ジャンゴ 繋がれざる者/クエンティン・タランティーノ監督
西部劇で黒人がヒーローになっている復讐娯楽劇。米国南部で、まだ黒人が奴隷として扱われている時代に、ドイツから来た賞金稼ぎの男から救い出された黒人の青年が、銃の腕も上げて賞金稼ぎを手伝いながら復讐もやり、そうして別の農場主の奴隷にされている元妻を救い出そうとするストーリーだ。
いろいろと設定自体に冒険があるだけでなく、タランティーノ作品らしい過剰な暴力描写が売りのアクション作品になっている。差別的な描写や、人を陥れる手口や、また、人情を逆なでする不快な暴力が延々と続いていく。もちろんだから主人公が復讐を残酷に果たしていくことにカタルシスがある、妙な勧善懲悪作品になっている。素直に楽しんでも何の問題も無いが、何もかも過剰で行き過ぎで、そうしてかなり変な笑いが混ざっていて、面白いんだが困惑してしまう。ヤクザな人たちが悪ぶって嫌な感じの笑いが笑えない作品ばかりを撮ってきた監督だということを承知しているとはいえ、そうしてまあ、そうはいっても、後で激しいドンパチがあるんだろうことも了解しているのだけれど、この不快な場面を見せ続けられる身としては、いささか気分の悪くなりすぎるきらいはある。ディカプリオの演技も素晴らしく不快だし、サミュエル・L・ジャクソンはずっこけるくらいぶっ飛んでいる。いくらカタルシスがあると言っても、こんな世界で自由になっても、何の面白さも無いような気分になることもあるかもしれない。
まあおそらく、そのように困惑しながらもそれなりに楽しみ、やっぱり本当はよく分かっていないかもしれない観客を見て楽しむような趣味がタランティーノにはあるに違いなくて、そういう意味ではなかなか良くできた作品だと言えるだろう。決して好きな作品ではないが、やっぱり悪くない作品なのだ。分かっているとはいえ、してやられたわけだし、マザーファッカーな科白の数々に、少なからぬ喝采を送ってしまった。まったく人でなしになってしまったものである。こんな映画でも楽しめてしまうくらい人間というのはくだらない。そうしてだからこそ、映画を明日も見ようという気分にさせられてしまうのであろう。