カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

やっぱり田舎はそうですか   田舎はいやらしい

2022-05-07 | 読書

田舎はいやらしい/花房尚作著(光文社新書)

 副題「地域活性化は本当に必要か?」。書名副題の通りで、田舎の過疎地の人々が、いかにいやらしい人々なのか、ということを書いてある本。一般的に田舎の活性化政策は良いこととされているけれど、それはなかなかに成功しない。それは田舎の人々には必要のないことだし、そもそもそういうことにほとんど意味など無いことを喝破している。都市部には人が集まる理由があるし、過疎地は人がいなくなる理由がある。原因があって結果があるわけで、その結果を見て原因を変えることはできない。だからまちづくり活性化は失敗しているということである。そもそも田舎の人々は、本音では夢や希望なんてものを抱いていない。いやらしい人々しか住んでないので、住みにくくてそうなっているのであって、そういうところに好き好んで住む人々なんてものはいない。そうして田舎に残っている人々にとっては、いやらしい人だらけの社会なので、彼らなりに満足なのである。
 なかなかに辛辣だが、まあそうかもな、というところもあって面白い。著者はちょっとひねくれているところもある気がするけど、それは田舎に住まざるを得なくなった自分の境遇への恨みのようなものなのかもしれない。しかしながらこれはギャグでは無くて、それなりにまじめに考察したものである。調査だってしていて、客観的な資料もある。しかしながら文章を読むと、基本的には田舎者に対する悪口である。それはそれで面白いけれど、本当にそんなものかな、という思いもあった。
 それというのも僕も田舎暮らしで、それも普通の田舎ではなく、おそらく近い将来において財政破綻する可能性の高い限界集落の暮らしも知っている。実際に住んでいるのはとなりまちで、そこも田舎には違いないが、ここに描かれるようなところとは乖離がある。そういうこともあるが、僕が知っている田舎というところとはかなり違うような気がする。著者が語っている場所は鹿児島の田舎のようで、少しばかり事情は違うかもしれないが、同じ九州だし、似たり寄ったりであることは容易に予想がつく。田舎のいやらしさという表現でくくられているけれど、ほとんどの内容はお年寄りのいやらしさであって、田舎特有のものではないようにも思う。それに田舎だから満足して何もしないし妨害ばかりしているようなことも書かれてあるが、それは都会の日本の村社会にはどこにでも見られることで、よっぽど著者の周りの局地的な現象なんじゃないかという部分も多い。田舎はなんにでも干渉してくるのは事実だが、そもそも人が少ないので、自分自身が田舎に干渉しているという事実の上に干渉してくるわけで、お互い様なのである。都会のような暗黙のルールはむしろ少なく、しかしあけすけの環境で生活はあたりに丸見えだから、情報は簡単に広がってしまう。しかしそれは都会の数人のグループにおいても同じことであって、その地理的な範囲が広いために感覚的に勘違いを起こしているに過ぎないのではないか。もっとも実際に過疎地に住む気にはさらさらなれないのも事実だが、縁もない場所に行きたくないのはどこも同じことである。それでも憧れる人はたまに移り住んでくるし、やっぱりいなくなる人もいるけど、適応する人もいないではない。要するに向き不向きの話であって、田舎だからいやらしい訳ではない。
 よく都会の喧騒が嫌になるということも言われる訳で、確かにのんびりやらなければどうにもならないとことはある。何しろ人が住んでいないので、人にはあまり頼れない。だが、田舎はそういうあわただしさが無いかといえばそんなことはなく、どこに行くにも距離があるので、朝早く起きて準備をしないと間に合わない。何でも自分たちでやらなければならない分生産性が低くなっていて、あわただしく動いていないととても一日を過ごすことができない。さぼった分はさらに生産性が落ちてしまうので、共同体全体で忙しく働いてないと今のままの生活も維持できない。しかし世の中は高齢社会であって(高齢化ではなく、どっぷりとすでに高齢社会だ)、事実上都市部の金をあてにした交付金を伴う分配社会になっていて、それで命をつないでいるのである。
 ということで田舎には構造的に致命的な欠陥があるのは確かなので、結論としては同じかもしれない。そうして静かに、しかし壊滅的にものすごい田舎は掃滅していくのだろう。
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