ひみつの花園/矢口史靖監督
子供のころからお金に関して執着していた咲子は、好きが高じて銀行員になって毎日お金を数える生活ができて、ちょっとだけ満足していた。が、銀行強盗に一緒にさらわれ逃亡したのち、五億円の行方が分からないまま車は爆発炎上して投げ出されて、富士の樹海の水脈に流され、奇跡的に命は助かる。
警察や報道では、車が爆発炎上した際に五億円は一緒に失われてしまったとされていたのだが、咲子の記憶では、しばらく五億円ととともに富士の樹海をさまよった記憶がある。それを頼りに五億円を探すために、咲子は地質学の勉強を始め、またそれらの資金を稼ぎ出すために、多少怪しい仕事まで精力的にこなすようになる。その一途な思いが届いて、五億円が見つかるのだろうか…。
福岡伸一が雑誌のコラムで紹介していたので、興味をもって観ることにした。矢口監督も定評のある監督ではあるが、いかんせん多少古臭くなっているチープな作りの映画である。ところがこのチープな感じはあえての演出であって、さらに多少の古さがあるのが、それなりの味のようなものになっており、今の風俗とはずいぶん違った若者描写が随所に見られる。コメディとしても緩くてそれなりに成功しており、正直言って思った以上に面白い。ハマるというのかなんというのか、主人公の行動はかなり破天荒で危なっかしく、非現実的ではあるんだが、素直にいつの間にか応援したくなる自分がいるのである。そうしてほだされていくというか、主人公咲子に思い入れをしていくようになるというか、さらに尊敬の念まで抱くようになっていくのである。
はっきり言って咲子の行動は単純で直線的で、馬鹿げている。実際に周りの人は、迷惑を感じながらも馬鹿にしている。嫉妬も受けて妨害もされる。しかし水泳も頑張り山登りも頑張り測量の技術を磨き、必死にノートを取り勉強する。お金のために散財して、無一文になる。そうして五億円を手にすることだけが、彼女の目的だったのか? ということになるのである。
すべてのチャレンジャーに送る賛歌である。そうして生きていくことがつらい人への応援歌である。こういう生き方は誰もができるものではないのかもしれないが、人間が生きていくうえで、一番の楽しさは、ここになるのではないか。チープだけど素晴らしいコメディの傑作である。