みつばやま小零庵だより

宇宙の塵、その影のような私ですが、生きている今、言葉にしたいことがあります。

句集「無音の火」

2022-12-04 09:22:39 | 俳句
福島の俳人、大河原真青さん(1950~ 『桔槹』同人・『小熊座』同人)の句集「無音の火」(2021.7.21発行)との出会いを得た。
この句集の世界の大きさと奥深さに圧倒され、衝撃に近い感銘を受けた。たった五七五の言葉によって、こんなにも大きく深い世界が開かれるのだ。



高野ムツオ先生(『小熊座』主宰)は、序文でこの句集への大いなる賛辞を送られている。そして、「変化流動そのもののうちに事象の姿を捉えようとするところに真青俳句の独自性が存在する」「時空の向こう側を凝視しようとする意思のまなざしが確かである」等と評されている。

高野ムツオ先生による15句選を以下に引用する。

          荒星や日ごと崩るる火口壁
          被曝の星龍の玉より深き青
          手のひらの川蜷恋のうすみどり
          根の国の底を奔れる雪解水
          窓を打つ火蛾となりては戻り来る
          夏果ての海士のこぼせる雫なり
          七種や膨らみやまぬ銀河系
          沫雪や野生にもどる棄牛の眼
          水草生ふ被曝史のまだ一頁
          野鯉走る青水無月の底を博ち
          骨片の砂となりゆく晩夏かな
          わが町は人住めぬ町椋鳥うねる
          白鳥来タイガの色を眸に湛へ
          凍餅や第三の火の無音なる
          被曝して花の奈落を漂泊す

以上の15句以外も、どの句もどの句も私の心に確かな響きをもたらす。その中から敢えて、おこがましくも私なりに10句選を以下に挙げる。

          影のなき津波の跡も蝶の昼
          死者阿形生者吽形桃の花
          蛍の夜おのが未来に泣く赤子
          原子炉を囲ひて冬の闇無辺
          海鼠切るさびしき穴の次次に
          虚無の縁すれすれを飛ぶ冬の蝶
          影連れて幾人とほる春障子
          魂の寄りそふかたち夜の桃
          皓々と膝頭ある初湯かな
          眸なき石膏の像夏を追ふ

最新の画像もっと見る

コメントを投稿