前回、子馬の病気、死亡原因として肺炎・下痢がその最たるものであるという報告を紹介した。
子馬の肺炎の原因となる細菌を調べるためには、気管洗浄液を採材し培養する。
314頭の子馬の気管洗浄液を培養して、Rhodococcus equi が分離された率を示したのが右のグラフ。
Rhodococcus equi による肺炎が、調べた子馬の肺炎の61.1%を占めていたことになる。
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子馬の Rhodococcus equi 感染症とFPT(血清IgG濃度)の関係も調べた。
3年間にわたって、707頭の子馬を30日齢と45日齢で血液検査と獣医師による診察を行った。
この日齢は子馬のロドコッカス Rhodococcus equi 感染症の多発日齢である。
R.equi のELISAによる抗体検査も行い、獣医師の診察も行っているので、少なくとも発症している子馬は見逃していないと考えても良いと思う。
707頭のうち574頭は生まれて数日間に血清IgG濃度も測っていたので、その血清IgG濃度を横軸にとって分布を示したのが左のグラフだ。
30日齢45日齢で行った検診やその後の臨床症状でロドコッカス感染症と診断された子馬は濃い部分で示している。
IgGが800mg/dl未満だった子馬は574頭中68頭で、そのうちロドコッカス感染症になったのは4頭(4/68;5.9%)。
IgGが800mg/dl以上だった子馬は574頭中506頭で、そのうちロドコッカス感染症になったのは16頭(16/506;3.2%)。
初乳からIgGを吸収できた子馬の方が、ロドコッカス感染症になる率はIgGが不足だった子馬の約1/2なのだが、統計的には有意差はなかった。
ロドコッカス感染症を発症した子馬の中にはIgGが2000mg/dlを越えていた子馬もいて、どうも移行抗体は子馬をロドコッカスから守るとはいかないようだった。
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この理由として、
・ロドコッカスは子馬特有の感染症で、母馬はロドコッカスに対する抗体を豊富に持っているとは言えないので、初乳中にも抗ロドコッカス抗体は豊富とは言えないこと(母馬のELISA OD値、初乳を充分飲んだ子馬のELISA OD値は高くない)。
・ロドコッカスは宿主の細胞内で生きられる特殊な能力を持った細菌で、抵抗するためには抗体のような液性免疫より細胞性免疫の能力が重要だと考えられること。
が、考えられた。
初乳により子馬にIgGを豊富に与えることが重要で、子馬がIgGを充分に吸収できたかどうかを調べておくこともたいへん価値があると書いてきたが、残念ながら初乳によるIgGが肺炎の最大の原因菌であるロドコッカスから子馬を守ってくれるとはいかないようだった。
このことは子馬のIgG値と感染症の関係を考える上で記憶しておく必要がある。
今日は内部の調査研究発表会だった。
H先生が子馬の下痢とくにロタウィルス Rota virus による下痢症についての膨大なデータの一端を報告してくれた。
生産地の子馬の下痢の実態について全体を把握できるような調査成績は見たことがない。
海外での報告も知らない。
そして、肺炎とともに子馬の感染症・病気の最たるものである下痢にロタウィルスが占める率は、そしてIgGとの関係は・・・・・・・・・また、今度。
ややこしい話につきあってくださってありがとうございます。
IgGは大事。しかし、すべてではない。ということでしょうか。
しかし!血漿輸血で子馬をロドコッカスから守る方法もそのうち書きます。
たぶん・・・・・
子馬のデーターを集めるのは競馬場では出来ないから、生産地の獣医師ががんばるしかないのですね。
子馬も共済が胎児から加入できるようになれば、子牛と同じように研究者が増えるのにね・・・
ロドについては南米で親馬に死菌ワクチンをうって子馬を守る方法が
実践されています。
馬のロタウィルスのワクチンは親にうつ不活化ワクチンが市販されています。
子馬の感染症の調査をする上では、ずいぶんJRA総研の力を借りました。
子牛を研究する人は子牛共済が始まって増えたんでしょうか?
新生児学は馬の方がはるかに進んでいると思います。
個体価格の差でしょうか。