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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

切胎2例

2017-03-15 | 繁殖学・産科学

土曜日の午後、「後肢が産道に入って来ている難産で、胸で切胎したが出せない」との依頼の連絡。

そうなると、出せなければ帝王切開しなければならない。

到着したら、すぐに全身麻酔した。

私は、自分で難産を処置するのは今シーズン初めてじゃないだろうか?

子宮弛緩剤を投与する。

片方の後肢は産道に入って来ているので、簡単に繋にチェーンをかけることができた。

それを引張ってもらうと、残りの片方の蹄にも手が届いたので、チェーンをかけた。

トロトロの潤滑剤をストマックポンプで入れる。

引張ると、下半身が下胎向で産道に来たので、捻って反転させて引っ張り出した。

                      -

月曜の夜中、というか火曜日になったばかりの時刻。

「初産予定まで2週間の馬で、両前肢の腕節が屈曲していて出せない」との依頼。

すぐ全身麻酔した。

私は、麻酔係を担当していたのだが、30分経っても失位整復が進まないので、長袖の直検エプロンを着けて、直検手袋を着けて、手術用の手袋を着けた。

羊水にアレルギーがあるので、完全装備でやらないと後で皮膚が痒くてひどいことになる。

手を入れると、後肢も産道へ入って来ている。帝王切開するつもりがあるか、飼い主に訊く。

屈曲している腕節にしか届かないので、まず中手骨にチェーンをかける。

それを引張ってもらうと、球節に手が届くので、繋に別のチェーンをかける。それを引張って、とりあえず両前肢と頭は産道へ来た。

潤滑剤を入れて、両前肢と頚をひっぱってもらう。仔馬はとうに死んでいる。おそらく死産だったので、失位のまま押し出されてきて難産になったのだ。

産道に入って来ている後肢がはずれないか仔馬を捻ってみる。

やはり引き出せないので、胸椎部で切胎した。

産道に入ってきていた後肢の繋にチェーンをかける。

しかし、残りの後肢は膝しか触れない。

どちらが脛でどちらが大腿かもわからない・・・・・が、なんとか中足骨を触れて、そのうち蹄に手が届いた。

繋にチェーンをかけて、あとは引張り出すだけ。

トータルで1時間ほどの処置になった。

                       ---

近所の牧場だったので、来院前に準備をしておく時間がなくて、診療室から準備室まで血と羊水と胎便でひどく汚れた。

実習生が4人居たので、麻酔に、難産牽引に、掃除に大活躍してくれた。

次の日、「獣医繁殖学・産科学」を見せて説明する。

分娩にまつわる事故はとても多く、産科学はとても大切。

しかし、大学ではほとんど産科を教えない。

今の獣医繁殖学の教科書にも産科の記述は少ない。

残念なことだ。

                       //////////

君は安産だったのかね。

 

 

 

 



4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (はとぽっけ)
2017-03-15 07:53:37
 精神的にも疲れそうな時間。
 実習生さん大活躍!元気なあかちゃんが生まれる場面にも立ち会えるといいですね。
 わんこ、安産と言われているど、子犬が離乳食に群がる様を見ていると、もし、うまれるときもこんなだったら、詰まるナ、といつも思います。そもそもちゃんと産まれる仕組みにはなっているのでしょうね。
 オラ君、産まれて、出会えて、よかったね!お天気
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Unknown (piebald)
2017-03-15 09:56:43
大学の授業を、「産科」から始めれば、命の誕生から学べますね。
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>はとぽっけさん (hig)
2017-03-15 17:39:07
イヌ、ネコは安産がほとんどです。数を産むし、手足が短いからでしょう。最近、獣医科大学の臨床も小動物にシフトしているので、ますます産科は教えなくなっていると思います。
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>piebaldさん (hig)
2017-03-15 17:42:20
生き物が生まれるところから教える、というのはすばらしいことですね。
ただ、異常にどういうふうに対処するか、ということになると、産科は実に高度で複雑な知識と技術が必要です。繁殖学はもちろん、帝王切開には麻酔と外科が必要ですし、新生仔管理は内科の中でも特別な注意が必要です。そして生産牧場の経済を考える経験も必要です。
ヒトのお医者さんで、一番何にでも対応できる可能性を持っているのが産婦人科医だと聞いたことがあります。
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