果てしなき渇き/深町秋生著(宝島社文庫)
読んでいて、あまり共感の得られる主人公ではない。少なくとも僕には。考え方があまりにも違う上に、暴力ばかり。会話のやり方も、なぜこういう言葉から始まるのか、今一つ訳が分からない。感情が先走る情動的な人間であるというのは分かるが、だからと言ってそれで世の中を渡っていけるほど甘い世界に生きていたのか。小説世界は、現実世界とは別物ではあるし、そういう世界観を小説で構築できさえすれば、それはそれでいい問題だというのは知っている。しかしながらその世界観としてのリアルが、どういうわけか読みながら体になじむのに時間がかかってしまったのである。
行方の分からなくなった娘を探す元刑事の物語と、いじめにあっている青年の話が同時進行して語られるスタイルだ。時系列が異なっていて、どこかで交わることになるはずだとは思いながら読むわけだが、少し世界観が違うような気もする効果を生んでいる。もちろん最終的にはバイオレンスを通じて交わるが。
先に書いたように、共感はまったくできないまでも、なぜか読み進んでしまうような強烈な流れを持つ小説である。最後まで主人公の思考には、何の共感も無かったにもかかわらず、強引に物語に引き込まれるということかもしれない。こんなことをしていて、さらに先が望めるとはとても考えられないのだが、しかし先に進んでいくのである。追い込まれた上に、さらに追い込むような展開があって、普通なら精神がその前にどうにかなりそうなものだが、強烈な暴力の上に成り立つ強烈な設定が、なるほど読むものをアッと言わせる力になっているのかもしれない。物語全体がこのようなもので良かったのかどうか、いまだに疑問はあるものの、途中にあるいじめられた少年の置かれた選択の場面には、確かに凄い選択だと感心してしまった。以前究極の選択というゲームが流行ったが、まさにそういう究極のゲームなのかもしれない。逃げられない中で、自分ならどうなるのだろう。
ということで、読むのは不快を伴うが、なかなかに力のある作品である。普段はこういう小説は読んだりはしないが、こういう娯楽もあるんだということである。実は映画化されているものがなかなか借りられなかったので原作を手にしたのであるが、もう映画は観たくなくなってしまった。こういう設定を、映像で見るのはつらい気がする。僕は暴力は嫌いなのである。