カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

いやこれは犯人逃げられたかもしれません   どんなに上手に隠れても

2021-01-27 | 読書

どんなに上手に隠れても/岡嶋二人著(講談社文庫)

 まだ高校生のアイドル駆け出しの女の子が、テレビ局の控室から消える。そのまま誘拐されたことが分かり、犯人から身代金一億円が要求される。女の子が所属する事務所は、何とか要求通りに金を運ぶが、なかなか犯人グループは慎重で、二転三転する。その頃、女の子はある商品のCMに関わっており、そのスポンサーは、この誘拐事件をそのまま大きな宣伝として利用しようと考える。誘拐事件の報道なら、生きて帰っても、残念ながら死んだとしても、相当に大きく報じられることだろう。そうして思惑は当たって、商品はバカ売れすることになるのだったが……。
 岡嶋作品の面白さはいくつか読んでいたので知っているはずなのだが、これはもう、やっぱり面白かった、というしかない。読んでいてやめられなくなるし、忙しいのに困るのだ。さらにこの書かれているトリックに、読みながら当然いろいろ考えていたわけなのだが、途中途中で、あれっ、してやられた! というのが何度もある。もう、何度も何度もある。これが読み終わるまでずっと続く。凄いのである。
 出てくるキャラクターも生きている。物語の中で二転三転と人生の明暗が変わるものがある。そうしてそれ自体が、なんと、伏線にもなっている。そういう手があったのだ、ということに、結局舌を巻かざるを得ない。やはりこの物語全体が、ものすごく緻密な構成によって成り立っていることを思い知る。それでいて文章が読みやすく、小説としての細部のやり取りも面白いのである。
 確かに今読んでみると、時代が違うというのはある。携帯電話は無いし、テレビ局の事情もいくらかは違うかもしれない。僕が子供のころのアイドル歌手の時代背景ということだろうか。しかし同時に、何か古びれていない感覚も味わうのである。いろんな時代の風俗を紹介しながらも、そうしてそういう時代の空気がありながらも、基本的にこの物語は古びてはいない。トリックにしても素晴らしいし、その筋書きが明かされていく人間模様も素晴らしい。いわゆる普遍性があるせいなのではないか。人間の感情的なものも含め、そういう立場の人間だったら犯してしまいかねない、ちょっとした真実である。単に頭の中でこねくりかえして作り上げただけのものとは違う、いわば血の通ったような物語と、その展開なのだ。そうしてその緻密さゆえに、この展開以外ではちょっと考えられない。歴史的事実がそうであるように、その一回性という時間の刻まれ方に意味があるかのようだ。
 個人的には、また買って読んでしまうのだろうな。まあ、楽しいのだから、ありがたい話である。
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