カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

小さくて巨大すぎる存在、ウイルス   ウイルスと地球生命

2017-05-22 | 読書

ウイルスと地球生命/山内一也著(岩波書店)

 ウイルスと言えば、人間にとって危険なものという認識が一般にはあるのではなかろうか。実際にインフルエンザをはじめ、ポリオ・ウイルスなど、名前を聞いただけでも恐ろしげな印象は消えない(実際恐ろしい)。また牛に感染する口蹄疫や、エボラや鳥インフルエンザも人間に極めて影響の高い驚異のウイルスとして認識されているものと思う。
 しかしながらウイルスというのは、そのような一面性のみで語られるものでは無くて、胎児を守るウイルスがあることもわかっているし、人間の存続には欠かせない存在であることもわかっている。またDNAの中にもウイルス由来の情報がたくさんあり、人ゲノムのなんと9%は、ウイルス由来の遺伝情報であるとされる。進化論では突然変異と経年による環境変化への対応という視点で語られるものであるが、実は進化の中心を担っているのは、ウイルスかもしれない(謎が多すぎるけど、無駄な証拠も多すぎる)。そうすると、僕らが今こうしてこの形でこのスタイルで生きているのは、ウイルス無しにはあり得ないことなのかもしれない。さらに人間より古く30億年前から地球にいるとされる昆虫類は、もっとウイルスとの共存は強固で、ウイルスと共存関係なくして生存がありえないとも言われている。あらゆる生体機能に、ウイルス無しには機能しない道を歩んでいるようなのだ。
 さらに地球環境としてもウイルスの役割は大きい。何故なら地球生命とウイルス研究というのはあくまで人間中心で行われており、人間や家畜周辺のウイルスしか明らかにされていない。様々な生命と関係を持っているウイルスの主な舞台は、実は海水の中にあるとされ、海の中の生物においても、重要な役割を担っていることが徐々に明らかにされている。海の中にいるウイルスは莫大な数になり、そのウイルスの働きによって大気に占める二酸化炭素の量も、左右されていることが分かってきている。地球の長期的な運命ですら、ウイルス無しに語ることは困難なのだ。
 ブックレットのような薄い本だが、内容はなかなか刺激的かつ啓蒙的だ。恐ろしいものを避けるだけの近視眼的な見方から、肉眼で見えないながら日常的なありふれたウイルスを知る為にも、もっと手に取られていい本である。
コメント
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