メラノサイトーマが若い馬の頚部、四肢、体幹の体表に多いことは前回書いた。
何度か摘出を頼まれたことがあり、苦労せず摘出できるし、再発もないようだ。
真っ黒なので、「メラノーマだ」と言う人がほとんどだが、メラノサイトーマとメラノーマは区別しておきたいものだ。
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後は治療を頼まれるのは、やはり高齢の芦毛馬のメラノーマが排便障害とか、気道圧迫などの機能障害を起こしてきたか、自潰して酷くなってきたときだ。
しかし、診せられる頃には、手を出しようもなくなっていることが多い。
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以下、翻訳と要約。
馬のメラノーマにはさまざまな治療方法、外科的切除、凍結療法、化学療法、免疫療法、あるいはそれらの組み合わせなどが用いられてきたが、現在まで成功例は限られている。
メラノーマが周囲の組織からうまく分けられると思われる症状では外科的切除が推奨されてきた。しかし、馬の耳下腺部には重要な構造が複数あり、メラノーマが小さく、正常な耳下腺に囲まれていない限り、根治的な切除の妨げとなる。
凍結療法は単独で、あるいは他の療法と組み合わされて行われる。より大きなメラノーマを外科的に小さくしておくと凍結療法のプローブを正確に当て易くなる利点がある。しかし、耳下腺部にある重要な構造は、凍結療法のこの部分への使用も制限する。
シメチジン(タガメットほか)は、H2レセプターをブロックする機序により、サプレッサーTcellの活性をブロックし、間接的に免疫を賦活する。しかし、3ヶ月続けても効果がない場合はシメチジン治療は中止すべきだ。
馬で用いられる他の治療には病巣内化学療法がある。最もよく使われるのはシスプラチンである。これは、直接DNAと結合し、DNA合成を抑制する重金属化合物で、活発に分裂する細胞を死なせる。
シスプラチンより使われることは少ないが、病巣内免疫療法にBCGの注射も使われる。これは、メラノーマ抗原に対する細胞性免疫反応を引き起こし、メラノーマを退縮させると考えられている。BCGに対する馬のメラニン細胞性腫瘍の反応はさまざまである。
人医療では、非常に広域な全身性化学療法剤、とくにデカルバマジン、あるいはデカルバマジンと他の細胞毒性剤の組み合わせが人のメラノーマ、とくに播種性病変に用いられてきた。しかし、NRC(国立腫瘍研究所)は、30の調べられた薬剤のうち、患者の10%以上に満足する反応があったのは2剤だけだったことを報告している。
腫瘍ワクチンは、人のメラノーマに長い間用いられてきたが、(ほとんどの腫瘍ワクチンを用いた症例と同様)成功は限られている。おそらく、腫瘍の抗原性の弱さと、腫瘍内の抗原発現の不均質性、そして免疫反応から逃れる腫瘍の能力によるものである。
分子生物学の急速な進歩により、メラノーマの成長に影響を与えることが知られている抗メラノーマモノクローナル抗体やインターフェロンやインターロイキン2のようなサイトカインなどの薬剤の開発が可能になった。
人のメラノーマの治療にはこれらの薬剤が広く使われてきたが、現在まで成功はしていない。
モノクローナル抗メラノーマ抗体にラジオアイソトープを組み合わせるなどといった他の方法も評価を受けている最中である。
(Fintl and Dixon 2001)
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つまるところ・・・・・・状況によっては外科的切除ができる。シメチジン投与はやってみる価値があるかもしれない。
しかし、それらが効果がなければ、他の方法はまだ研究段階というところだろう。
メラノーマができるからと言って、芦毛を「毛嫌い」しなくてもいいんじゃないかという結論になっただろうか・・・・
暗く、黒い話になったようなので、夜明けの写真を載せておこう。
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医学用語の語源
metastasis ; 転移=meta(変化)+stasis(置く、静止) hemostasis;止血(hemo+stasis)
芦毛馬の腫瘍は知っていましたが、写真で見るとこんなに酷い物なのですね。
私も飼っていたセキセイインコが精巣腫瘍で亡くなりました。これはかかると摘出できないのでまず助からないそうです。
高齢の芦毛馬のメラノーマが、悪性化すると酷いことになりがちです。
腫瘍の治療方法も進歩していますが、やはり難しい病気であることは違いありません。