みつばやま小零庵だより

宇宙の塵、その影のような私ですが、生きている今、言葉にしたいことがあります。

野上弥生子著 「迷路」

2013-04-21 14:15:19 | 

この読後感を一体どう表したらよいのか・・・この本の凄さと魅力の前で、暫し茫然の私です。

Dscn33382・26事件の頃から終戦近くまでの時代を背景とした人々の、様々な個性と境遇とその生きる姿が、歴史、思想、心理、友情、恋愛、芸術等々多岐にわたる視覚から描かれています。その視覚の、嘘や曖昧さや誤魔化しはもちろん、決めつけをも許さない、丹念な物凄さに圧倒されます。

登場人物群の複雑さもあって、読み始めの数十頁は老化した頭脳にとって重荷でしたが、それを乗り越えた後は、心身に熱気を孕みながらの読書となりました。雑用や野良仕事や丈夫でない身への睡眠時間の確保等のために、読み掛けでこの本を閉じなければならない毎夜の所作に決断を要する日々でした。

登場人物の幾人かの死が、読者の私にとって実に理不尽に感じられたのが、私自身にとって意外でした。ストーリーとして不自然という意味ではありません。彼、彼女の死が、私にとって理不尽だったのです。彼、彼女の生死と、私の生死とに繋がりが生じた、ということでしょうか。私の心の中で、彼、彼女たちが生きているのを感じます。

余韻というにはあまりにも多くのことを考えさせ感じさせられる幕切れまで、野上弥生子の精神の物凄さに巻き込まれた本です。


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