馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

Dr.Spirito 来る

2006-11-24 | How to 馬医者修行

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 ケンタッキーの有名診療所 Hagyard-Davidson-McGeeの外科のトップ、Dr.Spirito が来て、喉の手術をして 行った。

先生の手術を観たいと思ったら、コンタクトをとってケンタッキーまで行かなければならないが、あちらからやって来て手術を見せてもらい、いろいろ聞きたいことを教えてもらえるのでありがたい機会だと思っている。

とくに操作が速いとは思わないのだが、終わってみると早い。

術創は大きく開ける。しっかり見えるようにして、確実な操作をする。

術野をゲンタシン1gを入れた1リットルの生理食塩水で洗う。声帯切除した部分を縫合するなど、気を使う部分には非常に気を使っている。

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 今までにDr.Spiritoから聞いた印象に残っている言葉

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Never say, Never. 決して「できない」って言うな。

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(私っていう感じじゃないんだよね)がはじめて開腹手術したのは、1000回助手を務めてからだ。

                        


前肢の跛行と点頭運動

2006-11-23 | その他外科

Pb220036_2  馬の前肢の跛行診断のための秘術がこの図には示されている。

前肢の跛行診断に自信がある人でも、論理的に分析的に科学的に、点頭運動を説明できる人は少ないだろう。

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上の黒い線は、頭の動きを示している。頭が低くなる時が「点頭」ということになる。

下の青い線は跛行している右前肢の動きを示している。低いときは着地している時で、挙がっているときが前へ振り出している時。

左上は点頭運動パターン1.

右前肢が着地する時に、頭が一番高くなっている。その後、下がって上がってから、右前肢が上がっている時、つまり痛くない左前肢に負重しているとき一番頭が下がっている。

パターン1とは、跛行している肢を付く時に頭が一番高くなり、跛行肢を上げている時には一番頭が下がる点頭運動のパターン。

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右上はパターン2.

右前肢を付いている時、いっそう頭が高く上るということはない。ただ、右前肢を挙げている時、頭は一番下がっている。

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左下はパターン3.

右前肢を挙げている時、頭は一番下がり、右前肢に負重する時、頭が一番高くなっている。しかし、パターン1とは異なり、頭が一番高くなるのは、負重している最後の部分。

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右下はパターン4.

点頭運動といっても、頭が一段と下がるポイントはない。しかし、右前肢に負重をする最後に頭が一番高くなっている。

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前肢の跛行診断では頭の動きに注目するわけだが、頭が下がるポイント、頭が上るポイントどちらかだけを探していては見間違うことになるわけだ。

後肢の跛行についても診るポイントがあるのだが、それはまたそのうち。

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勝手に使わせていただいてごめんなさい Dr.Kevin G. Keegan。

この講演のDVDを若い先生達と観て勉強する機会を作りたいが、解説することも、同時通訳することも私には荷が重い。

身近にいる人で観たい人は言ってください。


エンデュランスの獣医師

2006-11-22 | How to 馬医者修行

 エンデュランス競技では、ただ速く完走すれば良いと言うわけではなく、馬が故障しないように気を使わなけPb190020 ればいけないし、馬を良好なコンディションでゴールさせなければならない。

その判定のために獣医師が関門にいてチェックする。

 しかし、獣医師のほうも、自らエンデュランスに出ている人や何年も係わっている人は別にして、結構戸惑うことが多い。

前にも書いた他、たくさん理由があるのだが、そのいくつかにまた気が付いた。

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 学生の頃から、「いきなり聴診器を当てるんじゃない。飼い主と話をして、動物の全体像を眺めて、一般状態をつかんでから、聴診に入りなさい。」と習った。

しかし、エンデュランス競技では、獣医関門に入った時間が順位に影響するし、入った後に心拍が落ちていないようだと、その時間を認めずにしばらく時間を置いてからまたチェックしなければならない。

