自称「糞土師」の伊沢正名(まさな)さんの話を聞きに行った。場所は近くの「こんこんギャラリー」。昨夕の、5時から7時という中途半端な時間で、結構寒い。人里離れた小さな山小屋風展示空間の隙間が30人ほどの老若で埋まった。
「生れること生きることは良いこと、死ぬこと腐ることは悪いこと、とされている。そうでしょ? でも本当に死ぬこと腐ることは悪いことでしょうか?」という問いかけで、伊沢さんの歯切れ良い話は始まった。
生態系の循環を簡略に書くと、土(&光合成)→植物→動物(含:ヒト)→土。人は死んで屍となって、まさに「土に還る」。ところが伊沢さんは、ヒト(他の動物も)が土に還るのは死んだときだけではない、と語る。ウンコこそ、土に還る主役なのだ、と。人は一生に数トンから十トンほどのウンコをしているそうだ。
人は生きるために食べる。食は他の命を奪って自分のものにすること。それは動物としての人の宿命であり権利でもある。ならば、戴いた命に感謝し、自然にお返しをするのは義務であり責任ではないか。
水洗トイレは大量の紙と水を消費し、屎尿処理場では残泥焼却に大量の重油を使用するなど、資源とエネルギーを浪費している。伊沢さんは、2000年6月からは一度もトイレにウンコを流さず、信念を持ってウンコを大地に還し(いわゆる「野糞」を)続けている。その行為が、現代社会に無用の混乱を招かないよう、「正しい野糞のマナー」を守ることも訴えている。
ウンコは菌類(カビ・キノコ)の働きなどにより分解されて、土に還る。その土から植物が誕生し、命の循環が成立する。伊沢さん(茨城出身)は、元々はプロの写真家。彼が撮ったキノコやカビの美しさには誰もが魅了されるだろう。
聴衆の中から火葬の慣行についての質疑があった。老いて病んで野糞が出来なくなったとき、伊沢さんは自ら土の中に入って即身仏になる、と断言した。柔らかな静けさが会場を満たした、ように思う。
日本人は輪廻転生の思想によって癒される(=死の恐怖から救われる?)ことが多いようだ。伊沢さんは、思想だけでなく自ら果敢に実践かつ啓蒙に尽力されている。
輪廻転生の思想と仏教思想とは相容れない。ブッダは、輪廻転生からの解脱を求めて悟りを得た。私自身は、輪廻転生の思想によって癒されるのは束の間の感情だけ。一方のブッダの教えによっても、心の平安は得られそうにない。まさに凡愚の最たる者