みつばやま小零庵だより

宇宙の塵、その影のような私ですが、生きている今、言葉にしたいことがあります。

飢餓海峡

2021-08-13 11:10:14 | 
水上勉(1919~2004)著の『飢餓海峡』(1963年 朝日新聞社刊)は、映画化され、テレビドラマ化され、舞台化もされていたらしいが、私はそのいずれとも接することはなかった。この本を手にとることもなかったが、ややセンセーショナルな題名のためか、そんな本があるらしい・・・ぐらいの認識だけだったのが恥ずかしい限りである。

     

誠に遅まきながら、この齢になってようやく読んだ。
図書館から借り、最初のページを開いたら、後はもうグングン牽引されて読み進んだ。若くて体力があれば徹夜でもして読み切りたい気分だったが、いかんせん衰えた体だし、野良仕事もあるので、はやる心を抑え数日間を掛けて読了した。

とにかくリアリティが強烈だ。登場人物たちも出来事も。特に主役たちのリアリティは本当に強烈で、読んでいる私のすぐそばで動いているような感覚だ。まさに命を吹き込まれているのだ。夢にまで何度か登場した。
水上勉自身も「あとがき」で、この『飢餓海峡』は作者の心の中で生きている と語っている。

推理小説的であり、社会派小説的でもあり、思想小説でもある。人間の業の深さへの哀憐の情が染みわたっているような物語である。

先に読んだ『良寛』も素晴らしかったが、水上勉の他の作品も出来るだけ読みたいと思う。



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