だから、獣医関門に入ってきたらできるだけ速やかに心拍だけでも数えなければならない。

私は真面目なので(冗談です)、いきなり聴診器を当てて心拍を数えるというのにはどうもとまどう。

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 もうひとつ。

跛行している馬を診たら、診断して、治療したくなる。競技は問題じゃない。しかし、競技の審判としてはそれではいけない。

競技を続けられるかどうかが一番大事なことで、診断や治療を頼まれているわけではないのだ。

脱水している馬を診たら、休ませたくなる。別に輸液したいわけじゃないけど・・・・・・

判定するだけというのにはどうもとまどう。

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 日頃、診療するときは、診断・治療を依頼されているので獣医師に診察を受けることが目的で来院したり、往診を待ったりしてくれているのだけれど、エンデュランス競技の時は違う。

ライダーやクルーは、できれば馬の異常を見つけて欲しくないし、競技を中止させられたりしたくないと思っているだろう。

そのへんの差も大きいかな?

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Pb220031 朝は雨。Pb220034

午後からは強風。

海の荒れ方は・・・・なかなか見事だった。


tは大文字Thoroughbred

2006-11-20 | 学問

Pb200027_2 研究社英和辞典の thoroughbred の項。

名詞としてでも、純血種の馬(犬)の意味があり、頭文字を大文字にすると サラブレッドという英国原産の競走馬用の品種 の名前になる。

育ちの良い人、教養ある人を指すこともある。そのときは頭文字は小文字。

馬の種類として書くときは、Thoroughbred と書くべきなのだ。

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USA、英国の獣医関係雑誌を確認してみた。

馬の種類は頭文字は大文字で記載されている。

Standardbred,

Warmbloods,

Pb200030_1American Paint Horse, etc.

全部、頭文字は大文字。

「thoroughbred」と書くと、「サラブレッド」の意味ではなくなってしまうようだ。

頭文字 T!


エンデュランス 二日目

2006-11-19 | How to 馬医者修行

Pb190016 エンデュランス2日目。

スタートは夜明け前。

Pb190017 右は暗いので夜景モードで撮った失敗写真。

スローシャッターになってひどくブレた失敗写真だが、なんとなく幻想的で、抽象画のようなので載せておこう。

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 獣医関門で、チェックをしていたら、1頭明らかな跛行を示していた。40km、60km、80kmという長距離、超長距離を走った馬は、疲れて、歩き方、走り方もおかしくなっている。

それは当たり前ながら、どこかの肢が明らかに痛いとなると、故障を悪化させないためにも競技を中止し手当てしなければならないし、競技の性格上失権としなければならない。

この日のために準備し、遠路参加した方には気の毒だが、失権とさせていただいた。

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 審判長であり、私の「馬」の師匠であり、永年馬術界に貢献してこられたK先生、大ベテランのU先生、きのうは出場もされたS先生の馬の見方、判断の仕方はたいへん参加になった。

獣医チェックの長~い合間にした、先生方との馬談義、馬術談義も興味深く、たいへん勉強になった。

馬の獣医師とは言いながら、自分がいかに、特定の年齢の、特定の目的のサラブレッドのだけを診ているのかを知らされた。

ドサンコ、あるいは種類の不明なエンデュランス用の馬たちの歩様は、出走前からサラブレッドの歩様とは違っている。

だいたい、体型から、蹄から、肢つきから違うのだから。

脱水を判断する方法の一つとして、皮膚テントの戻りを使うが、皮膚の厚さ、皮下脂肪、毛の質が馬の種類によって異なる。

口の粘膜の色は、日高のサラブレッドより薄い。ほとんど貧血色。というか、サラブレッドは特別赤いのだろう。

「馬」医者。を名乗る者としては知識、経験、技術の幅を広げたいと思う。Pb190024_2

そのことは、日常のサラブレッドの診療にも役に立つはずだ。

なかなかアウトドアな、良い二日間だった。