カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ケンカ売る相手が強くても、戦いますか?   プリオン説は本当か?

2017-05-06 | 読書

プリオン説は本当か?/福岡伸一著(講談社ブルーバックス)

 題名にある通り、狂牛病の原因とされるノーベル賞を受賞したプリシナーのプリオン説に疑問を呈したもの。2005年に現された論文というか未解決の話なのだが、いまだにはっきりとはその解決には至ってないような話だ(その反証が証明されている訳でもないから)。いや、日本人の弱いところである権威からいって(何しろノーベル賞だ)とんでもない説であると言っていいと思うが、しかしそうであっても、これがめっぽう面白いのである。もともと福岡さんの文章はものすごく上手いので、それだけでも凄いと思うのだけれど、やたらに小難しい論理が網羅されていながら、これがぜんぶは分からないにしても、ちゃんと読めるということが何より凄いのである。読めるだけでなく面白いのだから何とも言えない。疑問を呈している訳がだからプリスナーの説を否定しているのだけど、その否定されているプリオン説と言われるたんぱく質が病原体だという考え方自体が、もの凄く分かる気がする。支持していないのによく理解しているというか、科学者としてはそれは当たり前かもしれないけれど、支持者側の人が自分たちの理解のためにこの本を薦めてもおかしくないような説明の上手さだ。もっともコケにしているところも多いので、実際には薦めたりはしないだろうけど。少なくともこれを読んだ人は、いくらノーベル賞を受賞した説だということだけれど、やはりそういうことなら怪しいかもしれないくらいは、確実に思うことだろう。また、やはり科学の世界というのは、もの凄く厳密性にうるさくて、さらに複雑なことを根気よくやっているということが理解できると思う。これを読んだ親が、科学を志す子供に対して、不安になることは間違いないだろうけど(こんな仕事をやっていて本当にちゃんと飯が食えるのだろうか?)。
 もっとも福岡さん自身も、疑問を呈していながら、決定的にプリオン説を覆すほどの証明が出来ている訳では無い(既に12年も前だ)。その時点でこれを書いてしまったことは、十分に勇み足になる可能性も秘めながら、研究を進めているという訳だ。それなりに自分自身に確信があってのことだと思われるが、それでもまだ証明が難しいほどの、大変に危険な信念のようなものである。しかしながらだからこそ、この本の内容を読む価値があるという気もする。表には出ないばかりかほとんど理解されないだけで埋もれている論文の多くは、さまざまな仮説の元、ある意味で根本的に論理的根拠を持ちながらだけれど、そのような信念や勇気が無ければ書きえないものだろうということが見て取れるからである。間違っているかもしれないが、金脈を掘り当てたときはものすごくデカい。そういう思いに突き動かされて書かれているに違いないと思うのである。厳密にはギャンブルとは違うのかもしれないけれど、きわめてしかしギャンブル的なのだ。しかも、自分の生きている時代において、ひょっとすると単なるリスクでしかない可能性もある。福岡さんは文才があるので本を書いても生きていける才能は有ると思うが、しかしながら多くの研究者は、それでも研究をやめていないだろうことを思うべきではないか。人間というのは本当に面白い生き物である。
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