コンビニ人間/村田紗耶香著(文春文庫)
コンビニでのバイト風景と、主人公の36歳・女である古倉の小人生的なことがつづられている。妙な感じはするにはするが、ちょっと変わった感性の女性なんだろうという風に思いながら読み進んでいた。ところが段々と常軌を逸してきて、とんでもないお話に発展していくような感覚に陥る。なんなんだこれは。
芥川賞受賞作は、読んでつまらない小説、といわれている。なのでこれは例外的に面白い小説なのである。
自負と偏見/ジェーン・オースティン著(新潮文庫)
断るまでもなく英国の古典的名作である。なんだか分厚いし、男である僕が中年になって手に取るような小説とは考えにくい内容ではある。まあ、ふつうは表紙さえも見ないものではないか。ところがそうしてしまったのは、なんとなく古典的な英国の階級社会の日常というものが何なのか、覗いてみたくなったのと、この作品が映画界では繰り返し作られていることを知っているからだ。「高慢と偏見」であったり「自負と偏見」であったり「プライドと偏見」というのもあるが、すべてこの小説を題材にしている。映画だけでなくドラマ化された作品も多数ありそうで、まるで水戸黄門のように繰り返し量産されている。おそらくだが、そのような作品だからこそ、普遍的に愛されているのである。
ここからはミステリ作品。
悪意/ホーカン・ネッセル著(東京創元社)
5編組んであるので短編集であるが、最後の一編以外はそれなりに重厚な物語構成になっており、日本のいわゆる短編集とは違う感じだ。二段組でもあるし、読みごたえがある。先が気になって仕方なくなるので、この長さでないと我慢できないかもしれないが。
殺人事件が主で、いわゆるミステリ作品なのだが、文学作品としてたいへんに優れているのではないか。ものすごく上手い文章だし、構成が見事なのである。人間心理が描けていて、適度のユーモアがある。独特の皮肉も効いていて、思わず唸らされる。それでいて面白くて読むのがやめられない。こんな作品にはめったに出会えるものではない。
連続殺人鬼カエル男/中山七里著(宝島社)
マンションの13階に、フックにかけられた女性の腐敗した全裸死体が発見される。傍らには、子供が書いたような文章が残されていた。その後も第二第三と猟奇殺人が行われ、小さな町は大パニックに陥れられる。何のつながりも見いだせない連続猟奇殺人に、警察の捜査も犯人に絞り切れるものが見つからないのだった。
猟奇殺人のホラー的な要素と、まちが恐怖のためのパニックに陥った後の、警察への暴動スペクタクルへ発展する。映画で言えばB級ホラーめいた展開になりながら、執拗に残酷と暴力描写が続く。そうして最後には、大どんでん返しの仕掛けが爆裂するのである。
楽園のカンヴァス/原田マハ著(新潮文庫)
日本とアメリカのアンリ・ルソー研究家の二人が、スイスの大富豪に呼び寄せられる。ルソーの最晩年に描かれた「夢」に酷似する「夢を見た」という作品をめぐって、真贋どちらか判断をさせるためだった。さらにその判断をするために、一日に一章ずつだけある物語を読まされる。全部で七章あるらしく、その物語を読んだ最終日に絵の判断を下さなければならないルールである。勝った方には、その絵を自由にしていい権利を与えられることになるというのだったが…。こういうスケールの作品を日本人が書いているのは、実に珍しいことのように思える。これは国際的にも絶対にウケるはずである。
悪いうさぎ/若竹七海著(文春文庫)
女探偵は家出中の女子高生を連れ戻す際に負傷する。何とか退院するが、その後またその友人の行方不明の女の捜査を頼まれる。他にも行方が分からない友人もいるらしい。何か妙なつながりがありながら、金持ちの家同士の確執も絡み、物語の行方はどんどん妙な展開を見せていく。そういう中に親友に彼氏ができるが、どうもこの男も結婚詐欺師らしい。友情も捜査も、なんとなく気になる人も、そうして怪しい大人たちも、どんどんと黒い闇の世界に引きずり込まれていくのだった。女であることの困難を描いて、さらに難事件と身の危険もある。もう大変なんである。
チョコレートゲーム/岡嶋二人著(講談社文庫)
作家である近内は、息子の様子がおかしいと妻から言われる。どうも時折学校を無断で休んでいるらしい。話をしようにも、荒々しく拒否されるだけで取り付く島もない。ある日息子が家を飛び出して外泊した晩に、息子の同級生が何者かに殺されたことを新聞で知る。学校で何か大きな事件が起こったらしい。そうしてこの事件に息子が大きく関与しているらしいのだったが…。古典的に有名なミステリらしい。確かにトリックの小道具が、時代的になっているが、だからと言って本当には古くなってはいない。改めて素晴らしい構成ではなかろうか。