「小さな独裁者」は、敗戦濃厚なドイツにあって将校の服を偶然見つけて身に着けたことによって、周りが勝手に勘違いして権力を握ってしまう男の姿を描いている。いわば普通の人間が、異常な権力を握るとどうなるのか? という設定を突き詰めて考えた物語だ。要するに、恐らくなのだが、ヒトラーは人間離れした怪物ではないのではないか。そう思いたくない人が、実は本当に怪物なのかもしれないのだ。
「伝令」は、映画としてものすごいつくりになっている。もちろんちゃんとカットはあるのだが、ほとんどそのカットに切れ目が分からないように映像が進んでいくのだ。そのために様々な仕掛けが仕込んであり、登場人物との臨場感がひしひしと伝わってくるような展開になっている。監督が他の映画製作者に向けてドヤ顔をしている姿が浮かんでくるようだ。
「パッセンジャー」は、恐らく道徳心に激しく訴えかける物語ではなかろうか。主人公は、人間として決してやってはならない倫理的な過ちを犯す。しかし同時に、人間的には致し方のない欲求でもあるわけだ。当初女の方もこの事故による仕方なさを認めていたが、その倫理観に逆上してしまうのだ。人間にとって時間とはいったい何なのだろうという問いかけもある。娯楽作だが、問題作である。
「トンネル」は、韓国映画らしい作品である。韓国社会を韓国人が鋭く批判しているとも見て取れる。しかしながら、同時に、ある種の人間の根源的な倫理観にも訴えかけるものがある。絶望的な状況にあって、しかし、人間は本能のみに生きている訳ではない。もう一人の動けない女性と犬が、この物語に、ちょっとしたひねりを加えている。
「手紙」は、いまだに続くナチスものだが、ラストのどんでん返しに、かなりの工夫がある。いや、それまでの展開にも十分ひねりが加えられている訳だが、なるほど、人間の恨みというものは、このように根深いものだというのが、改めてよく分かる。これは、やはり強烈な本能なのだろう。
日本映画も紹介しなければ。「マスカレード」は、優れたミステリ作品だと思うが、同時に、なかなか映画としても凝っている。キムタクと長澤のアイドル映画でありながら、これも倫理問題を考えさせられるのである。本来漫画的な仕掛けがありながら、それなりにピースのはまり具合に快感がある。
「ハウスメイド」は、これもやはりザ・韓国映画だろう。こういう映画の展開や、いわゆるショック度の高さというのは、(日本映画と比べて)韓国映画というのは、たいへんに優れている。そうして、本当に嫌な感じで恐ろしい。僕はこんな取り返しのつかない恐ろしさに、怯えているのかもしれない。
小さな独裁者/ロベルト・シュヴェンケ監督
1917命をかけた伝令/サム・メンデス監督
パッセンジャー/モーテン・ティルダム監督
トンネル 闇に鎖された男/キム・ソンフン監督
手紙は覚えている/アトム・エゴヤン監督
マスカレード・ホテル/鈴木雅之監
ハウスメイド/イム・サンス監督