カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

秘密裏の日本の諜報を読み解く   スターリン暗殺計画

2018-01-06 | 読書

スターリン暗殺計画/檜山良昭著(徳間文庫)

 第二次大戦の直前、日本が満州に進攻している時代に、ソ連からリュシコフ将軍が亡命してきたというニュースがあった。当時としては大変に話題になったのだが、その後報道は途切れ、歴史の中に埋もれてしまったかに思われていたのだが、あるルポライターがこの問題を掘り下げて取材し、既に高齢になっている当時の関係者を訪ね歩いてその後の消息を追っていくと、スターリンの暗殺計画という事に行きつくのだったが…。
 昭和54年に日本推理作家協会賞を受賞した作品らしい。当時のことはよく分からないが、多少は話題になった本かもしれない。高島俊男の過去の書評で知って古書で手に入れたが、そんなに流通している感じでは無かった。出張で鞄に入れてボチボチ読んだわけだが、これがなかなかのあたりという感じで引き込まれた。これだけの作品が埋もれてしまうのは非常に惜しい。
 綿密に資料が読み込まれ、現実に取材もされたことだろうことも見て取れる。しかし、これは完全にフィクションなのらしい。そういう史実をもとにしながら、実にサスペンスと謎解きが見事な構成の中で展開される。また、取材当時の現代的な問題も絡んで、謎解きは時に上手くいかなくなる。主要な人物は既に故人でもある。そうでありながら、実に読ませる内容なのである。骨太のドキュメンタリーと、あたかも映画作品のような場面が目に浮かぶようなのである。そうして羅生門めいた、いくつかの解釈があって…。
 歴史にIFは無い、と言われる。言われるが、もしこの計画が成功していたらどうなっていただろう。また、大きな歴史としての日本の運命も僕らは知っている。しかしその現代は、実は本当にものすごく細い時間の運命のちょっとした働き方の違いで、圧倒的な現実の流れが生まれてできたものなのではなかろうか。今でこそこうなってしまったという事ではあっても、その時代において、抗うように生きた人々がたくさんあってのことだ。良いとか悪いとか言う評論では無く、それでもさまざまな思惑をもって人は生きざるを得ないのである。いろいろと悪名高い満州の中の日本人たちにあって、当時の日本人がいかに未来を開いて生きようとしていたかまで、少しばかりは理解する糧にもなろう。何より面白いので、古本屋で見つけたら、即買うべき本である。
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