自治体首長などが出迎えてくれました。儀軌の故郷であり、西暦六四三年建立、千八百万坪と広い敷地を持つ由緒ある寺を訪問でき、住職が昼食会まで主催して日本共産党の一行を歓待してくれたことは、感慨深いものがありました。
笠井 ソウルから車で三時間。寺に行く途中の道に、「朝鮮王室儀軌の故郷月精寺を訪問する日本訪問団を歓迎します」という横断幕が掲げられていたのには感激しました。寺には取材記者も大勢集まっており、儀軌返還が韓国の人々にとってどれだけ大事なことなのか分かりました。
緒方 「八角九層石塔」などの第一級の国宝がある寺なのです。住職が境内を案内しながら、文化の意味を説明してくれたのですが、歴史と文化、民族というのは一体だと実感しました。メディアは、高僧がわれわれをこのように遇したことに注目していました。
笠井 どこでも心尽くしのもてなしでしたね。文化財の返還という一種の「国際的な要求実現運動」をしているという連帯感、同志としての友情を感じました。
緒方 還収委員会に参加している人々も、国会議員、僧侶、伝統文化の継承者、一般市民など実に多彩です。日本共産党と韓国の交流が、文化財返還問題での協力を通じていっそう広がったわけです。
日本共産党へ理解さらに
![写真](https://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-08-29/2007082906_01_0b.jpg)
(写真)金元雄議員(右)と会談する緒方副委員長(左から2人目)、笠井議員(左)=20日、韓国国会内(前田和則氏撮影) |
笠井 金元雄議員は私たちのことを、しきりに「真の愛国者」だと言っていました。金議員との会談に同席した議員も感謝してくれましたし、ある国会議員は「私がもし日本の国会議員だったら果たしてできるだろうか。あなたたちは本当に勇気がある」と言っていましたね。
緒方 昨年九月にソウルで第四回アジア政党国際会議(ICAPP)が開かれた際に、志位委員長を団長とする日本共産党代表団と会談した議員とも再会しました。この訪問がベースになって今回があると思いました。野党ハンナラ党の金炯旿・院内代表と与党・大統合民主新党の李洛淵スポークスマンは、儀軌返還問題での日本共産党の活動に感謝してくれました。また、文化財の返還問題という具体的な問題を通じて、日本共産党への理解をさらに深めたと言っていました。
笠井 昨年の訪韓からほぼ一年がたちますが、志位委員長の訪問が切り開いたものは大きかったなと思います。違和感なく私たちを受け入れてくれました。文化財返還問題で私たちが堂々と韓国の人々と協力できるのも、侵略戦争と植民地支配に反対し自主独立を貫いてきたからです。党の歴史の価値だと思います。
緒方 今回の訪韓で、日本共産党と韓国の交流が、政治だけでなく文化や宗教にまで広がりました。文化や宗教は人々の生活、社会そのものです。そういう場に交流が発展していたことに大きな意味があったと同時に、私たちも多くのことを学びました。
笠井 歴史問題の重さを痛感した訪韓でした。日本と韓国の友好を真剣に願っている多くの人々に会えました。文化財の返還をはじめ、歴史問題を解決して日本が尊敬され信頼される国になってほしいと言っていました。日本共産党と韓国の交流が、日本と韓国が信頼し合える関係になり東アジアの平和と友好を実現するために役立てば、これほどうれしいことはありません。
朝鮮王室儀軌(ぎき) 朝鮮王朝(李氏朝鮮)時代(一三九二―一九一〇年)に、国家や王室の重要な行事の内容を絵と文章で記録した書物。ユネスコが世界記憶遺産に指定。このうち宮内庁に保管されているのは「明成皇后国葬都監」など。植民地統治機構の朝鮮総督府が月精寺から持ち出したものを一九二二年に皇室へ「寄贈」しました。