道を歩いていると先の方に黒っぽいヒモのようなものが落ちている。ひょっとするとセメントの区切りに何か引っかかっているのかもしれないなとも思う。それにしても何となく変だな、というのはだいぶ近づいてから改めて思う。そうして本当に目の前になるとその紐は急に向きを変えて動くではないか。そう、ヘビさんなのであった。
温かくなってきたので道路でひなたぼっこをしているのだろう。ヘビさんにしてみるとのんびりしてるのに迷惑な話だろうが、こちらとしてもびっくりさせられて迷惑である。
溝の方から激しくガサッと言う音を立てて逃げ出す影もある。トカゲさんであることもあるが、これまたヘビさんが増えている。カラスヘビなどは場合によっては飛びかかってくる。びっくりたまげるだけでなく、ちょうど車が来ることになれば轢かれてしまうだろう。それくらい激しく飛び上がってしまう。
しばらく動悸がおさまらず難儀する。心臓が特に悪い訳ではないが、こんなことで死んでしまっても誰も気づかないかもしれない。もし原因が分かっても、ヘビに驚いて心臓発作で死んだなんて、家族は何と思うだろう。悲しいが滑稽で、きっと部外者には秘密にするに違いない。
それにしてもヘビに驚いて飛び上がってしまうと、そののち何となくバツが悪い。思わず周りを確認したりして取り繕う。それくらい見栄っ張りな自分にも嫌気を覚えるし、しかし飛び上がって驚いた様子を他人に見られるのもたまらない気がする。幸い人口密度の低い地区を歩いているのでめったに人に出くわすことは無いのだが、一人で驚いている事実が恥ずかしくないとも言えない。
恥ずかしくなっているのに無性に腹も立ってくる。なんでこんな目にあわされなければならないのだ。たかだかヘビの動いただけのことにこれだけの恐怖を感じるということが、人間の経験してきた原初的な恐怖心ということのような気がする。特にヘビに咬まれた経験もないくせに、これだけの怖さというのは異常ではなかろうか。
これはホラーというより、散歩の話題だったかもしれないですね。平穏に歩くというのはあんがい難しいことなのである。