東京新聞が昨日掲載した池内了(1944~宇宙物理学)の一文には、穏やかなバランス感覚が感じらました。
1月末、割烹着姿のリケジョがSTAP細胞の作製に成功したとして大フィーバーになったとき、池内了は、直ちには信じられなかったが、共同研究者や理研への信頼感から、徐々にSTAP細胞論文を信用するようになっていた旨、述べています。権威主義に陥っていたのかも知れないという反省の辞も添えて。
私も同様に受け止めていました。
やがて仰天の事実が明らかになりました。小保方春子が若山照彦に渡したマウスの細胞はすり替えられていたのです。そしてSTAP細胞からマウスの細胞が作製されたという証拠の筈の画像は切り貼りされていました。
核心部分が捏造されていたのです。科学への冒涜であり、社会への欺瞞です。犯罪的と言ってもよいと思います。小保方春子は罰せられて当然でしょう。
トカゲが尻尾を切ったからといって、実行犯の尻尾が免責される道理はありません。
理研の丹羽仁史が「STAP細胞が出来たという根幹は揺るがない」と発言したことを知って、「福島原発は完全にコントロールされている」と言ったアベを想起しました。どちらも鉄面皮な欺瞞です。単純ミスなどと強弁する小保方春子も厚顔無恥な欺瞞者。
食品偽装も、オレオレ詐欺も、ベートーベンに譬えられた聾者も、原子力発電は安価という説も、消費税は社会保障に当てるという約束も、どれもこれも欺瞞。欺瞞だらけの時代です。
池内了は、科学の倫理の教育が欠けていることを実感した、というけれど、もっと根が深い問題ではないかと私は思います。
万能細胞は、新薬開発や再生医療への活用が期待されています。再生医療はアベノミクス成長戦略の目玉の一つ。実際の活用はされていなくても、「期待」があれば投資の対象になります。虎視眈々と金融投機市場で蠢いている輩は、新たな利権の争奪に躍起となっていることでしょう。
STAP細胞の存在そのものを否定せず、今後数か月を掛けて作成を再現出来るか否か検証するという理研。錚々たる弁護士4名を揃えた小保方春子。どちらの側にも利権の構造が透けて見える気がします。
万能細胞の研究は、高度医療への活用を期待する積極面が大きく取り上げられていますが、一方では、生命倫理の根幹に触れる問題を孕んでいます。また、取扱いに細心の注意が払われなければ、生態系を損なう危険もあるでしょう。こうした問題への真摯な対処が置き去りにされたまま、利権の構造に組み込まれている危惧を覚えます。