カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

あひるやおばあちゃんは近くにいる   あひる

2021-01-21 | 読書

あひる/今村夏子著(書肆侃侃房)

 父が知り合いからあひるをもらい受けて飼うようになる。すると近所の子供があひるを見に集まってくるようになる。書いている娘は二階で資格試験のための勉強をしている。だから二階から、子供らが集まってあひるを眺めたりかまったりしている様子を聞いている。子供が集まるようになると両親は喜んで、子供におやつなどをやるようになる。子供の中には、家に上がって宿題をして帰るような子も出てくる。ある日母親は、そういう子供の集まりの中にあって、家で誕生会の準備をするのだったが……。
 表題作の「あひる」以外にも二編が収められている。字が大きくて短い作品が三つなので、一時間もあれば読んでしまえるかもしれない。しかし、読んでいる途中から、確かになんだか胸がざわざわしてくる感じになってくる。いや、他の人の感想でそんなことが書かれてあったようだけど、確かに考えてみると、そんな感じだったかもしれないと思っているだけかもしれない。お話の要点は正直に言ってよく分からないのだが、平易な文章にありながら物語に引き込まれていき、そうして妙なことが起こるたびに、なんだかよく分からないながら、感情が揺り動かされていく感じなのだ。あるいはこれは、確かに児童虐待的なことも書かれているのかもしれないのだが、それに何か暴力に対しての恐怖感もあるのだが、しかし、そういうことを摘発したりするような話なのかさえ分からない。子供たちの境遇はそうかもしれないが、それでも何か温かいものがあるし、その不思議さの中に、それなりに人々が暮らしている確かさらしいものがある。そうでありながら幻想世界もすぐそばに存在していて、そういう幻想の方こそ、ちょっとしたリアリティを放っている。
 なるほどなあ、こういうのを文学というのかもしれないな、と改めて思う。文学賞というのに興味も感じないし、そういう賞をとった作品ということで手に取ったりはほとんどしない。どのみち理解できる自信も無いし、たいていは分からないから残念に思うだけだからだ。でもこれは読んでよかったな、と思える。そうしてまた別のものをクリックしてしまった。読んでいて楽しいし、確かに力のある作品だ。正確に分かるようなことは無いのかもしれないが、読んだ後にもなんだかしばらくぼーっとしてしまう。そうしてそれが心地いいのである。
コメント
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