カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

理でひとの心は動かされる   殿、利息でござる!

2017-05-08 | 映画

殿、利息でござる!/中村義洋監督

 仙台藩内の宿場町吉岡ということころでは、いわゆる参勤交代などの折に物資の輸送を行う「伝馬役」という仕事を御上から課されていた。しかしこれが、藩から年貢を取り立てられるのみでなく、伝馬にかかる費用の一切を宿場町の百姓が負担せねばならず、その費用に窮して夜逃げするものが出るなどの問題となっていた。この窮状を何とかしたいという思いが宿場の人間には少なからずあったが、上告することは命がけであり、さらに御上が納得して現状を打開させられる案というものはなかなか出ないのだった。そういう中にあって、藩は実はお金に困っており、その金を工面することにより、いわば年の利息をもらうことによって伝馬の費用に充てることが出来たら、宿場の百姓の負担を格段に減らすことができるという考えに至る。しかしそのためにまとまった金(現在換算3億円あまり)を篤志家から集めるばかりか、武士の社会の人間たちを説き伏せなければならないのだった。
 キャストや宣伝の雰囲気から、コメディタッチの時代劇とばかり思っていた。しかしながらさにあらず、重厚なドラマを秘めた感動の連鎖を生む見事な人間劇になっている。いわゆる偉人伝というか、道徳的にも良い話ということではあるが、事は単純ではない。いや、単純なのにひどく困難な道が続く。困難の度合いが世代を超えた何十年という歳月を含むに至っては、何か人間の生き方や考え方そのものを揺るがすような衝撃をもたらすのだった。もちろん、それでも御上の人間の中にこれらの考えを全否定することも十分にできたはずで、しかし当時に人間であったとしても、その道理を理解して、いわば感動して動いたということが見て取れる。一般的に大ヒットするような話ではないのかもしれないが、この感動の連覇は、恐らく多くの人が味わうべき理なのではないだろうか。
 現代的視点からするとリスクばかりが多くて、さらに本当に利になるという確証さえなく、自己を捨てた人のためになるということへの慎ましく禁欲過ぎるありさまは極端である。考え方が非常に立派で、人の心を動かさられるものであるのは間違いないが、その実践の徹底さに至っては、本当に理解できるものが誰も無いという過酷さを経なければならない。実際に数十年前からその志を持っていた人物は、既に他界している。それも多くの人の誤解が解けないままである。だからそれは歴史が語りえる人間の崇高さなのであって、この話が奇跡的に完成しなければ事実として残らないばかりか、また、それを書き記す主要な人物が無ければならなかったのだ。人がどの時代に生まれ、どのように生きるかというのはある意味では勝手だが、出来ればこのような人々の心の連鎖が、何らかの形で続いて欲しいと思う。そういうことが、道徳教育では無く、このような映画によってなされる。娯楽としても優れている良質な映画ということができるだろう。
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