人は第一印象が大切だという。ほとんど当然という感じで解説をしてくれる人を何人も知っている。第一印象は見た目でほとんど決まってしまうので、身だしなみをきちんとするだけでずいぶん違うらしい。よれよれの服でないとか、髪に櫛を入れるとか、要するに鏡の前でチェックできる程度のことでも簡単にできるのだから、当たり前にやりなさい、ということらしい。できれば、少しはファッションの勉強もして、おかしくない、よりむしろ積極的に見た目を良くすることで、第一印象は格段にアップするということらしい。
まあ、そうだろうな、とは思う。しかしあえて僕は思うのだが、第一印象が良くないのは、果たしてそんなに良くないことなのだろうか。「なんだこの人、髪がボサボサで良くないな」と思ったりするのだろうか。
それというのも、実は僕はそんなことを思ったことがたぶん無いのだ。確かに第一印象があるのは当然で、妙な人だな、と思うこともあるし、なんかビシッと決めてるな、と思うことも無いではない。しかしながら、普通はそのあとにお話などをしたり、まあ、それなりに観察しあうということを経るわけで、結局その第一印象が良かったからどの人との関係が良かったというような覚えがまったくない。それよりもむしろ、人は第一印象では分からないものだというような経験の方が多くて、最初はしっかりしてそうだった人がぜんぜんそうじゃなかったり、ずいぶん年上だと思っていた人が案外若かったり、なんだか頼りなさそうな人が結構いい考えを持っていたりするようなことの方が圧倒的に多くて、ほとんど座右の銘といっていいくらいの教訓で、「人は見た目では分からない(判断してはいけない)」という思いを強くしている。
第一印象を良くする前に、することはたくさんある。むしろ第一印象を気にするくらいなら、もっと他のことを気にしてほしいとさえ思う。まったくどうでもよくないとまでは言えないかもしれないけれど(TPOくらいはあるから)、むしろ第一印象に気を配っている人というのは、なんとなくそんなオーラが感じられて、僕なんかは結構警戒してしまうくらいだ。
たとえば夏の暑い日なのに、ビシッと背広を着込んで訪問してくるセールスマンなんかがいるけど、そういう人とはまず真面目に話を聞かないし、むしろそんな無理していることからとても信用できる人とは思えない。
いろんな会で、いちおう背広とかブレザーなんかで会合を開くような催しがあるが、仕事の都合なのか、作業着だとか平服だとか、そんな格好の人がたまにいる。まあ、入会したてで慣れてないような人もいる。そういう人を見つけて、こんなことのために車に背広を準備するとか、日ごろから気を付けるべきだ、というような説教をする人が必ずいて、そういうのを聞くたびに「うへー」っと心の中で思う。説教をしている人が商売人だったら、明日からそことの契約は切ってしまおうとさえ思うくらいだ。他人の失敗のようなことに口出すのも感じ悪いし(そんなことは本人が分かってるだろうし、分かってないならそれはそれでいいことだ)、表面を気にする人とはできるだけ付き合いたくないものだ。
でもまあ僕は男だから、時々セクシーすぎる女性がいる場合は、妙に緊張はするのは事実だ。それが悪いということでは無いけど、まあ、慣れてないだけのことかもしれない。そうではあるけど、それが第一印象としてマイナスであるということはやはり無くて、やっぱり話をしないことには分からないことの方が多いんじゃなかろうか。いくらセクシーでもお話がくだらないのなら、普通に一緒に仕事をするようなことを続けたくはないだろう。しかし、僕らの業界にはそんな人は圧倒的に少ないですけど(セクシーにする意味が無いからだろう)。
もう付き合いは無くなったけど、だいぶ前に知り合いで、ちょっとヤクザ関係の人がいた。見た目は普通の青年で、話し方も普通である。でも紋々は入れているそうで、一緒にお風呂に入ったりしない。でも仕事だから、やっぱり暴力的なことはするらしい。そういえば、女の子の世話をしてもいいですよ、とも言われたことがあるな。でもまあ、これはちゃんとヤクザのような恰好をした方がいいと思いますよね。彼としてはそういうトラブルに巻き込まれた方が商売になるのかもしれないけど、堅気の人は、それでは困ります。ヤクザは分かりやすい恰好をしているから便宜を図られたりするという利点もあるんだろうけど、おかげで僕らも近づかないで済むわけだ。第一印象に気を付けるべきは、圧倒的にヤクザな人たちにお願いしたいです。