Cold war あの歌、二つの心/パヴェウ・パヴリコフスキ監督
著名な音楽家と、オーディションで選ばれた歌手との恋物語。音楽家は、いわば立場が上の存在だが、歌い手の女の子は、見出された才能の持ち主だ。共産主義下のポーランドが舞台で、政治的に虐げられた芸術世界にあって、窮屈さに音楽家は亡命する。そうして二人の仲は引き裂かれ、時を経て、ともに別のパートナーを持つことになる。しかしながらお互いに忘れがたい存在だったらしく、再会するとまた、愛が燃え上がる。時代の変遷やすれ違いはあるが、パリでの再開でお互いのパートナーを捨てやっと結ばれる。音楽家の男は、彼女を正式にスターとして売り出そうと試みるが、その過程で女は男の過去の女に嫉妬などして、せっかくの仲は破局してしまうのだった……。
共産主義統治下のポーランドにあって、芸術家は遠征で諸外国へ行くことができた訳だが、才能のある人間は、それだけ亡命のチャンスがある。そこで何度も国境を隔てた関係があるからこそ、再会後にまた思いが激しく燃え上がるのかもしれない。
映像的な説明は最小限で、なおかつ、時間軸がどんどん飛んでいく。民族音楽やジャズなど素晴らしい演奏や踊りなどが、うつろう時間や感情を見事に表現している。何故か白黒なのだが、暗いポーランドの共産主義の影や、パリなどの歴史的な街並み、そしてこのカップルのその時々の表情を豊かに表現している。
この芸術的ともいえる作風のためか、諸外国の数々の映画賞にノミネートされ、それなりの賞も受賞した。ただし、芸術的だからお高く留まっている映画という訳ではなく、時代に翻弄される中で苦悩する男女の悲哀を味わう娯楽作にもなっている。特に奔放なヒロインには、主人公の男のみならず、観客も翻弄されるのではあるまいか。最後は物語なりに皮肉なハッピーエンドなのだが、こんな人生まっぴらである。
しかしまあ、恋に落ちたのなら仕方がない。恋愛とはある意味で命がけである。そうして命はいくつも無いから、人の命を使って考えるより仕方ない。自分の命は誰に使うか、それが決まっているなら、素直に従うべきである。