カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

諦めたくても諦めない   殺人者の顔

2020-02-25 | 読書

殺人者の顔/ヘニング・マンケル著(創元推理文)

 スウェーデンの小さな町で、老夫婦が拷問の上に虐殺される痛ましい事件が起こる。老婆が死ぬ前に残した言葉は「外国の…」といっていたようだった。外国移民問題で国民世論が過熱する中で、この発言がマスコミに漏れて、騒ぎはこの殺人事件のみで済まないものへと展開していくのだった。
 スウェーデンの警察小説として、たいへんによく読まれているシリーズの第一作目だという。人口が890万人の国でシリーズ累計200万部を突破するほど読まれているという。日本の人口は14倍なので、単純計算だと2800万部ほど売れたのと同規模とも考えられる(凄い)。また英語はもちろん22ヵ国語に翻訳されているという。まあ、もちろんそういうわけで僕も手に取ったわけだが。
 主人公のヴァランダー刑事は、休暇で不在の署長代理をするくらいベテランでやり手でありながら、奥さんとは離婚したばかりで娘ともあまり良い関係ではない。ボケかかった父親との関係もかなり良くない。そのような不安定な私生活を抱えながら事件に追われて睡眠不足で疲れ切っており、酒をのむと個人的にひどく問題も起こしてしまう。ぶつけたり転んだり落ちたりして頻繁にケガをし、死にそうにもなる。なんとなく情けないのである。物語の後半になっても、主たる事件の解決の糸口さえ見つけられないように見える。ほとんど諦めかけるが、何度も何度も行ったり来たりしながら辛抱強く捜査を続けていく姿自体が、たいへんに痛ましいのである。
 そうではあるのだが、これが笑えないコメディめいた味わいであることも確かである。社会問題も絡んで、たいへんに難しく複雑なことになっているが、そういう中にあって、単なる正義感だけで表立った薄っぺらな考えに悩んでいるわけではない。そのことで失敗もするが、警察としてだけでなく、一人の人間として、たいへんに共感のできる苦闘をしていると感じられるのである。正直言って女々しく情けないところもあるが、そういう感情があって当然であるとも考えられる。とにかく精神的に寂しくなるし、つらくもなるし、焦りを抑えられない。しかし残虐に殺された老夫婦を殺した犯人は、何としても挙げてみたいのである。
 活劇もあるし重厚だし、何より読みだしたら文章のうまさに引き込まれてしまう。これ以降の作品もボツボツ手に取ってしまうかもしれないな、という予感に、今僕は囚われているのである。
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