風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「同潤会代官山アパートメント」

2022-07-22 | 読書

 
なかなかの本に出会った。
心に残るストーリーなのはこの年齢だからだろうか。
1928(昭和3)年に物語は始まり、
10年ごとに語り手を変えながら4代に渡る家族の物語。
朝ドラ「カムカムエブリバディ」にも通じるし
あるいは現代のガルシア・マルケス「百年の孤独」とも言える。
あえて名付けるなら大河小説だけれど
何気ない日常が描かれていてそこまでおおげさでもない。

でもね、人の歴史ってそういうものだよね。
若いうちは将来に不安を抱えながら結婚し、子どもが生まれ、
その子が結婚して孫が生まれ、自らは徐々に年老いてゆく。
社会では戦争があり、学生運動があり、バブルがあり
そして阪神・淡路大震災が起きる。
そんな社会情勢に翻弄されながらも人々は身を寄せ合う。
それをずーっと見てきたのは
1928年当時、モダンな鉄筋コンクリート造が人気だった
新築されたばかりの同潤会代官山アパートメント。
新婚で最初にここに入居した竹井と八重の物語から始まり
最後はそのひ孫まで出てくるけれど
実は本作の本当の主人公はこのアパートだろう。
はじめは若木の並木だった木が最後は森のようになり
そして老朽化により壊されていく。

結婚しない人もいるけれど
その人だって両親がいるからその人が存在している。
その両親も祖父母たちがいるから存在した。
祖父母たちもさらにその曾祖父母がいて・・・。
大昔から、歴史はゆっくりと、でも確実に時を刻んでいる。

「同潤会代官山アパートメント」三上延:著 新潮文庫
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