カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

誘拐には、金儲けだけでない理由がある   99%の誘拐

2020-05-30 | 読書

99%の誘拐/岡嶋二人著(講談社文庫)

 題名の通り、誘拐事件ミステリ作品である。それも、何と二件も誘拐事件が起こるのである。時をまたいで起こる誘拐事件なのだが、ちゃんとこの事件には関連がある。それぞれの誘拐のトリックも素晴らしいが、後半のアクションも素晴らしい。確かにこれは実現がものすごく難しいトリックだと言え、それなりにリアルだし、当時の技術であるとはいえ、まさにすさまじく素晴らしいアイディアである。ひょっとすると彼らだからできるという批判もあるかもしれないと想像するが、そうであるから素晴らしいのではないか。自分のできることにすべてをかけて綿密に練り上げられた物語が展開する。ディテールも素晴らしく、物語を支える検証も同時に解説がなされてもいる。コンピュータの知識なくとも、その理屈は容易に理解されるのではないか。それに何より、読んでいるだけでものすごく面白い。こんな作品があったんだな、と本当に舌を巻いてしまった。
 「チョコレートゲーム」、「おかしな二人」、と読んで、やっぱりこれも読まねばならないだろうと手に取ったわけだが、実を言うと「チョコレート」の方は、そこまで感心した訳ではなかった。ちょっと物語が悲しすぎるということがあって、それは僕の方の問題である。しかし、物語を引っ張る文章に魅力を感じたのも確かで、その秘密を知りたくて「おかしな二人」というエッセイを読んだわけだ。そして本当に驚いてしまった。この作者たちの物語がすでに、ものすごく面白いのである。創作秘話というか、創作そのものが赤裸々に描かれてあって、当然この「99%」についても書かれていた。そうであっても面白く読めるのだろうか、という思いがあったのだが、そんな心配は失笑ものだったことを知ることになる。つまり、そういうことをちゃんと知っていても、手に汗握って面白いのだ。そういえば、この作品を生み出す時に彼らはものすごく苦しんでいたはずなのに、やはりものすごく綿密に話し合っていたんだろうな、ということがよく分かるのである。たくさんのアイディアを破綻なくつないだり、そうして検証していただろうことが、かえってこの作品を楽しませる要因にすらなっている。そうして、人間の感情にも素直に納得のいく文章のリアルさがある。エンタティメントであることに徹していながら、文学的な面白さも同時に持っているのではなかろうか。そうして人間の運命めいたものも考えずにいられないのである。
 犯人を暴くだけがミステリ作品ではない。痛快でありながら、悲しくも恐ろしい人間模様を描いた傑作であろう。
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